バイクは1台あれば充分に楽しめます。では、なぜ「もう1台」が欲しくなるのでしょうか。
長距離を走るなら、もっと余裕のあるバイクもいい。近所を気軽に走るなら、小さくて軽いバイクも楽しそう。林道へ行くならオフロード車も欲しくなるし、古いバイクを見れば、「こういうのも一度は乗ってみたいな」と思う。
そして頭の中に、あの言葉が浮かびます。
「もう1台あってもいいんじゃない?」
なかなか危険な言葉です。バイク好きにとって、この「もう1台」は、案外簡単に現実になります。
1台には、1台の楽しさがある
1台のバイクと長く付き合う。これは、とてもいいものです。
乗るのもそのバイク。洗うのもそのバイク。ツーリングへ行くのもそのバイク。長く乗っていると、エンジンの調子や操作の癖も分かってきます。
「この傷は、あのとき付けたやつだ」
なんて覚えていることもあります。どこへ行ったか。誰と走ったか。どんな天気だったか。長く乗ったバイクには、そういう具体的な記憶が少しずつ増えていきます。
1台をじっくり乗り続けるというのは、それだけで充分に幸せなバイクライフだと思います。でも、それが唯一の楽しみ方というわけでもありません。
2台になると、できることが増える
もう1台、違うタイプのバイクが加わると、楽しみ方はかなり変わります。
たとえば大型ツアラーと小排気量車。高速道路を使って遠くへ行くなら、大きなバイクは頼もしい。一方で小さなバイクなら、近所の細い道を気軽に走ったり、「この道、どこにつながっているんだろう」と寄り道したりしやすい。
今日は遠くまで行きたい。今日は近所だけでいい。今日は速いバイクに乗りたい。今日はゆっくり走りたい。
そんなふうに、その日の気分や目的によって選べるのは、複数台所有の面白さです。
「今日はどれに乗ろうかな」
と考える。その選択肢があること自体、なかなかぜいたくな話です。

バイクには、それぞれ得意なことがある
すべてを完璧にこなすバイクというのは、なかなかありません。
長距離に強いバイクもあれば、街中で気軽に乗れるバイクもある。荷物をたくさん積めるバイクもあれば、ワインディングが楽しいバイクもある。林道へ入りやすいバイクもあります。
実用性だけでなく、「見た目が好き」という理由で乗りたくなるバイクだってあります。だから、1台持っている人が、
「今度はまったく違うバイクにも乗ってみたい」
と思うのは、自然なことだと思います。
実際、違うタイプのバイクに乗ってみると、それまで乗っていたバイクの特徴も改めて分かったりします。
「ああ、このバイクって、こういうところが楽だったんだな」
逆に、
「こんなところは別のバイクのほうが便利なんだな」
と気づくこともあります。そうやっていろいろなバイクを知っていくのも、この趣味の面白さなのでしょう。
ただし、台数が増えると「管理」も増える
もちろん、楽しいことだけではありません。バイクが増えれば、手を掛けるものも増えます。
タイヤ、オイル、バッテリー、税金、保険。車検が必要なバイクなら車検もあります。洗車だって、1台なら1台分。5台なら5台分です。
当たり前ですね。
個人的な感覚では、3台くらいからでしょうか。「所有している」という感覚に、「管理している」という要素が少しずつ加わってきます。
今日はこっちに乗った。そういえば、あっちはしばらく動かしていない。そろそろ空気圧を見たほうがいいな。そんなことを考える機会も増えます。
そして、どうにもならない問題があります。
バイクが増えても、時間までは増えない。
2台持ったから休日が2倍になるわけではありません。5台持ったから1日が120時間になるわけでもありません。
残念ながら、そこだけは平等に24時間です。

バイクには「所有する喜び」もある
では、乗る機会が少ないバイクは、持っている意味がないのでしょうか。私は、そうとも思いません。
バイクを手元に置いておく理由は、人それぞれだからです。昔から欲しかった。思い入れがある。誰かから受け継いだ。デザインが好き。使い勝手がいい。あるいは、理由をうまく説明できないけれど、なんとなく手元に置いておきたい。
そんなバイクもあると思います。
バイクはモノであり、道具です。でも、モノだからこそ残しておけるものもあります。昔走ったときのことを思い出すきっかけになったり、誰かとの出来事を思い出したりすることもある。
そして、走らせるだけではなく、「自分のバイクとしてそこにある」こと自体が嬉しい。そんな感覚も、バイク趣味には確かにあります。
走らせて楽しい。整備して楽しい。眺めて楽しい。
所有する喜びも、バイク趣味のひとつです。
「もう1台」が欲しくなるのも、バイクの楽しさ
販売店に行ったり、雑誌やWebサイトを見ていると、次々と気になるバイクが出てきます。
新型車も気になる。昔欲しかったバイクも気になる。今まで興味のなかったジャンルが、ある日突然面白そうに見えることもあります。
「これに乗ったら、どこへ行こう」
そんなことを考える時間も、けっこう楽しいものです。
欲しいバイクが増えるのは、悪いことではないと思います。それだけ興味が広がっているということでもあります。
実際に乗り換えたり増車したりすれば、それまで知らなかった楽しみ方に出会うこともあるでしょう。
「こんなバイク、自分には必要ない」
と思っていたのに、乗ってみたら妙に気に入る。
そんなことが起きるのもバイクです。だから、「次は何に乗ろうか」と考えること自体、この趣味の楽しさのひとつなのだと思います。

では、何台あれば幸せなのか?
結局、ここに戻ってきます。
1台でしょうか。2台でしょうか。3台? それとも、置けるだけ?
たぶん、正解はありません。
1台を長く大切に乗り続ける人もいる。用途の違うバイクを何台か持つ人もいる。気に入ったバイクを集めることそのものが楽しい人もいる。
どれが正しいという話ではありません。大事なのは、他人が何台持っているかではなく、自分がどう楽しみたいかなのでしょう。
ちなみに私は今、5台持っています。
全部に充分乗れているかと聞かれれば、まったく乗れていません。
では、もう1台欲しいか。
今は、いりません。
今あるバイクで、充分に楽しめています。
ということは、幸せというのは台数そのものではなく、
「いまあるバイクで満たされているか」
なのかもしれません。
では改めて聞かれたら、どう答えるか。
「バイクは何台あれば幸せですか?」
今の私なら――5台。
つまり、今は、きっと幸せなバイクライフを過ごしているということですね。
でも、もしかしたら明日、バイク屋さんで運命的な一台に出会うかもしれません。実車を見て、またがって、
「……これ、いいな」
なんて思ってしまうかもしれない。
そうしたら、6台目が増えているかも。
それはそれで、きっと幸せな人生なんだと思います。
(おしまい)

