「自然科学」対「自然哲学」……!?
筆者が学んでいるのは主に東洋医学ですが、東洋医学があるのならば当然、西洋医学も存在しています。といいますか、現代において医学の主流といえば、皆さんご存じのとおり西洋医学のほうです。我が国ニッポンでは江戸時代まで東洋医学が主流だったのですけれど、明治政府により西洋医学が大々的に導入されて以降、東洋医学の影響力は一時期とても限定的なものになっていきました。
知らぬ人のいない手塚治虫先生の傑作漫画『ブラック・ジャック』でも、主人公の間 黒男が駆使するのは西洋医学(すら超越しているシーンは多々見受けられますが……)。謎に満ちた盲目の鍼師として、琵琶丸というキャラクターが2回ほど登場するものの、ツッコミどころに満ちた荒ぶる描写がテンコ盛り。当時、「鍼治療(東洋医学)って怪しい……」と脳裏に刷り込まれた少年チャンピオン読者も多かったのではないでしょうか?
かくいう筆者も読んで衝撃を受けたひとりですが、ズブッと鍼を一刺しして体の不調を改善していくシーンを見て逆に「鍼って凄い、面白そう!」となり、その思いは心の奥底を流れる伏流水に……。40余年後、現在の道へ進むことを決意する大きな要因ともなりました(笑)。
バイクは西洋医学的!? 壊れた部品は要交換
閑話休題。西洋医学と東洋医学との違いですね。
とても簡単にザックリ述べさせていただくと、西洋医学とは病気の原因を様々な手法を用いて特定し、薬剤投与や手術を行うことで原因を取り除いて治療をしていくもの。対して東洋医学は体の不調を人間が本来持っている自然治癒力を高めることで、根本的に回復させていくという考え方をしています。
どちらがいい、悪いではありません。感染症への対策や外科的な処置に長け、短期間で病気を治療できる点などは西洋医学のメリットですし、時間こそかかるものの体質を改善させ、体の芯から元気を取り戻していけるのは東洋医学のナイスなポイント。
ある意味まったく逆の視点を持っている2つの医学ですが、だからこそお互いの不得意分野(西洋医学は慢性疾患などの中には効果的な治療法がない場合もあり、東洋医学は対処に緊急を要する大病が苦手)を補完し合えれば、人類の健康の維持と向上に対して多大なる福音をもたらすことができるはず。
WHOも正式に認めた「ツボの位置」
実際に近年、「なぜかは分からないけれど、ここをこうすれば体が元気になる」という東洋医学の施術内容に西洋医学的なアプローチからの研究が進み、数千年来の謎が解き明かされた例も少なくないのです。2006年にはWHO(世界保健機構)か公式に人体に存在する経穴(ツボ)361穴の部位を認め、国際標準化もなされました。
これは言うなれば世界共通のレースレギュレーションが定められたようなもの。MotoGPならMotoGPのレギュレーションが存在しているからこそドゥカティ、KTM、アプリリアの欧州勢と、ホンダ、ヤマハ、スズキの日本勢とが同一条件で戦い、切磋琢磨していけるのです。これからますます多方面にわたって西洋医学と東洋医学の相互研究が進んでいくことでしょう。
YouはSick! 「お前はもう治っている」
さて、その経穴(以下、ツボと呼称します)ですが、体全身を巡っている生命エネルギー「気」が出入りするスポットだと言うことができます。それぞれのツボは体の奥深いところにある内臓や器官と密接につながっており、それらが不調なときは皮膚表面にあるツボにコリや痛みを感じることがあるので、逆にそういう反応が出ているツボを刺激することにより臓腑の不具合をリモートで改善させることも可能なのです。
シチュエーションこそ真逆ですが、高校時代に夢中となった「北斗の拳」の【秘孔】を思い出し、興奮したのは私だけではありますまい。「ひでぶ!」や「あべし!」という悪人どもの悲鳴ではなく、「絶好調!」や「治った!」といった患者さんの快哉を聞けるよう、現在精進している最中です。
なお、言わずもがなではありますが、ツボは誰でも活用できます。鍼やお灸でなくても、ちょっと時間が空いたとき、自分の指で揉んだり押したりしてみるだけでもオーケー。下で紹介している合谷のように有名なツボは、それだけ効果を実感している人が多いということですから、是非気軽にお試しのほどを……。
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