途切れることなく7年目! 埼玉県の高校生講習

▲教習所の一室で行われた開講式の様子。屋外で行うこともある

 

県教育委員会主催による検討委員会での議論の末、2018年に三ない運動を廃止した埼玉県は、翌年度から“乗せて教える”交通安全教育について、県内全域(6地域)で安全運転講習会を行うという形で継続している。

その講習会「高校生の自動二輪車等の安全運転講習」も今年度で7期目(7年目)を迎えている。コロナ禍でも感染対策をしたうえで途切れることなく続けられたが、その過程では運転実技にしろ座学講習にしろ多くのトライ&エラーが行われ、改善による成果と関係者の熱意が講習会の細部に宿っている。

▲乗車前点検では“ブタと燃料”(ブレーキ、タイヤ、灯火類、燃料残量)の確認方法などを教わる

 

今年度の講習内容でもそうした新たな取り組みや改善を見ることができたので、今期初回となる6月15日(日)に開催された秩父地域の3年生向け講習会の模様を交えつつ紹介したい。

なお秩父地域は県内でも公共交通の乏しい地域であり、三ない運動下でも特例として原付免許の取得と原付バイクによる通学が許可されてきた地域であり、他の地域より受講生が多いことから3回に分けて開催されている。

バイクに乗る前の取り組みが重要である理由とは?

▲実技運転の前に、指導員が生徒のバイクを点検している

 

講習会は早朝の受付・開講式ののち、ストレッチ体操、乗車前点検・安全装具・乗車姿勢のレクチャーと続いて、以降はグループごとに各会場に向かうという流れで行われる。それぞれのグループは、運転実技、座学講習、静的実技、応急救護と分かれている。

メインとなるのはグループごとの各講習ということになるが、実はとても重要なのが乗車前点検・安全装具・乗車姿勢といったレクチャーだ。これらは学校現場ではなかなか指導できないことであり、違反行為や交通事故につながる要因となり得ることから、高校生の安全運転を推進するうえでとても重要な取り組みとなっている。

▲指導員の点検時に直すべきところが見つかった場合は、部位の名称が書かれたマスキングテープがメーターに貼られる

 

埼玉県は、三ない運動を廃止して、保護者同意の上での学校への届け出制としたわけだが、だからといって学校側で生徒に対して免許取得・バイク乗車に関する指導ができるようになったわけではない。学校安全などを担当する生徒指導の先生でもバイクのことはわからないことがほとんどだ。

スクーターを主とする原付バイクは、自動二輪車に比べると販売店を訪れて点検・整備を受けるといった機会が少ない傾向にあり、これがスリップなどの単独事故につながる可能性もある。また、ささいなカスタムが法令違反となることを知らずに乗り続けてしまうこともある。

さらには、ヘルメットを正しくかぶらない、プロテクターを装着していないといったことが事故の際に大けがにつながったり命を落とすことにもなりかねない。

▲ヘルメットの正しいかぶり方、胸部プロテクターなど安全装具の重要性も教わる

 

こうした危険を未然に防ぐという点で、年に1度ではあるが、本講習会において具体的なチェックとレクチャーが受けられるというのはとても価値のあることだろう。

運転だけじゃない! 実技の重要性と意義、工夫

▲応急救護も実技のひとつ。心肺蘇生法とAEDの使い方を実践する

 

実技は、教習所内コースでの運転に加えて、応急救護の講習のなかで心肺蘇生法(主に胸骨圧迫 ※心臓マッサージ)とAED(自動体外式除細動器)の使い方も実践する。

運転実技は会場となる教習所によってコースづくりが多少異なってくるが、以下の課題が盛り込まれている。

①ブレーキング(目標制動ほか)

▲パイロンを停止位置とした目標制動を行う生徒

 

②コーナリング(定速旋回)

▲指導員のデモンストレーションを見学する生徒。25km/hならはみ出ずに曲がれるのに30km/hになると飛び出してしまう

 

③千鳥走行

▲2本のパイロンの間をゆっくりジグザグに走り抜ける千鳥走行。バイクを傾けずハンドルを曲げながらバランスを取る

 

④坂道発進

▲坂の途中でいったん停止したのち再び発進するのが坂道発進。発進時は後方確認が徹底される

 

⑤Uターン

▲公道を想定した右回りのUターン。多くの生徒が目線の送り方を指摘されていた

 

⑥遅乗り

▲決められた枠の中を足をつかずにどれだけゆっくり走れるか(長い時間いられるか)という遅乗り

 

▲遅乗りの課題にはゲーミフィケーションが取り入れられており、枠の中に長い時間いられた上位入賞者には二輪業界団体からTシャツがプレゼントされた

 

⑦パイロンスラローム

▲スラロームに目標時間は設けない。目線を少し先に送り、車体を傾けずにハンドルをしっかり切って曲がり続ける

 

さらにコース内には、バイク事故の中でも特に多いとされる事故類型(交差点での右直事故、出会い頭事故)や公道走行時の危険を体感できるような危険予測・体感ポイントが設置されている。

①交差点でのすり抜け・巻き込まれ事故

▲右折待ちのクルマ(ハイエース)の左横を通る(すり抜ける)ことの危険性を伝える。クルマに急に左折をされて巻き込まれたり、歩道を渡る歩行者と事故になる可能性もある

 

②交差点での右直事故

▲交差点内に右折車両を置き、右直事故を想定したシーンが作られている。交差点に潜む危険を安全に体験できる

 

③見通しの悪い交差点での出会い頭事故

▲街路樹で左右の見通しが悪く信号機のない交差点。住宅街などに多く、出会い頭事故が起きやすい状況を体験する

 

▲見通しが悪いので数度に分けて交差点内に進み、左右をしっかり確認してから曲がる

 

受講生はコースを数周するなかで指導員にアドバイスをもらいつつ、バイクの挙動や特性、運転操作の難しさとコツ、事故に遭わないための危険予測の重要性など、多くの体験と気づきを得ることで安全運転というものを習得していく。

交通社会人の育成へ具体的なアプローチとなる

交通安全普及活動や教育の現場でよく聞く言葉に“交通社会の一員”“交通社会人の育成”というものがあるが、そうした理想に向かって具体的にアプローチできているのが本講習会だ。

埼玉県は参加生徒の受講料も負担し、まさに県を挙げて、交通社会人の育成に全力で取り組んでいる。三ない運動という高校年代の教育現場に蔓延した“事なかれ主義”に決別し、法律で免許を取得できる子どもたちが生涯にわたって事故に遭うことのないよう、自主自律の教育を推進しているのだ。

後編では、本講習会での座学講習や三ない運動廃止以降の事故状況なども見ながら、この取り組みについてさらに考察していく。

【関連記事】
埼玉県の高校生講習! 教育委員会と警察本部は何を伝えているのか?
5年目を迎えた埼玉県の高校生講習! 改善と進化が続く!<前編>
5年目を迎えた埼玉県の高校生講習! 改善と進化が続く!<後編>

 

 

 

 

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事