バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は電装系、高級スポーツモデルを中心に採用が進んでいる『リチウムバッテリー』だ。

そもそも『リチウムバッテリー』とは?

リチウムバッテリー

左が一般的な始動用の鉛バッテリー(MFバッテリー)で、右が『リチウムバッテリー』。

 

車やバイクの一般的な始動用バッテリーは、通称「鉛バッテリー」と呼ばれ、希硫酸の中に鉛の電極端子が浸かり、希硫酸が鉛を溶かす際に電力を発生する構造になっている。現在主流のMFバッテリーも、古いバイクに見られる開放型のバッテリーも、この「鉛バッテリー」としての根本的な構造については変わることがない。

一方『リチウムバッテリー』、正式名称リチウムイオンバッテリーは、正極端子にリチウム化合物が使われる。ただひとくちにリチウムイオンバッテリーといっても、正極端子の素材には、コバルト系、マグネシウム系などいくつかの種類があるが、バイク用として実用化されているのは、安全性の高いリン酸鉄リチウムを使った『リチウムバッテリー』だ。


『リチウムバッテリー』は鉛バッテリーに比べてエネルギー密度が高いのが特徴で、内部のセル一つあたりから得られる電圧は3.3V。鉛バッテリーの場合、セル一つあたりの電圧は2V前後で、12Vの電圧を確保するためには6つのセルが必要となる。つまり、リチウムバッテリーなら4セルで12V以上の電圧を確保できるためコンパクト化が可能。また電極材に重たい金属の鉛を使わないのでとても軽く作ることができる。

リチウムバッテリー

左の鉛バッテリーと同じ容量のバッテリーだが、『リチウムバッテリー』はとても軽く、なんとか小指で持ち上がるほど。

 

『リチウムバッテリー』のここがスゴイ!

とにかく軽い!

『リチウムバッテリー』の特徴はやはりこれに尽きる。バッテリーを交換するだけで大きな軽量化が行えるため、カスタムの分野では10年以上前からエンジン始動用の『リチウムバッテリー』が登場している。同じ容量のバッテリーで比べてみると、上の鉛バッテリーが2030gなのに対し、下の『リチウムバッテリー』は570g。なんと3分1以上、1.5kg近い軽量化ができるのだ。

リチウムバッテリーは軽い!

鉛バッテリーは2030g。

『リチウムバッテリー』は軽い!

『リチウムバッテリー』は570g。

 

このためオフロード競技などではワークスマシンに、『リチウムバッテリー』がいち早く取り入れられてきたが、低温時の始動性に問題があったり、信頼性の観点からなかなか市販車には純正採用されなかった。始動用バッテリーに対してバイクメーカーはかなり慎重なのだ。

『リチウムバッテリー』の純正採用も始まっている

ところが2017年。いよいよ国産メーカーが市販車の純正部品として『リチウムバッテリー』を採用に踏み切った。二輪車初の『リチウムバッテリー』搭載車の称号を得たのは、2017モデルのホンダ・CBR1000RR SP。搭載した『リチウムバッテリー』はエリパワー製で低温でも安定した電力供給が行え、しかも、電極材にリン酸鉄リチウムを使用したことで高い安全性を確保しているという。

リチウムバッテリー

市販車として初めて『リチウムバッテリー』を採用した2017年モデルのホンダ・CBR1000RR SP。

リチウムバッテリー

軽く、小さいうえに、液槽がないので横積みや逆さ積みもOK。また放置による自然放電も少ないのが『リチウムバッテリー』の特徴だ。

リチウムバッテリー

CBR1000RR SPが搭載したのは国内企業のエリパワー製『リチウムバッテリー』で、事故など外部圧力による破損が起こっても発火の危険がとても少ないという。

 

『リチウムバッテリー』は充電時に気をつかう

ただこの『リチウムバッテリー』、唯一の弱点は、充電時の扱いが非常にデリケートなことだ。高い電圧に対して危険性があるため、電流を管理するバッテリーマネジメントシステム(BMS)が組み込まれており、製品によっては高い電圧がかかるとヒューズがとんで電流を遮断するようになっている。『リチウムバッテリー』を搭載するバイクは、発電した電気で充電を行う際にもしっかりBMSが電圧コントロールを行ってバッテリーに負担をかけないようにしている。

『リチウムバッテリー』を充電する場合には、サルフェーション融解のためのパルス充電を行うようなバッテリー充電器は使えない。また『リチウムバッテリー』搭載車はバッテリー上がり時に他車やモバイルバッテリーなどからの電力供給を受けてのジャンプスタートもすることができない。MFバッテリーや開放型バッテリーを搭載するバイクに『リチウムバッテリー』を積む際も、充電時の電圧の変化がどれくらいあるのかが換装可能かどうかの分かれ目になるようだ。

リチウムバッテリー

サルフェーション融解のために電圧を変化させるパルス充電機能を持つ充電器は使えず、専用の低電圧充電器が必要になる。ちなみにレッドバロンで店頭販売を行っている『ROM-オプティメート4クアッド』ならリチウムバッテリーとMFバッテリーの両方の充電が可能だ。

 

またバイク用に限らず『リチウムバッテリー』は、明確なリサイクルのシステムが確立されておらず、廃棄する際も一般的な鉛バッテリーのようにバイクショップや用品店で引き取ってもらうということができない。廃棄の際には製造メーカーに引き取ってもらうというのが現段階での現実的な廃棄方法になる。

『リチウムバッテリー』は寿命も長い!

現在、国産メーカーにおいて『リチウムバッテリー』を純正採用しているのは、オフロード競技用モデルの他、CBR1000RR-R SPなどのスーパースポーツや、アドベンチャーモデルのCRF1100Lアフリカツインといった高級スポーツモデル。

それらのバイクで実際走ってみた印象としては、一般的な鉛バッテリーと遜色なく始動が行え、寒い朝の始動時にも特に『リチウムバッテリー』であることを意識させられるようなことは起こらない。また、撮影などでヘッドライトを付けっぱなしにしたような場合にも、極端に始動性が悪くなるというようなことは起こらず、鉛バッテリーとなんら変わらない状況で使うことができると感じた。

ちなみに、ホンダに純正採用される『リチウムバッテリー』の製造元であるエリパワーによれば、『リチウムバッテリー』の寿命は、一般的な鉛バッテリーの3〜4倍だそう。関係者の話によれば、同社のバッテリーは現在CBR1000RR-Rやアフリカツインなどのモデルに搭載されているそうだが、2017年の市販車への搭載開始から6年が経過した2023年現在、“劣化交換によるバッテリーの注文が思ったより少なくてちょっと困っている”というくらいだというから相当なことである。とにかく軽量コンパクトで、安全、長持ちでエコロジーといいことづくめの『リチウムバッテリー』。価格が高いのが課題だが、便利なものはどんどん市販車にも採用してほしいものだ。

 

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