スーパーカブ110で昭和ゆかりのスポットをダラダラ巡る『昭和レトロ紀行』。今シーズンは、埼玉県東松山市とその周辺をツーリングしている。第2回は、ド派手vs渋い、道教の宮と醤油工場という対極的な二つのスポットを巡った!

※第1回はコチラ
https://for-r.jp/touring/80318.html

日本の田舎に突然現れる、極彩色の「五千頭の龍が昇る聖天宮」!

極彩色のギンギラ……。霞が関のかすみ食堂でメシを終えて、次に向かった「五千頭の龍が昇る聖天宮」。周囲の日本的な風景を走っていると突然、異世界が現れて思わず笑ってしまった。

↑こちらが「五千頭の龍が昇る聖天宮」。周囲の写真を撮り忘れたけど、道路を走っていると、この光景が現れてビビる。完成は平成だけど、着工が昭和56年なので昭和レトロと認定。門の前の広場では太極拳をやっているらしい。ちなみに駐車場もダダッ広い。■埼玉県坂戸市塚越51-1 https://www.seitenkyu.com/


いったい何の建物なのか。門の横にある解説によると、中国、台湾の伝統宗教「道教」の宮で、日本では最大級という。台湾から移り住んだ康國典大法師が昭和56年(1981年)から着工。台湾の一流宮大工を呼び寄せ、15年後の平成7年(1995年)に完成した。

なぜ建てたかというと、若くして大病を患った康國典大法師が、道教の最高神「三清道祖」に祈願したところ、7年の闘病生活を経て病が完治。その感謝の気持ちから、多くの人々にも三清道祖にすがれるよう建立したという。

さっそく受付で入場料500円を支払って中へゴー。その細工の細かさに見惚れてしまう。

↑細かい。

↑細かい!

↑超細かい!

↑龍だけじゃなく鳳凰も細かい!

↑石の彫刻も細かい。


左右に回廊、内庭の奥に本殿がある。建物は左右対称の構造だ。20年以上前、私は香港でこうした道教の宮を見物したことがあるが、龍のウロコやヒゲなど、ここまで精細な細工はなかったと記憶している。

↑こちらが奥にある本殿。石柱は5mあり、1本の石を透かし彫りしている。とても静かだが、数人の客がいた。

↑本殿の内部。これまた細かい! 天井の彫刻は1万点以上だとか。


本殿を眺めていると、待機していた説明員が近寄ってきて解説してくれた。

「天井が高いのと、形が珍しく渦を巻いたクスの木の彫刻が組まれています。柱も珍しく、赤いところまでが1本の石です。台湾の宮大工が15年かけて完成しました。横浜中華街や神戸にもございますが、ここが一番大きいです」と淀みがない。

さらに解説は続く。

「お寺ではなく、日本の神社とも違います。台湾、中国の神社になります。よく本場で長いお線香の参拝を見ますが、実は供養ではなく、お願いのためです。
また、日本の神社と違い、神様がはっきりと人の形になっています。龍が多いのも特徴。龍だけで5000頭います。テーブル、壁画、反対から見るのも綺麗ですね。屋根の上にも多くの竜がいます。どうぞ塔にも登れます。左が鐘、右が太鼓。鐘は陽、太鼓は陰を表しています。中の飾りが違いますので両方の塔に登ってみてください。最後になりますが、隣の客間の天井には150頭の龍、奥の綺麗な中国室にも入れます」

気になったので「細工は何でできているんですか?」と訊いてみた。すると「飾りは木製ですが、龍とか鳳凰は硬質ガラスです。風が強かったり風雨にさらされちゃうと、割れて少しずつ落ちてきちゃいます」という。

ガラスだから、ここまで精緻な細工ができるのだ。ちなみに「本当は龍は5000頭以上いるんです」という極秘情報(?)も教えてくれた。

お告げで台湾ではなく埼玉へ!? 独特なややこしいおみくじもやってみた

それにしても、なぜ埼玉の坂戸市なのだろう。

「(康國典大法師が)病気が治ったご恩返しに台湾で建てようと思ったら、お告げがありまして」と説明員。「場所のお告げと“聖天宮”という名前のお告げ、あと建物の形、方位のお告げがありまして」という。

お告げで、台湾から縁もゆかりもない埼玉まで来て、この建物を……何とも凄い話だ。では、別の所にお告げがあったら、ここではなかったかもしれない。そう訊ねると「そうです」との返答。

「建てた方は10年ぐらい前に90歳で亡くなったんですけど」と説明員が教えてくれたところで他の客が来たため、会話は打ち切られた。

説明員が先程と同じ解説を始める。それを聞きながら、不思議な感慨に打たれて本堂を眺めていた。

↑道教の宮らしい長い線香。祈願のための線香で、手に持ったまま現状報告をしながらお願いするとのこと。参拝は500円(線香3本)、本格参拝は1000円(線香6本+神紙お炊き上げ)。


しばらくすると今度は別の客が説明員に話しかけた。その若者はどうやら台湾に留学するらしく、祈祷を申し込んでいた。台湾ゆかりの聖天宮でお祈りをするのはわかる気がした。

唐突だが、私は宮本武蔵をリスペクトしている(笑)。宮本武蔵は、吉岡一門との決闘前、八大神社で神頼みを思いつくも、頼りになるのは自分だけ、“これは自分の弱さだ”と神仏に頼ることを恥じた。「我、神仏を尊びて、神仏を頼らず」なんて言葉も残している。

その姿勢に共感する私もお祈りがキライだった。“だった”と過去形なのは、齢を重ねて、個人の力では如何ともしがたいことが多いと痛感するからだ。なので、神頼みもイイじゃないかと最近は思っている。

それはともかく、異国に渡っていく若者の未来を思い、赤の他人のおじさんは清々しいキモチになったのだ。

さらに見物していると、台湾式のおみくじを発見。さっそくやってみた。お祈りはキライと言いながら、おみくじはやる(笑)。

↑コチラが聖天宮おみくじ。手順は結構ややこしい! まずは1本、黄色い棒(おみくじ)を引き、番号を覚える。

↑木製の神椑(シンプエー)は表に「陽」、裏に「陰」が書かれている。丸く揃えてから番号を念じながら床に落とす。

↑陰と陰だと番号を引き直してやり直し。陽と陽では同じ番号のまま再び神椑を落とす。私は2回やり直して、ようやく陰と陽が!


まず番号を引いて覚えるのも独特だし、神椑を床に落とすというのも面白い。その結果は……「小吉 復興の兆し」。表面に「良薬は口に苦し よくきく薬は苦くて飲みにくい。忠告は聞き入れにくいが、聞き入れると身のためになることのたとえ」と書いてある。

裏面にも色々ある。「遷移 旅路 知らない町に行き、気分転換は良い」はまさにこのツーリングそのもの。「恋愛 仕事 意識しあい、進展を焦らず今の状況を楽しむとよい」「財福 勝負 急がずに帆はたて暁風を待つ」も気になるが、しょせんは小吉なので景気のいいことは書いていない(笑)。

さらに見学は続く。

↑本殿横の中国室。カッコイイ。

↑塔からの眺め。周囲には畑や民家が。

↑トイレの絵も凝っている。

↑お願いごとをお炊き上げする「壽金亭」。庭も広々としている。

マニアに人気? 台湾コーラを飲んでみたら……

休憩所には台湾由来のお土産や飲料、食べ物の自動販売機もアリ! 杏仁露(アーモンドミルク)、薬膳スイーツの花生仁湯(ピーナッツスープ)、豆漿(トウシャン)、マンゴーケーキなどなど。

↑台湾のジュースや食べ物が買える自動販売機。缶バッジなどのお土産もアリ。

↑缶入りのスイーツやジュースが多数!


そんな中から私が選んだのは……。

↑台湾コーラの黒松沙士(ヘイソンサースー)! 230円也。


かすみ食堂の中華料理を食べて間もないので、コーラでサッパリしたかったのだ。説明によると「台湾マニアに愛されるロングセラー品 サルサパリラというハーブのエキスをベースにした爽快感がありクセになる炭酸飲料です!」とのこと。「黒松」は製造会社。サルサパリラは漢方薬に使われ、リューマチや痛風、肝臓保護などに効果があるそうだ。

↑天気もいいし、外で小指を立ててグビッ。


こ、これは……! ヤバイ(笑)。口に含んだ瞬間コーラの風味はあるが、龍角散入りの炭酸水を飲んでいるよう。何とか口に注ぐが、一向に減っていかず、ギブアップ(すんません)。

入口のスタッフに訊いてみると、働いている人は地元の方で道教の信者ではないという。500円を払えば異国体験ができ、なかなか味わいがあるスポットだ……口の中に漢方薬の苦みを感じつつ、次のスポットへ向かった。

寛政創業! 「金笛しょうゆパーク」で社長から伝統製法を学ぶ!

スーパーカブ110で10分もかからず次のスポットに到着。近い!

↑「金笛(きんぶえ)しょうゆパーク」。老舗の醤油屋「金笛醤油」が創業230年を記念してオープンした施設で、工場やショップ、食堂などがある。■埼玉県比企郡川島町上伊草654 kinbue-park.jp ※定休日なし(年末年始などを除く)


金笛醤油は、寛政元年(1789年)創業。江戸時代から続く伝統的製法(大豆、小麦、天日塩の原料と杉の木桶)を踏襲した老舗で、昭和39年(1964年)から「金笛醤油」の販売を開始した。

まず駐車料金も工場見学も無料ってのがイイ。私が到着したのは、ちょうど本日最後の工場見学が始まるところだった。急いで蔵に駆け寄ると、冒頭の説明を聞き逃したが、ギリギリ間に合ったようだ。それにしても参加者が多い。後から聞いたところによるとTV番組で紹介されたばかりだったらしい。

↑工場見学の様子。平日は10:30、12:30、13:30開始(月曜日は開催なし)、土日祝日は10:30から30分おきに開催(12:30はなし)、全10回。所要時間は30分だ。

↑まだ味噌に近い状態。ここからどんどん醤油に変わっていく。

↑独特な香りや味わいを醸し出す、昔ながらの杉の木桶を使用。なんと150年以上使えるという。この桶を製作できる職人は全国にもほとんどおらず、徳島や長崎の職人につくってもらっている。

↑38本の木桶が並ぶ仕込み蔵。2夏から3年かけて熟成される。奥には江戸時代の木桶もあり、今だ現役!


工場見学の詳細を書いていると物凄いボリュームになるため割愛するが、大豆や小麦が醤油に変わっていく過程を見られるのは楽しい! それにしても、面白おかしく流ちょうに説明してくれるスタッフさんが素晴らしい。「広報の方なんですか?」と訊ねてみたら社長さんだった! 社長さん自ら説明しくれるのなら間違いない(笑)。

今の社長は12代目でエネルギッシュな方。なお、醤油の職人は納豆を食べられないそう。納豆菌は強く、醤油づくりに必要な“こうじ菌”をやっつけてしまうからだ。社長も15年以上食べていないとのこと。

こうした伝統的な天然醸造で製法で醤油をつくっているのは、醤油メーカー全体の1%以下。多くの醤油は、大きなステンレスのタンクで半年もかからずつくられていると社長さんは話す。遠く去り行く伝統は多いけれど、醤油という身近なものさえ大きく変化しているのだ。

↑快く写真を撮らせてくれた社長さん。ありがとうございました。

醤油ソフトを味わう! 昭和とは醤油の時代でもある

こんな見学をしたら、醤油の味が当然気になる。金笛醬油パークには醤油や地元の食材を使った食事&スイーツを味わえるレストランも併設されているので行ってみた。

↑で、頼んだのがコチラのしょうゆバウムサンデー(560円)。醤油とスイーツは果たして合うのか?


アイスにもバウムクーヘンにも醤油が使われているけど、しょっぱいわけではなく、醤油の香りと引き締まった甘さがウマい。

↑ふんわり醤油風味と塩味があるが、とても美味しいアイス。

↑バウムクーヘンにはシンボルである「KIOKE」(木桶)の焼き印が。


確かにウマいのはウマいんだけど、個人的に醤油はなくてもいいかなぁ(笑)。それより私が気になったのは備え付けの醤油だ。

↑金笛醤油の製品が置いてある! 特に右側の三つが気になる。


しょうゆバウムサンデーに醤油をかけて試させてもらったところ、どれもウマかった! 特に気に入ったのが「常若」。塩気よりも先に甘みと旨みが立ってくる。これは工場見学の最後に社長が説明していた商品で、埼玉県産大豆の「里のほほえみ」と埼玉県産小麦「さとのそら」を100%使用。通常の2年からさらに長い3年熟成で、お刺身などに合うそうだ。

コスパ、タイパを考えれば、昔ながらの製法は全くのナンセンスなのだろうが、それだけの価値がある味だと思う。気に入ったので、さっそく敷地内のショップで購入! 100mlで540円となかなか高額だが、使うのが楽しみだ。

こうして、金笛しょうゆパークを後にした。昔ながらの製法をはじめ、蔵、木桶、醤油の香り。見学して、長い歴史の一端を感じ取れた気がする。古い文化を「しょうゆパーク」として観光地化した社長はやり手だな! とも思った(笑)。

これまた唐突だが、昭和って醤油ではないだろうか!? もちろん古くからの伝統ではあるけど、昭和46年生まれの私にとって、暗い食卓の上に醤油が常にあり、昔の記憶と、あの香り、味は密接に結びついている。昭和と醤油は切っても切り離せない関係にあると思うのだ(語呂も似ている笑)。そんなことを考えながらカブを走らせていた。

以下次回!

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