はり、ハリ、ハリー・シーン……(シーン)

今回はベタなダジャレからスタートします……。

バリー・シーンDVDパッケージ

●ウィック・ビジュアル・ビューロウが2019年に新価格で再リリースした「Barry Sheene」のDVD(2420円)。本編66分で世界GPレジェンドライダーのレース人生を追った濃い内容

 

イマドキのライダーにとって「はり」と言えば奈良市にある「針テラス」のことでしょうか。近畿地方のツーリングを楽しむとき、絶好の位置にある道の駅として高い人気を誇っていますね。

また、私と同じく古くからバイクに乗っている人やメカニズム好きのヤング(死語)なら、はり=ニードルということでキャブレターを想起するかもしれません。電気の力を使わないアナログな構造でありながら、エンジンが求める適切な混合気を供給する気化器。アクセル全開時の燃料供給量を決定するメインジェットには、まさしく針のような形状をしたジェットニードルが突き刺さっています。「まぁだエンジンがボコつくなぁ」などと言いながら、いちいち分解してはセッティング変更のため、細かな部品と格闘した記憶をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

分解されたキャブレター

●ニードルジェットという筒状のパーツもあったりしてビギナーは混乱の極み。キャブレターのメンテナンスは一大事でした

 

あ、冒頭で紹介しているハリー……ではなくバリー・シーン氏とは、1976〜77年、2年連続で世界GP500㏄クラスのチャンピオンに輝いた偉大なレーシングライダー。針(はり)は「ばり」とも「しん」とも読みますので、ご縁があるなぁ、と思わず導入部に使わせていただきました。

有名なのに敬遠されがち(!?)な鍼治療

さて、針テラスに集っているライダーや道行く人に「東洋医学の主な治療方法は何ですか?」と質問をしたならば、間違いなくトップ3は「鍼(はり)」「灸(きゅう)」「漢方薬」になるはずです。

漢方薬は今や健康保険が適用される種類も大幅に増え、一般的な西洋医学のお医者さんにかかったときも、至って普通に処方されることが珍しくなくなりました。

そしてお灸は家庭でも手軽にできる簡易灸などが数多く発売されており、身近な存在となっています。2020年の11月には米国メジャーリーグで大活躍中のダルビッシュ有投手が、自身のYouTubeチャンネルで火を使わないセルフ灸「せんねん灸 太陽」を登板日に欠かせないルーティンとして愛用していると発表(下動画。お灸に関する話題は15分35秒すぎから)。テレビのニュースでも取り上げられ大きな話題となりました

 

そんな漢方薬やお灸に比べ、今回のテーマでもある鍼(以降、治療用のものを指すときはこの漢字を使います)なのですが……。高い知名度を誇る割には体験者が意外なほど少ないとも言えます。

これはやはり治療のために人体へ鍼を刺すという行為は、国家試験に合格して資格を得た医療従事者である鍼灸師、または医師でないと行うことができない、という点が大きいのでしょう。

せんねん灸のようにシールと短い鍼を組み合わせた【セルフ鍼】的な商品も存在しているものの、医療従事者の指導のもとに使うことが望ましいとされており、心理的なハードルが高くなっているのかもしれません。

一般生活で使う「針」と治療用の「鍼」は別物

かくいう私も「はり」という響きだけで眉間に深いしわが寄るトラウマの持ち主。コンパスを何度なく手に突き立てて円を描かずにベソをかき、裁縫の時間には縫っているものが布なのか指なのか分からなくなるほど。もちろん、各種予防接種も大の苦手でした。

幼少期から「はり」は恐いもの、痛いものというイメージを自分で植え付けてしまっては、街で鍼灸院の看板を見かけたとして、つま先はなかなかそちらの方向へ進んでくれないもの……。

しかし、専門学生となったあとに鍼治療を体験してみると、痛みをほとんど感じないことに驚きました。まず、日常生活でよく出会う針と治療用の鍼とでは、太さも形状もまるで違います。

例えば「痛い」というイメージしかない注射。一般的な注射針の太さは約0.7~0.9㎜で、さらに皮膚を破り血管を貫く必要があるため、先端がスラッシュカットマフラーのようになっています。

対して東洋医学の治療用として使用されている鍼は、0.14~0.34㎜と髪の毛程度の細さ! なおかつ先端は丸みを帯びた滑らかな形状となっており、皮膚や筋繊維の透き間をかき分けながら進んでいくのです。

毫鍼のイメージカット

●日本で幅広く使われている治療用の鍼、毫鍼(ごうしん)。まさに髪の毛並みの細さとしなやかさを備える逸品なのです

 

日本生まれの『痛くない』施術方法もあります

さらに、日本で独自の進化を遂げた【管鍼法(かんしんほう)】では、鍼を中に入れた筒を狙った部分の肌へ軽く押しつけながら、トントントンと筒から少し突き出た鍼のお尻(柄の部分)を優しく叩いて押し込むことで、刺激的な痛覚がほぼ皆無になるというもの。こちらは江戸時代に杉山和一という鍼灸の神様的な方が考え出した画期的な方法で、体験すれば目からウロコが数十枚は落ちます。

管鍼法のイメージかっと

●鍼管(しんかん)に、その管より少し長い鍼を入れ、出ている部分を反対の手でトントンと叩いて先端を肌の中へと入れていく管鍼法。鍼管を使わない刺入方法もありますが、いずれにせよプロの手にかかるとウソのように嫌な痛さを感じません。ぜひお試しあれ……

 

その後、必要に応じて鍼を体の中へと挿入していくのですが、不思議なほどに痛さを感じません。逆にいいポイントへ鍼が達すると『ズシン』と痛気持ちいい【響き】が脳へ伝わってきます。

ロングツーリングなどで腰や肩など体の一部分がガチガチに凝り固まってしまったときも、鍼を刺すことで深い部分の筋肉まで解きほぐすことが期待できますから、ぜひ自分好みの鍼灸院を見つけてください。実はバイク好きの先生も多いので巡り会えたら最高ですね!

 

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