遠く去りゆく昭和の香りを求めてスーパーカブ110でダラダラ旅する「昭和レトロ紀行」。シリーズ第6弾は妻とタンデムで群馬県太田市と大泉町を来訪している。昭和の古風な「ビジネス旅館」に泊まったら、妻がいなくなっていて……!? さらに宿のおかみさんに直接話も訊いてみた!

これまでの記事はコチラ!
【昭和レトロ紀行】ここは日本じゃない!? 脂オブリガート、ブラジル料理の洗礼を浴びたゼ【群馬県太田市&大泉町編①】
【昭和レトロ紀行】創業55年超! 強烈なトンデモ旅館に泊まったら、妻が消えた!?【群馬県太田市&大泉町編②】

戻ってきた妻! 「帰らない。仕事だから」

↑昨晩、おくつろぎの妻だったが!?

 

↑廊下から見た部屋。換気するため丸見え笑。これがイヤだったのか!?

 

薄暗い午前5時過ぎ、ふと隣を見ると寝ているハズの妻がいない。うつらうつらしながらウンコかと思ったが、一向に戻ってこない。一人で帰っちゃった!? いや電車は動いてないし。まさかカブで帰った!? いや免許持ってないし。

まさか誘拐!? 犯罪に巻き込まれた!? などと考え始めたが、そう言えば昨晩、宿に帰る途中ファミレスを通りかかり「朝ここに来るかも」と言っていたなと思い出した。

安心して二度寝(笑)。

↑ペラッペラでカッサカサのフトンだけど快眠。ただし腰は痛い。

 

やがて7時頃、妻が戻ってきた。事情聴取してみると、やはり5時開店のファミレスに行っていたらしい。「3~4時間眠れたけど、明け方に目が醒めたらカビ臭かったので新鮮な空気を吸いたくなって」と言う。

帰ったのかと思った、と言ったら、笑いながら「それはない。仕事だから」と妻。マジメなのだ笑。

さて、とっととカギを返して宿を出ようと思ったら、おかみさんがちょうど廊下にいた。ついでに色々話を訊いてみよう。

宿泊していたのは、やはり我々のみ。さらに「3階は大部屋ですけど、学生さんが合宿で来られるんですか?」と質問。

「そうですね。月末に1泊ですけど40人近く入ってます」とおかみさん。40人! きちんと固定客がいるのだ。

さらにおかみさんは続ける。「あと夏休みとか連休なんかに結構入るんですよね。コロナの時はやっぱりひどかったですけど、昨年(2023年)ごろからいくらか増えてきましたね」という。

客層を訊ねてみると「サラリーマンさんの方はあんまりですね。ホテルの方がやっぱり1人1人ユニットバスとかトイレとかあるので。多いのは建築現場とか工場とかの方が多いですね、やっぱりうちの場合は」

やっぱり何回も泊まられるリピーターが多い?
「多いですね。うちはお食事が結構メインなんで。元々旅館じゃないんで。お食事を提供している料亭みたいな感じだったんですよね。でもそれじゃもうやっていけなくなったんで。だから、お食事はちょっと自信もってやってるんで。もしよかったら今度はぜひ」

なるほど。実は夕食のブラジル料理の後、軽く「鳥順」でおつまみとお酒でも……とは思ったのだ。しかし20時に戻ったら、お店は既に閉まっていた。

「泊まりの方でしたら遅くても大丈夫ですよ」とのこと。この宿の料理がどんなものなのか。「怖い物見たさ」の興味もあるけど、少し「そこまで自信があるのなら」という気持ちも湧いてくる。とはいえ、食事はまだしも二度目の宿泊はないなーと正直思う笑。安ければアリだけど、これで1人5500円は高い! これを読んで興味が湧いた好事家はぜひ食事にトライしてほしい。

バブル景気まで大繁盛も「そろそろカウントダウン」

↑非常にエネルギッシュなおかみさんと妻。おかみさんは恥ずかしいとのことなのでお顔をぼかさせていただきました。

 

さらに、おかみさんのことも訊いてみる。御年は74歳。とても動きがシャキシャキしていらっしゃる。こちらには埼玉の熊谷から結婚で嫁がれてきたそう。

「私が来たのが昭和50年か51年ですかね。その頃から昭和60年の間はお客さんが多かったんです。忘年会の時には一晩で200人近くいらしたこともあるんですよ。こういうところ(私達が泊まった「白鳥」の間)に5人とか。上の階に68畳の大宴会場があるんですけど、そちらには70~80人入れるんで」

1970年代後半から80年代末のバブル景気の頃まで、さぞ繁盛したことだろう。おかみさんは働き盛りの30代。まさに大忙しだったのだ。

年季を見るに、恐らく建物はほぼ当時のままなのだろう。後継者はいらっしゃるのだろうか?

「いえいえ全然。みんなサラリーマンやってます。子供は3人いるんですけど、1人はゼネコン、 1人はメーカーに行って、1人は何やってんだか笑。男の子は喋んないから何やってるか知らないんです」

「じゃあまだまだ営業しなくちゃですね」と私。

「そうですね、もうそろそろカウントダウンに入ってますけど、まだもうちょっとやるんじゃないんかなと思うんです。主人は私より年上ですから。あと何年できるかって感じですよね」

時代と環境が大きく変わった中、寄る年波もあり、古い施設をだましだまし使ってやりすごす。この戦術(?)は、過去記事(親子足利編)の某宿と同じだろう。おかみさんも決して悪い人じゃない(恐らく旦那さんも)。施設のボロさは、客からするとたまったものではないが、どうしようもないやるせなさが残る。

ついにピアノを弾いていた方も判明!

おっと、そう言えば……。

「昨日、急にピアノが聞こえてきたんですが、誰が弾いていたんですか?」
「あ、私です」

なんと意外な! チラリと見たら妻も驚いていた。お子さんが小さい時、ピアノの先生を呼んで習っていたが、おかみさんも一緒に習っていたのだという。

「どこにも出かけられないんで、じゃあ私も一緒にやろうかなって始めたんです。もう年数だけはやってるんですけど。子供がいなくなっちゃったんでね、ピアノ空いてるから」

いやいやいや。なかなかお上手だった。「ありがとうございます」と御礼を言い合い、「どうぞ気を付けて」と私達を送り出してくれた。

大泉町初のブラジルレストランでベタなシュラスコ料理を喰らう!

スーパーカブ110で走り出し、朝飯を求めてウロウロ。改めて大泉町を走っていると、ブラジルのほかにも様々な国の料理店がある。

↑異国情緒タップリ。

↑カンボジア料理だろうか。

↑ケバブだからトルコ料理?

↑ブラジルでよく飲まれるアサイーのお店。


アサイー専門店かヌードルの店で朝飯を摂ろうと思っていたのだけど、どちらも閉まっていた。そこで行ったのがブラジルサンドイッチの店だ。

その前に昨晩行ったブラジル料理レストランを紹介しておこう。足を運んだのは「レストランブラジル」。そのまんまの名前が清々しい笑。なにやら1990年に大泉町で初めてオープンしたブラジル料理店らしい。平成2年オープンなので惜しくも昭和ではない。が、何度も書いているとおり、ブラジル移民が増えた原因は昭和にあるのだ(その詳細を後にドップリ知ることになる)。

↑ブラジルカラーに彩られた「レストランブラジル」。見間違えることはないゼ! クルマが5~6台駐車できそう。■群馬県邑楽郡大泉町西小泉5-5-3

↑出迎えてくれたのはブラジル生まれのダニエル店長(39歳)。日本語が流暢だ。

 

店内は4人がけのテーブル席が5つほど。ブラジルのミュージックビデオが流れ、ゆったりした空気が流れている。

↑メニューには肉を串焼きにしたシュラスコ料理のほか、おなじみフェイジョアーダ、ドブラジーニャ(牛ハチノスと白豆の煮込み)、キャッサバフライ、ステーキなどなど盛り沢山。


ここはやはりベタなシュラスコ料理だろう。というワケで頼んだのがコレ。

↑エスペトン・ミスト(2690円)。「牛のイチボ、鶏肉、豚肉のスペアリブ、ソーサージをミックスした串焼き」とのことでバラエティ豊か。レア、ミディアムなど焼き加減も選べる。


お祭り感というかエンタメ感がスゴイ。なお、これは初日の夕飯だが、昼に食べた脂じゃなくてフェイジョアーダのせいで腹がほとんど減っていない。申し訳ないけど一人前を二人でシェアすることにした。さっそく実食!

↑こんな風に食べるものではありません笑

↑取り分けて……

↑いただきます。

 

味付けは塩胡椒(?)でシンプル。味が濃く、肉はやや硬いが、肉の旨味がしっかり感じられる。脂が全面に押し出されておらず、フツーに美味しい。特に牛の稀少部位であるイチボ肉とソーセージがイイ。「これなら食べられる」と妻。

↑脂分はインカコーラと……

↑マテ茶があればサッパリ。

 

ビールが欲しいが、ガマン。お酒好きな妻に「飲んだら?」と勧めたが、要らないとのこと。

↑当店はTVドラマ『孤独のグルメ』にも登場したらしく、芸能人のサインもたくさん飾ってあった。

↑某バイク旅番組で有名な出川哲朗氏のサインも。

 

アットホームな雰囲気と恐らく日本向けにチューニングされた料理で、とっつきやすいブラジル料理店。さすがの老舗だ。

ダニエルさんに話を訊いてみると、ブラジル人のお父さんが出稼ぎのため、5歳で来日。ブラジルで中学高校を過ごした後、再来日し、お父さんの友人が始めたレストランを引き継いだという。とても温和な方で、ダニエルさんの人柄が店にも現れていると感じた。

野菜とフルーツで脂を浄化せよ! ブラジルサンドイッチ店へGO

そして翌日の朝飯として選んだのがブラジルサンドイッチ店の「TOMI」だ。

↑第1回で行ったアソーゲタカラから歩いてすぐの「TOMI」。■群馬県邑楽郡大泉町坂田3-7-4

↑焼きたてのパンが並ぶ。

↑清潔かつ壁画がポップな店内。

↑ニラみの利いた店員さん。

 

メニューを見ると、サンドイッチのほか、チーズバーガーやチーズエッグなどのハンバーガーもある。

↑見慣れたハンバーガーやサンドに混じって、「モルタデラサンド」「チーズコステーラ」「チーズブラジル」「パンコンチチャロン」などの聞き慣れない食べ物が! 価格は全て税抜き(以下同)。

↑「メガトミ」は5分以内に食べ切れたら無料! 1.2kgもある! 量はともかく美味しそう。

 

二人で頼んだのが「バウル」と「パステル」と「キビ」! 名前だけだとどんな食べ物かわからない笑。さらにブラジル産アサイーのジュースを注文。アサイーは飲んだことがなく、「確かスーパーフードなんでしょ? なんかカラダにいいんでしょ?」的なイメージで頼んでみた笑。

客は私たちだけ、スタッフは女性店員一人(と猫)のみ。注文するとイチから調理を始めてくれる。待っている間、妻と私は「鳥順」の話に華が咲く。

「客が来てすぐにピアノを弾き出すかね」「なんで家より悪い所に金を払う必要がある?」「東○インに泊まれたのでは?」と毒を吐く妻(笑)。

「それでも本屋とかCD屋みたいな体験ができた」と妻は言う。誘われて行ったことで「自分からは出会わないモノに出会ったり、体験できる機会だったから面白くはあった」。なるほど。

そんなこんなで待つこと15分ほど経ち、まずバウル(460円)とアサイージュース(500円)が到着! 店員さんによると「バウル」はブラジルの都市の名前で、そこでつくられたパンが由来になっているとか。

↑バウルはフランスパンにハム、チーズ、レタス、トマトを挟んだもの。肉ばっかりなので野菜が食べたくなったのだ。アサイーはミルクを混ぜている上に、つくりたてなので泡立っている。

↑具がタップリ! ウマ~(『まんが道』風)。癒される味だ! これで脂が浄化されるハズ!

 

アサイーは不思議なウマさ。とろみがあり、ほんのりとした甘みと渋みがある。ただアサイーはあまり味がなく、ミルクの味が強いかな?

続いて着膳したのがパステル(450円)とキビ(250円)。

↑パステルは想像以上にデカい! 長さ25cmぐらいある!

↑コチラがキビ。もちろんキビダンゴではない、コロッケ的な揚げ物なのか?


パステルとは、街中の屋台やスタンドなどで販売されているブラジルの軽食。店員さんによると「イタリア人と日本人シェフのコラボで生まれた料理なんです」という。

揚げたピザ生地に具が入っており、チーズ、ピザなどの具が選べる。私達が頼んだのは「バルミット」(ヤシの新芽)入り。果たしてどんな味なのか。

ヤシの新芽は初体験。とろみのあるクリームソースに混じって、タケノコに近い繊維的な食感が楽しい。ただしヤシの新芽じたいの味はよくわからなかった。ここで気づいたのがブラジル料理とマテ茶との相性。レストランブラジルでもマテ茶でサッパリしたけど、ここでも妻が頼んだマテ茶で口をリセットできた。

↑背後の壁画と相まってシュールな絵面に笑

 

そしてキビ。スパイスのツンとくる臭いと味がアラビア風? 店員さんによると、穀物と牛肉を素揚げした食べ物で、多文化国家であるブラジルらしい食べ物なのだという。

食感は表面のカリカリとした粒が不思議。中身はメンチ的な感じでなかなかイイ。これもマテ茶で浄化!

↑付属のライムをかけるとさらにウマい。

ブラジルにまつわる様々な人間模様が……

一人で店をサーブしている女性店員さんに話しかけてみた。店名の「TOMI」は日系ブラジル人の旦那さん「トミハル」さんの名前からつけたという。

女性店員さんは日本の方だ。旦那さんと二人で開業したが、トミさんは亡くなってしまい、今はほぼお一人で切り盛りしている。2024年で17年目という。最初はブラジルの方ばかりだったが、今では日本人も凄く増えているとのこと。

異国からやってきて生計を立てることや、異文化を浸透させることは並大抵の苦労ではないだろう。前述のダニエルさんといい、大泉町で暮らす人々に少し触れただけだが、しばし感慨にふけってしまう。

最初は私たちだけだったが、すぐにお客さんで賑わっていた。

※以下次回! いよいよ昭和とブラジルタウンの関係が明らかに!

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