8月19日(水)、東京・秋葉原において「8月19日はバイクの日 HAVE A BIKE DAY」イベントが開催された。本稿では、その展示内容とそこに込められた意図・意義を振り返るとともに、二輪業界・市場の現況と今後の予測を踏まえて本イベントに対する提言を行いたい。
「バイクの日」イベントの背景と趣旨
1989年に政府がバイク事故撲滅を目的として制定した「バイクの日」に合わせ、毎年8月19日には交通安全意識の啓発とバイクの有用性・利便性の普及を目的としたイベントが開催されている。
広く一般に向けた情報発信を行うため、近年は情報発信力の高い東京都心が開催地として選ばれており、若者の街、ビジネスの街として知られる秋葉原での開催が定着している。
また、バイクの日は平日にあたるケースも少なくないため、昨年からは午後から夜にかけて(14時〜20時)の開催へとシフトし、仕事帰りのビジネスパーソン層が立ち寄りやすい環境づくりが進められている。

▲主催者と来賓が集合したフォトセッション。自工会二輪車委員会メンバーをはさんで前列右端に内閣府交通安全対策担当参事官の山崎律子 氏、左端に警視庁交通部交通総務課長の砂田武俊 氏
業界の転換点と「新基準原付」への期待

▲会場の入口には発売中の新基準原付モデルが展示されていた
主催を務める日本自動車工業会(自工会)および日本二輪車普及安全協会は、報道向け案内書面のなかで、2026年を二輪業界における重大な転換点と位置付けていることを記している。
背景にあるのは、2025年11月に適用された排ガス規制によるガソリン50cc原付の生産終了であり、その主要な代替モデルのひとつである「新基準原付」への本格的な移行が急務となっているためだ。
今年は、最も注目を集める会場の出入口に、発売中の新基準原付モデル2種の展示紹介スペースが設置された。来場者が代わるがわる実車にまたがり、細部を確かめる姿が見られるなど、新たなモビリティに対する関心の高さがうかがえ、開会の挨拶に立った自工会の設楽元文二輪車委員長も、新基準原付について「好評で想定以上の反響があった」と伝えている。

▲開会の挨拶をする自工会の設楽元文(したら もとふみ)二輪車委員長。新基準原付について「好評で想定以上の反響があった」と伝えた
新車市場の高齢化と「分断市場」の課題

▲来場者を「潜在的ライダー」「実用派ライダー(写真)」「求道派ライダー」「リターンライダー」の4タイプに分類したうえでのモデル展示を行った
夕方以降の会場には、ワイシャツにスラックス姿の40代〜50代とみられるビジネスパーソンが目立ち始め、同僚とバイクにまたがっては「クラッチの感触が」「前傾姿勢が」と熱心に語り合う光景が広がっていた。
しかしその一方で、自工会の『2025年度二輪車市場動向調査』によると、新車購入ユーザーの平均年齢は56.5歳となっており、新車市場の高齢化は着実に進行している。
二輪業界による若年層向け施策の展開やライフスタイルを重視する第12世代バイクブームの影響もあり、若年層との一定の接点は構築されつつある。しかしながら、バイクの所有と運用に関わる金銭的・制度的・利用環境的なハードルは依然として高いままだ。

▲仕事帰りのビジネスパーソン層も来場し賑わっていた
現在の市場は「乗れる大人、買える大人のための成熟したモノ・コト」が大半を占める一方で、若年層のためのエントリーモデルや入門者向けサービスについては十分とは言えない状況が続いており、開発から販売・サービスに至るまで顕著な「分断市場」となってしまっている。
「バイクの日」イベントでも、明確に若年層を対象にした展示内容はほとんど見られない。ガソリン50cc原付が生産終了となったいま、新基準原付や電動原付など、原付免許や自動車の免許で乗れる「バイクの入口」となるようなモデルとそのサービスについて、改めて注力すべき時ではないだろうか。
今後の方向性と技術革新への期待
現在の国内二輪市場は、物価高騰による購入・維持負担の増加、国際競争の激化、主要な購買層の高齢化など、多くの構造的課題に直面している。
中高年層には再び、若年層には新たにバイクへ関心を持ってもらい、実車に触れてもらうためには、限られた展示スペースと発信内容の中で、より計画的かつ戦略的なアプローチが求められるだろう。

▲トークステージは3回開催された。ユージさん、平嶋夏海さん、柏 秀樹さんらは「あの頃とは違う!令和の『カッコいい』を作るライディングマナー・アップデート」と題して世代を超えたマナーアップ論を展開
第二次ベビーブーム(団塊ジュニア)世代を含む中高年層と、これまでバイクと接点を持たなかった若年層の双方に共通する心理的障壁は、「バイクに乗ることの大変さと難しさ」という概念にある。このハードルをいかに押し下げていけるかが、今後の市場の維持・拡大の鍵を握っている。
例えば、マニュアル・トランスミッション車両のクラッチ操作を自動化するなど、電子制御・機械技術の進歩は、こうしたイベントの場でこそ強くアピール・情報発信すべき要素である。

▲女性がまたがる姿が多く見られた「ホンダ CBR400R FOUR E-Clutch」。クラッチ操作を自動制御し、クラッチレバーの操作をせずともシフト操作が可能だ
ひと昔前ならステップアップ後でなければ勧められなかったようなスポーツ性の高いバイクも、さまざまな電子制御技術のおかげで、若年層・ビギナー層・リターン層といったライダーにも「初めてのバイク」として勧められるようになっている現状は、もっとアピールされてよいはずだ。
人だかりのなかに見えた課題と今後の展望

▲展示車両にまたがる自工会・佐藤会長。各メーカーのバイクにまたがり説明を受けた
さて、今年、関係者の間で大きな話題となったのが、自工会の佐藤恒治会長(トヨタ自動車副会長・CIO)による視察だ。
関係者による人だかりができるなか、スクーターからスーパースポーツまで国内4社のバイクにまたがり、各社の二輪事業責任者に様々な質問を投げかけたほか、自治体PRブースや出展者との記念撮影にも笑顔で応じていた。
その姿は、多くの関係者に安堵と期待を抱かせたかもしれないが、前述したように、国内二輪市場には数多くの課題が存在する。
業界団体は、今後10年で顕著になるだろう現ボリューム層引退による「市場の崖」に対して、戦略的な視点をもって臨むべきであり、そのためには佐藤会長に見せるべきもの、聞かせるべきものを一層精査すべきではないか。
イベント会場の楽しそうな雰囲気を見て、視察が商品の魅力や会場の賑わいを伝えるだけにとどまっては惜しい。若年層の参入障壁や、生活の足としての二輪車が抱える課題も、併せて共有する機会にしてほしい。

▲自工会の佐藤会長(右)に自社製品の説明をするホンダ執行役常務・二輪・パワープロダクツ事業本部長の加藤 稔 氏(左)
例えば、トヨタの本拠地である愛知県や、ヤマハ・スズキの本社がありホンダ創業の地でもある静岡県をはじめ、法令上は16歳から原付免許を取得できる一方、校則で取得を禁止・制限している高校もある。
バイクの安全運転を啓発することはもちろん重要だが、それ以前に、原付免許すら取らせてもらえない高校生が現にいる。
自工会の会見では“550万人が働く自動車業界”という言葉が頻繁に使われるが、パーソナルモビリティの入り口で機能不全を起こしているような国で、はたしてモビリティ革命が成功するのだろうか。
現在進行形のモビリティ改革のなか、自動運転やMaaSから遠いところにあるバイクだけが取り残されないよう、「バイクの日」イベントのあり方、そして二輪業界が直面する構造的課題について、改めて真剣に向き合うべき時が来ている。

▲佐藤会長を中心に集合した自工会二輪車委員会のメンバー(国内二輪4社)。左端は元国交省の江坂行弘常務理事
