屋根のないバイクならではの感覚
頭上に広がる空の大きさ、青さ、色彩をたっぷりと堪能できるのは、オートバイならではの魅力のひとつ。
広大なアメリカを走れば、空はいっそう広く、解放感もより大きい。意味もなく空高く腕を突き上げたり、ステップに立ち上がったり、まるでそこにある空間までもが、自分のものになったかのような錯覚に陥り、心を解き放つことができていく。
自分の心と体が、そのまま大気に溶け込んでしまうかのよう。屋根や窓のあるクルマなら、自分のテリトリーが明確に定まって、それが安心材料にもなるのかもしれませんが、全身を剥き出しにして走るライダーの意識に、そんな境界は存在しません。
全身を包み込む空気は、エアコンの空調などもちろん効いておらず、風も匂いも砂埃もすべてその土地にあるものです。
たとえ時速70マイルで一瞬のうちに通り過ぎようとも、バイクなら正真正銘その場所にいたことになるのではないでしょうか。その土地のすべてを、身体で浴びているのですから。
前回、前々回と、アメリカ・フロリダ半島をツーリングした時の話をココに綴っています。今回は第3話となります。
これを書いている今、現地は大型ハリケーンの被害に遭い、犠牲者も出ているとニュースで報じられています。これ以上の被害がでないことを祈りつつ、10年前に訪れた時の穏やかな景色とともに、備忘録として残しておきます。
アメリカを走るならやっぱりハーレー
グリップ位置の高いハンドルに両腕を伸ばし、前方に両足を投げ出すようにして走るハーレーは特に気持ちが開放的になり、ずっと長く走り続けているうちに自分の境界やテリトリーが曖昧になっていく不思議な感覚に陥ります。
ハンドルを握って、ただただ走るだけ。名も知らない異国の町に自分が放り出され、調和していくのを感じることができ、これはフェアリングに隠れるよう小さくうつ伏せになって乗るスポーツバイクでは、味わえないものかもしれません。
道は果てしなく真っ直ぐに伸び、終わりなど感じようがない圧倒的な広さが、アメリカをバイクで走った時ならではの感覚であり、物理的にも精神的にも圧迫感など微塵もなく、それがボクには嬉しくてたまらないのです。
朝から日が暮れるまで、延々と走り続ける間に現れる片田舎の物憂げな街なみ。アメリカにならどこにでもある、平凡な風景です。
たとえば荒野を抜け、ようやく辿り着いた名もない小さな町。入口で極端に落ちるスピードリミットを守りつつ街に入っていくと、ファストフードやガスステーションが現れ、そして昔からそこに住む人々が集うささやかなメインストリートがあります。
その辺りでやっと歩行者が姿を見せ、さらに信号をいくつか通り過ぎると、そこはもう町の外れに出てしまっている。
こんなふうに、1つの小さな町をただ通り過ぎてしまうことを「パッシングスルー」と言いますが、この繰り返しこそが大陸をひたすら走り続ける旅の毎日にありふれた1コマです。
そんなロングランの相棒にハーレーダビッドソンは相応しい。ゆったりとしたポジションが身体を労い、高いアイポイントが景色を見渡すのに好都合です。
単調なハイウェイも、心地良い鼓動を感じさせるVツインのおかげで居眠りをせずに済むし、長いコンボイを追い越すときには大排気量エンジンがもたらすビッグトルクで悠々と加速してくれます。
だからハーレーなら、どこまでも走っていける、この広大なアメリカの最果てまでも。
雄大な景色は圧巻!
フロリダ半島の西側に位置するタンパは、印象に残る街でした。タンパベイを跨ぐ巨大橋「Sunshine Skyway Bridge/サンシャイン・スカイウェイ・ブリッジ」では、アメリカのスケールの大きさを痛感します。
長さ8.9キロメートル、幅29メートル、2億4400万ドルの建設費をかけて1987年に完成。その姿は橋が架かっているというよりも「そびえ立つ」と表現した方が当てはまる圧倒的な存在感がありました。
サンシャイン・スカイウェイ・ブリッジ。その最高地点へは海の上をひたすら走り、さらに空高く目指して上り坂を少しずつ少しずつ登るといった感覚です。
頂上から、そのままハーレーと一緒に体が宙に浮き出せたら、どんなに楽しいことか。下りは一気に展望が開け、都会的なタンパの街を海の向こうに見渡すことになります。
キューバの歴史が息づく街
タンパは1800年代後半より、キューバからの移民により葉巻産業で栄えた港を中心とする商業都市で、旧市街に出ると美しいスペイン風の街並みが続いていました。レンガ造りの通りや鉄のバルコニーは、タンパ湾が「シガーシティ」と呼ばれていた時代を彷彿とさせます。
こんなしっとりとした古い町並みにもハーレーはよく似合います。いにしえのスタイルを再現したヘリテイジ・ソフテイル・クラシックは特に馴染みます。
さて、今回はここまでにいたしましょう。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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