ホンダ「VRX ロードスター」が搭載していたのは「スティード400」譲りの狭角Vツイン。まぁこれが非常にタフなパワーユニットでございまして、たとえ無知なユーザーが珍妙なカスタムをうっかり施しても、それが原因でエンジン本体が壊れたという話を筆者は聞いたことがございません。これは偉大なご先祖様が行った激しい研鑽の賜物だったのでしょう!
●1995年にデビューした「VRX ロードスター」は1996年に最初で最後のカラーチェンジが実施されて車体色に艶のあるブラックを採用。それに伴ってエンジンやエキパイなどクロームメッキ仕上げだった部分がブラックアウトされてより精悍な雰囲気に。キンキンキラキラなタンクエンブレムとの対比も見事ですね。レバニラ……いや、ニラレバ……いや、タラレバですが、燃料タンク容量が11ℓではなく14ℓくらいあったなら「ツーリングはいいゾッ」勢にガッツリ受けたかもなぁ……、なんて勝手に妄想サイクリストしています
VRX ロードスターというレアな名車【前編】はコチラ!
V型エンジンの可能性を切り拓いたのはHY戦争!?
いやはや、1970年末から1983年ころまでにかけて繰り広げられたHY戦争は、本当に凄まじいものがありました。
ホンダとヤマハのお互いが相手のシェアを0.1%でも奪い取ってやろうと躍起になり、今となっては信じられない数の新型車が毎週のように投入され、猛烈な安売り合戦まで展開!
●日本で一番は世界で一番と同義……。HY戦争は様々なドラマと教訓に満ちておりますので、興味がある方は調べてみてくださいね
生産工場はキャパオーバーが延々と続き、販売現場ともども疲弊していく一方……。
結果としてヤマハは企業存続の危機に陥り、ホンダも過剰在庫の処理に四苦八苦するなど、ともすれば“悪かった面”ばかりが後日強調されてしまうものですが、「絶対に負けてなるものか!」と文字どおり鎬(しのぎ)を削り合った両メーカー開発陣の切磋琢磨は、我々のバイクライフをとんでもなく充実させてくれている数々の画期的なメカニズムを生み出していった、という良い面も忘れてはなりません。
●バイク雑誌屋となり、当時HY戦争の渦中に巻き込まれた人たちへ話を聞く機会を得たのですが、まぁ〜、開発も生産も営業も広告もショップも編集部もパーツ屋さんも大変なことになっていたそうで……。でも、皆さん笑顔で懐かしそうに語られていました(^^ゞ
水冷システム、2スト&4ストエンジンの吸排気デバイス、リンク式リヤサスペンション、ターボチャージャー装着に大型のフェアリング……それこそ大きいものから小さいものまで全部紹介していったらキリがないほどの新技術が創出されていったなかでも、“ホンダのV型エンジン”は極めて重要な存在であったと言えるでしょう。
●1982年に海外向けモデルとして発売されたヤマハ「XJ650ターボ」。653㏄空冷4スト並列4気筒DOHC2バルブエンジンに三菱重工製の小型ターボをドッキングして最高出力90馬力/5000回転、最大トルク7.5㎏m/5000回転のパフォーマンスを発揮。なんと燃料供給装置はキャブレター! ホンダ、スズキ、カワサキのターボモデルは全てより緻密な燃料コントロールのできるFI(フューエルインジェクション)を採用するなかで異色の存在だった……のですが、2014年に別冊モーターサイクリストの取材でターボ全車に乗る機会を得たときは特に不具合は感じず。どのモデルも意外なほどジェントルな出力特性でした、カワサキ以外は(笑)
1960年代のロードレース世界選手権を圧倒した「RCシリーズ」や(「RC166」なんて250㏄空冷4スト並列6気筒で60馬力以上!)、1969年に登場したエポックメイキングな並列4気筒エンジン搭載車「ドリームCB750フォア」、並列6気筒の「CBX」などの例を挙げるまでもなく、押しも押されもしない並列多気筒パワーユニットの雄であったホンダが、1979年からのロードレース世界選手権復帰にあたり、一時代を築いた並列多気筒型ではなく“V型”のエンジンを選択!
●はい、1970年代以降すでにヤマハやスズキの2ストロークマシンが主流となっていたロードレース世界選手権500㏄クラスへ4ストロークエンジンで殴り込みをかけたのがホンダ「NR500」なのです(写真は1979年型)。シリンダー挟み角100°の499.5㏄水冷4ストV型4気筒DOHC8バルブ(!)“楕円ピストン”(!)エンジンは115馬力以上を19000回転(!)で発生という「ちょっと何言ってるのか分からない(byサンドウイッチマン)」ことだらけなレーシングマシン。興味を持たれたなら富樫 ヨーコさんが書かれた『ホンダ二輪戦士たちの戦い 異次元マシンNR500』(講談社プラスアルファ文庫 上巻)などをぜひ!
“走る実験室”である苛酷なレースの世界で培われた膨大な知見は、その後1982年デビューの「VT250F」を皮切りに数多くのホンダ市販モデルへ注入されていったのです。
2ストならMVX&NS&NSR系、4ストならVT&VF&VFR&NR&RVF系というバリバリなロードスポーツモデルはもちろん(ツーリングモデルとしてCXやGLといった縦置きVツインもありました)、
●まさにHY戦争が産み落とした400㏄ハイパフォーマンスV4エンジン搭載車、「VF400F」(1982年)から連綿と続いてきたチューメン“Force V4”の血脈は、写真の1996年型「RVF(NC35)」にて終わりを告げたのDEATH。自慢のカムギヤトレーンV4ユニットはすでにパワーダウンを受けて53馬力/3.7㎏mというパフォーマンスでしたが、アルミフレーム、フロント倒立フォーク、プロアーム、ガチ決まりなスタイリング……こんなモデルが税抜き価格78万円(3%税込み価格80万3400円)で買えていたなんてシンジラレナ〜イ!(byヒルマン監督)
前回紹介した〈位相クランク〉という新技術をバックボーンとしてシリンダー挟み角が45°や52°といったアメリカン……今で言うクルーザータイプへ最適な狭角Vツインにまで、ついついホンダお得意の“高回転・高出力”化を実現してしまったり(笑)、何とも胸が躍る展開!
なかでも〈位相クランク〉を採用した狭角Vツインとして最初に世へ出た「NV750カスタム」は、今や誰も覚えていないようなモデルと化していますが、非常に面白い発展を遂げていったのでここで取り上げておきましょう。
ドライバビリティ&燃費の向上にも効いた3バルブ2プラグ
俳優の小栗旬さんが生まれた日の9日前(^^ゞ、1982年の12月17日から発売が開始された“アメリカンスタイルのカスタムスポーツバイク”(←公式リリースの文面より)が「NV750カスタム」でした。
●まさしく当時の由緒正しき“ジャメリカン”スタイル! 位相クランクや3バルブ・2プラグのみならず、タペット調整を不要にする油圧式バルブクリアランス・オートアジャスター機構や、NR500のレース経験から得たノウハウを生かして開発された(とリリースにある)バックトルクリミッター機構(←急激なシフトダウンから生じる後輪のホッピングを抑制)など新技術がテンコ盛り! シャフトドライブ方式も採用されてました。最高出力は66馬力/7500回転、最大トルクが6.8㎏m/6000回転。シート高760㎜、乾燥重量211㎏……。当時の価格は65万円で年間販売計画は4000台!
RC14Eという型式名を持つその心臓は749㏄水冷4ストロークV型2気筒OHC3バルブエンジンで、シリンダー挟み角は45°(ということはクランクピンの片方が90°位相されているということですね。テストに出ますよ!?)。
さらに注目していただきたいのが、「3バルブ」ということ。
●「太陽戦隊! サンバル(ブ)カン!!」……このオヤジギャグを言いたかっただけなんです、ハイ(うなだれる)。なお、写真の『太陽戦隊サンバルカン DVD-COLLECTION』(C)東映は50話が全2巻・各1万6500円(税込み)でまとめられており大変お買い得! 東映ビデオ株式会社から絶賛発売中ですよ〜。今なお続く合体ロボアクションは1981年2月から放映開始のこの作品から始まったッ! ちなみに筆者はデンジマン推し(^^ゞ
ご存じのとおり、エンジンはシリンダー内へ吸い込んだ混合気(ガソリンと大気が適切な比率でミックスされたもの)を圧縮してプラグで着火することにより爆発的な燃焼を起こし、そのピストンを押し下げるパワーを活用して“推進力”を発生させています。
とんでもない速さで吸気→圧縮→燃焼→排気という工程を繰り返している4ストエンジンで、混合気をピストンが下降時の負圧を使って招き入れるとき、吸気バルブは1本より2本のほうがバルブ面積が増える(つまりトータルの入り口が大きくなる)ので高効率ですよね。
●2つのインテークポートから送り込まれた混合気は2本のプラグで点火され、燃焼室内の混合気は素早くまんべんなく燃え広がる(当然、火焔伝播時間は1プラグの約1/2になりますわな)。その分、点火時期を遅らせられるためノッキングが起きにくくドライバビリティも向上。そして排ガスは大径のエキゾーストポートからスムーズに排出……とモロモロ燃焼効率に優れるため、ホンダ社内のテスト(当時)によると1プラグとした場合に比べて2プラグは約10%近くも燃費性能が向上したとか!(図版は1983年型「NV400 カスタム」カタログより抜粋)
でも、排気のときはせり上がるピストンが強制的に燃焼済み混合気を押し出していくので……、
「排気バルブは1本でもよくね? あと、1977年に出した並列2気筒ホークシリーズのときは同じ3バルブでもプラグは1本だったけど、NVはVツインだしシリンダーの左右から1本ずつ突っ込みゃ1気筒あたり2本はキレイに収まる。おお、着火点が倍だと燃焼効率もアゲアゲじゃん! コレでいこうよ」
●画期的な1気筒3バルブ(1プラグ)を採用して1977年5月に登場したホンダ「ホーク-Ⅱ〈CB400T〉」(写真)。395㏄空冷4スト並列2気筒OHC3バルブエンジンは最高出力40馬力/9500回転、最大トルク3.2㎏m/8000回転を発揮。当時価格は31万9000円でした。弟分となる「ホーク〈CB250T〉」は同年の7月に発売開始。249㏄3バルブエンジンは26馬力・2.0kgmのパフォーマンスでした(29万9000円)。なお、人気漫画『東京リベンジャーズ』のマイキーが乗っていた「ホーク〈CB250T〉」(通称“バブ”)は、翌年4月以降に登場した2代目、コムスターホイール仕様のようですね〜
……という技術者のやりとりがあったのかどうかは知りませんが(笑)、ご存じ1988年デビューの「スティード400/600」、1995年登場の「VRX ロードスター」、そして2016年ころまで生産が続いた「シャドウ400クラシック」も採用していた息の長いテクノロジー《OHC3バルブ・2プラグ方式》はここに誕生しました。
ホンダ・ナナハン狭角Vツインのめくるめく大冒険!
残念ながら当の「NV750カスタム」自体はホンダお得意(?)の放置プレイがスタートし、マイチェンどころかカラーリング変更すら行われないまま終焉。
しかし、その狭角ナナハンVツインエンジンはなんと、“ビッグオフロード”というジャンルへ展開されていきます。
これまた知っている人は少ないと思われるのですけれど、1983年8月10日から日本国内300台限定で発売された「XLV750R」がそうなのです。
●「750㏄クラスでは国内初のランドスポーツバイク」という触れ込みで登場した当時75万円の車両……(当時はまだアドベンチャーモデルというジャンルの概念はありませんでした)。空冷を採用した749㏄の狭角Vツインエンジンは最高出力55馬力/7000回転、最大トルク6.0㎏m/5500回転を発揮。高いシート高と213㎏という車両重量は乗り手を選びましたが、モーターサイクリスト誌で活躍していた某オフロード系ライターは砂浜でこの巨体を自由自在に振り回していたなぁ……。バイクは気合いと根性と体力で乗るのではなく、高いスキルで操るものだと思い知った瞬間……
ど~ですか、お客さん! この威風堂々っぷりは~!!
巨大な19ℓ入り燃料タンクにカラフルで肉厚なシート(シート高は835㎜)、アルミ……ではなく銀色に塗られたスチール製極太角型断面ダブルクレードルフレーム、それが包み込むのはNV譲りのVツイン……ってアレ?
何かがおかしい……。
ラ、ラ、ラ、ラブソング、いやラジエターが存在していな~い!!
そうなのです、「NV750カスタム」とボア×ストロークも同数値(79.5㎜×75.5㎜)なシリンダー挟み角45°の749㏄4ストロークV型2気筒OHC3バルブ(2プラグ)エンジンながら、こちらは空冷エンジン。
●1983年型「XLV750R」カタログより。オイルパンが不要なドライサンプ式を採用しつつエンジン前面(ガードのところ)にオイルクーラーも設定。走行風がよく当たる強固な鉄製メインフレームの前部分をオイルの通路として冷却機能をサポートさせつつ、転倒などでのオイル経路破損を防ぐというメリットも獲得しているナイスアイデアが採用されています。さらにタンク下かつエンジン両サイドに設定されたシュラウド……というかエアスクープというか導風板が、冷却されにくい後方のシリンダーへ走行風を積極的に誘導する役割も果たしているのです。それでもやっぱり砂漠を全開で駆け抜けるような極限に近い高負荷走行では後ろの気筒のオーバーヒートが発生したそうで……さもありなん
まぁ当然ながらエンジン型式名も“RD01E”とNVとは全く異なっており、根幹の技術とスペックを共有しつつ違うジャンル向けの狭角Vツインを同時に開発していた……というのが正しいのでしょうけれど、バイクに目覚めたばかり、かつ時系列しか追ってない中学3年生だった筆者からすれば、
「なんで最新鋭な水冷エンジンだったのに、どうして手間ヒマかけて空冷にしちゃうのよ?」と理解に苦しんだ遠い日の記憶が鮮明に残っています。
●1983年型「XLV750R」カタログの表紙。アクスルストローク(ホイールトラベル)200㎜を誇るフロントフォークはエアサス仕様。そしてリヤにもプロリンク・エアサスを採用しているのですけれど(アクスルトラベル180㎜)、リヤのスイングアームはシャフトドライブケースと兼用となっており、この写真だと急に足が細くなったようなアンバランスさを感じてしまったものです。しかし……ホンダのトリコロールカラーは絶対正義ですな!
まぁ、「転倒したときに水冷システムが破壊されると走行不能になってしまう」という根源的な恐怖心が、まだまだ多くのライダーの頭にはびこっていた時代でもありますし、軽量化や低重心化という面でも空冷が有利だったことは間違いのないところ。
こちらの「XLV750R」向け空冷エンジン版をベースにしたダートトラックレーサー「RS750D」(1983年~)と、
●筆者が編集に深く関わった『Technical Illustrations of HONDA MOTORCYCLE(ヤエスメディアムック474)』へ収録した「RS750D」の透視図。特徴的なオイルフィルターの位置などはまんま「XLV750R」ですね。ただしパワーを出すためにエンジンヘッドはHRCが4バルブ化したとか。なんてったって米国でとんでもない人気を誇るAMAダートトラックレースは1周1600mの“(1)マイルレース”だとコーナー突っ込みのとき220㎞/hにも達し、そのままアクセルを開けたまま車体をフルバンクまで持っていくという身の毛もよだつド迫力ぶり。そこで常勝を誇っていたハーレーダビッドソン「XR750」を打ち負かしたのですから価値は非常に高かったのです!
「NV750カスタム」同様の水冷エンジン版に発展的改良を施したパリダカレーサー「NXR750」(1986年~)は、
●1986年型ホンダ「NXR750」(痛……いや、通はNXRを“ヌクサール!”と呼ぶそうです)。シリンダー挟み角45°のギュッと凝縮された狭角Vツインが車体の中央へ見事に収められています。排気量は779.1㏄まで拡大され、最高出力は69.3〜75馬力ほどを発揮したとか。水冷システムを採用しておりますが、独立した配管を持つ2つのラジエターを装備することで、仮に片方が破損しても片方が残っていれば走行可能……など、ありとあらゆるところで「こんなこともあろうかと」(by宇宙戦艦ヤマトの真田さん)対策が施されている変態的(いい意味)マシン……。さらに詳しいことがよく分かるこだわりのモーサイ記事はコチラ!
ともに目標としていた最高峰レースイベントで4連覇を飾るという見事に過ぎる偉業を成し遂げました。
市販車の世界でも強烈なインパクトを放つモデルが続々……
ホンダ狭角Vツインの快進撃は止まりません。
1987年には「トランザルブ600V」が発売されて、備わっていた高い汎用性が欧州市場を中心に大人気を獲得。
●日本でのホンダ正規ルートでは1987年4月10日より(1回だけ)300台限定で発売が開始された「トランザルプ600V」。583㏄シリンダー挟み角52°の水冷4ストV型2気筒OHC3バルブ(2プラグ)エンジンは最高出力52馬力/8000回転、最大トルク5.4㎏m/6000回転を発揮。極低速域からモリモリと太いトルクが発生するので、18ℓタンクを持つ車両重量197㎏の車体ながら軽々と走行できました。ハンドリングも鷹揚でバイク旅が楽しい! とはいえ、前述のオフ達人はコイツでガレ場もひょいひょい上り下りしていたなぁ(シート高は850㎜)……。なお、TRANSALPとはTRANS(超越する)+ALPS(アルプス)で「アルプス越え」という意味。当時の価格は59万8000円ナリ!
そしてそして1988年、「スティード400/600」が出現した同じ年の5月に初代「アフリカツイン(RD03)」が日本市場へと降臨し、
●記念すべき“アフツイ”の初代はナナハン……ではなくロクハン(笑)。647㏄水冷4ストV型2気筒OHC3バルブ(2プラグ)エンジンは、最高出力52馬力/7500回転、最大トルク5.7㎏m/6000回転のパフォーマンス。……52馬力というのはトランザルプ600Vと同じだったんですね。発生回転と最大トルクは異なっていますけれど。燃料タンク容量は24ℓ! 車両重量は221㎏! シート高880㎜! “砂漠の女王”ことパリダカワークスマシン「NXR750」レプリカを標榜するだけあってHRCのステッカーも誇らしげですね。1988年5月20日より限定500台の発売が開始され、瞬く間に売り切れてしまったと聞いております。当時価格は74万9000円〜ッ!
多大なるインパクトをビッグオフ好きライダーへ与えたのです。
この2台はともに排気量は微妙に違えどシリンダー挟み角52°であることは言うまでもなく〈位相クランク〉の水冷4ストロークV型2気筒OHC3バルブ(2プラグ)エンジンを搭載しており、不快な振動なくスムーズかつトルクフルに吹け上がるパワーユニットの出力特性は、手に入れたオーナーから例外なく絶賛されたと聞いております。
その後「アフリカツイン」は1990年に排気量を742㏄へ拡大すると同時に、外観から走行性能まで細かく全方位に性能を向上させるフルモデルチェンジを受けて熟成度を高め、不動の人気を獲得。
●晴れて(?)ナナハンとなった1990年型「アフリカツイン(RD04)」。742㏄(以下略)Vツインは最高出力57馬力/7500回転、最大トルク6.1㎏m/5500回転とパワフルさがマシマシに。燃料タンク容量24ℓとシート高880㎜は不変ながら、車両重量は15㎏増の236㎏になってしまいました。1990年3月20日から限定500台で発売され、価格は4万円アップの78万9000円。モーターサイクリスト誌アルバイト1年目、ホンダ青山ビルへ広報車を借り出しに行かされて小山のような車体にビビりまくった記憶が残ってます。ワタクシ、身長は178㎝でも座高が100㎝だったので……。学生時代に座頭市ならぬ“座高壱(m)”と揶揄されたトラウマと戦いつつ、なんとか無転倒で編集部にたどり着きました
その後「アフリカツイン」は2000年8月に出た最終型まで装備充実、フルモデルチェンジ、カラーチェンジ、外装変更などの大〜小改良を毎年のように繰り返し、その都度設定される150〜300台の限定台数はいつだって速攻でSOLD OUT!
●写真は外観を一部変更するとともにエンジン出力の向上を受けた1996年型「アフリカツイン(RD07)」。具体的にはフロントアッパーカウルとウインドスクリーン。そしてシートの形状などが変わり、エンジンの最高出力は57馬力から58馬力へとアップ。シート高は870㎜となって車両重量も234㎏へ……と、まさに熟成の極みへ。以降はカラーチェンジ中心で無事完走を果たしました(税抜き価格は1993年の3代目登場から2000年の最終モデルまで89万円で変わらず!)。そして10数年にわたる雌伏の時を経て2016年、並列2気筒エンジンを搭載した「CRF1000L アフリカツイン」へとビッグブランドは引き継がれたのです
同時期に巻き起こった逆輸入車ブームの中でも「アフリカツイン」は人気車種として広い支持を集め、相当な数が国内に入ってきているのは間違いのないところです。
なお、トランザルプは日本市場向けに400㏄版が開発され、「トランザルプ400V」として1991年10月から発売がスタート。
●1991年10月16日から発売が始まった「トランザルプ400V」。398㏄(以下略)Vツインは最高出力37馬力/8500回転、最大トルク3.5㎏m/6500回転の実力を持ち、18ℓの燃料タンク容量とともに日本におけるツーリングでは必要にして十分。シート高850㎜かつ車両重量201㎏というスペックにビビる人も少なくありませんでしたが、いざ走り出せばそこはさすがのホンダ車で自由自在に走り回ることができます。税抜き価格は57万9000円(消費税3%込み価格は59万6370円)でリリースに記載されていた年間販売計画は1000台でありました。能登半島のキャンプ場で出会った可愛らしい女性ライダーの愛車……という記憶がいまだに残っています
こちらは兄貴分たちのような限定発売ではなかったこともありロングセラーモデルへ。
1994年には外観を変更するマイナーチェンジも敢行され、そちらが最終型となりました。
●1994年3月1日より税抜き58万9000円(3%税込みで60万6670円)で発売された「トランザルプ400V」。アッパーカウルまわりが一新されて精悍になりましたね。ナックルガードも大型化されております。一定の支持を得たことを証明するかのように年間販売計画が1200台へ上乗せされていました。西湖湖畔キャンプ場で出会った可愛らしい女性ライダーの愛車……という記憶がいまだ(以下略)
ただ、海外生産版トランザルプはモデルチェンジを繰り返して2012年ころまで生産を継続。
そして現在、トランザルプ、アフリカツインというビッグブランドがともに並列2気筒モデルへ転生して日本でも絶賛発売中というところがまた感慨深いですね……。
と、アメリカン(ジャメリカン!?)モデルからスタートしたホンダ入魂の狭角Vツインは、極限で戦うレース参戦でも鍛えられてビッグオフロード、オールラウンドスポーツ(今で言えばアドベンチャーですかね)、ロードスポーツ(あの「DN-01」もそう!)、
●ホンダ「DN-01」……2008年3月7日から大いなる期待をされつつ発売を開始するも広い支持を得ることができず、カラーチェンジした2009年モデルが最終型となってしまった悲運の(?)大型二輪スポーツクルーザー。エンジン本体は輸出専用車「NT700V ドゥービル」ベースの〈位相クランク〉680ccシリンダー挟み角52°水冷4ストV型2気筒OHC4バルブエンジンで(最高出力61馬力/7500回転、最大トルク6.5㎏m/6000回転)、そちらにホンダ独創のロックアップ機構付油圧機械式無段変速機「HFT」が組み合わされました。燃料タンク容量は15ℓ。車両重量は269㎏。シート高690㎜。税抜き価格は118万円(消費税5%込み価格123万9000円)。カッコよかったんですけれどね……
そして〈非位相クランク〉を備えて大らかな鼓動感を楽しむゆったりクルーザーの世界にもジャストフィットするという、非常に柔軟性の高い対応力を見せてきたのです。
今こそ見直されるべき、優しくて楽しい爽快な走り味!
そんな由緒正しい血統を持つエンジンを積んだ「VRXロードスター」が乗って面白くないはずがありません。
●発売当時、某ハーレ○の某スポ○ツスタ○に似すぎているとの風評被害が巻き起こり、ちょっと敬遠してしまった購入予備軍ライダーも少なからずいらっしゃったのではないかと……。しかし、雰囲気が似ているとして、ナニが悪いのか(^^ゞ。中古車市場を眺めてみると、そちらへあえて寄せていくカスタムを施されたオーナーも数多くいたりして十分に楽しんでいるではないですか。バイクライフはもっと自由に楽しんでいい〜んです!(←川平慈英さん風に)
ライバル比較試乗取材の人足としてある程度の距離を走らせた記憶を振り絞って著述していきますと……。
まず、アイドリングの排気音からしてベースとなった「スティード400」とは別物。
「ドドドドドド……」といかにもな低音を強調しているスティードとは異なり、「バババババババッ!」と、ちょっとカン高い歯切れのいい金属の共鳴音まで混じっている音質が発進前から気分を盛り上げてくれます。
●1995年……まだ騒音規制も排ガス規制も今ほどは厳しくなかった時代。だからこそ印象的なデュアルマフラーも細身かつ直線基調で後端部をテーパー形状にしているというシュッとした造形が実現できていたのです(排ガス浄化のための触媒を収める余計なスペースも存在せず)。本文でも書いていますが、純正のままでも非常に音質のいいエキゾーストノートが吐き出されますので、もし中古車でノーマル品が装着されていたなら、しばらくその音質を楽しんでみてください。なお、リヤブレーキはφ240㎜のローターを持つ油圧式シングルディスクとなっております
当時はアシスト&スリッパークラッチなんて存在していなかったので、それなりに重いクラッチを握ってスコン!とギヤを1速へ。
●フロントフォークはφ41㎜の大径インナーチューブを採用したテレスコピック式でシンプルな構造ながら十分な路面追従性を発揮してくれました(※新車時の印象)。ハンドルは1インチ(φ25.4㎜)のハンドルパイプに、太めのグリップラバーを装着している仕様で握り心地も良好そのもの。“ザ・バイク”といった趣きの丸型ヘッドライトは内部にマルチリフレクターを備えるタイプで、好みに応じてハイワッテージなバルブに交換するのもアリでしょう。なお、写真の車両はウインカーが社外品に交換されています
何の気負いもなくスタートできて、変速するごとに伸びのいい加速感が体を包んでくれます。
一般道の流れをリードするくらいなら5000回転も回さずに左足を掻き上げていけば全く問題なし。
●何度も書いておりますが、このエンジンは1気筒あたりスパークプラグを2本使うタイプなので、交換時は一気に4本をチェンジしなくてはなりません、よりよい燃焼効率を実現するためのものですので何卒ご了承ください(笑)。クロームメッキが施されたエアクリーナーケースカバーは正円のノーマル状態でもなかなか質感がよくスタイリッシュなのですけれど、少し形状を変えるだけでも全体の印象がグググッと変化いたします。これまたネットを使えは先輩VRXオーナー様方のナイスなカスタム例を山ほど閲覧することができますので、興味のある人はぜひチェックのほどを〜
信号もない田園道路ならトップギヤ5速のままでどこまでも走っていけましたね。
一次振動をあえて残している〈非位相クランク〉仕様のエンジンとはいえ、日常使用域での不快感は皆無!
その気になればアッという間に7750回転から始まるレッドゾーンまで一直線(……ですが、7000回転以上回すとさすがに振動は気になってきます)。
●スポーティな砲弾型ケースを採用したメーターは左側にオド&トリップメーターを備えた速度計、右に1万回転まで目盛られた回転計を配置。インジケーター部には高輝度青色LEDなどが採用されており、視認性の高い絵文字表示となっているのです。パイプハンドルなので、クランプを使ったスマホやアクションカメラなど電気系アイテムの装着も簡単そのもの!
その領域になると排気音も♪ヒューーーーーン!という雰囲気へと変化するので気分も高揚……!
「たったの」という形容詞が付いてしまいそうな最高出力33馬力ではありますが、非力さを感じるのは高速道路でスロットル全開にしたときくらいのもの(あ、スピードレンジの高いワインディングでも少々……)。
かくいう峠道でのハンドリングはまさにホンダならではのニュートラル然としたもので、視線を向けた方向へシュッと前輪が向かっていく気持ちよさは格別でした。
●写真のリヤショックユニットは社外品。ノーマルのショックユニットは5段階のプリロード調整機構付きで乗る人の体重や積載する荷物の重さなどによって、気軽に初期荷重値を変更することが可能です。ちなみに「Roadster」の意味はクルマとバイクとはちょいとニュアンスが違っており、クルマの場合は「軽装の馬車」から転じてコンバーチブルのオープンカーを表わし、バイクの場合は「もっとも一般的で汎用性のある車両」という雰囲気の意味になるとか。まぁ、言ってしまえば「公道を気持ちよく走るのに適したバイク」……ということなのでしょう。アンダスタン?
ホイールベースが長め(1510㎜)ということもあってせせこましいカーブが続く箇所ではちょっとオーバーアクションな切り返しが必要になりますけれど、慣れてしまえば「カメッ!」と気合いを入れながらヒラリヒラリとコーナーをクリアしていくことが最高に楽しくなってきます(調子に乗りすぎると“ガードレールキックターン”が必要な状況になってしまいますのでご注意のほどを。別にVRXに限った話ではないですが(^^ゞ)。
当然ながらABSもトラクションコントロールも装備されていない車体ではありますけれど、百戦錬磨のホンダ開発陣が練りに練って高いバランスで仕上げたシャシーですので、走る、曲がる、止まるが意のままに行えます。
●フロントブレーキは制動フィーリングに優れたニッシン製ブレーキキャリパーを使う油圧式シングルディスクで、φ310㎜のフローティングタイプローターを採用している。ホイールは前後とも48本のスポーク+バネ下重量を軽減するワイドサイズのアルミ製リムで構成。なお、タイヤサイズはフロントが120/80-17、リヤが140/80-17でともにチューブを使用するバイアスタイヤの中から好みの銘柄を選べばヨシ!
シート高はそれなり(770㎜)だったのですけれど、分厚いウレタンのシートは跨がったときほどよく沈んでくれるので足着き性は良好……。
●シートは十分な幅を持ち、肉厚もしっかりしているもののタンクに向かって絞り込まれている形状なので、運転者の太ももと干渉しづらいメリットあり。タンデムライダーが座る部分は広く角度もフラットなので乗り心地も良好かつ、大きなシートバッグを使っても安定しやすい。ただし、センタースタンドは設定されていないので装着時や荷物積載時にはちょっとしたコツが必要になってくるでしょう。シート下には小物などを収納できる容量5ℓのユーティリティボックスも装備されており、カッパなどを突っ込んでおくのにも便利(シートの脱着は写真に映っているRoadsterロゴの横にある鍵穴を使います)! ヘルメットホルダーも写真のとおり右側リヤショックユニットの後方に設定されていました
う~ん、思い出すほどにナイスなバイクだったことが判明してきたぞ(笑)。
この素朴で奥深いコシヒカリの炊きたてご飯のような美味しい乗り味を当時、バイク雑誌の誌面を通じて多くのライダーへ伝えきれなかったことが口惜しい……。
●ホント〜に毎日食べても(乗っても)飽きることがない、美味しいご飯のようなバイクが「VRX ロードスター」でした。その良さに惚れ込んでしまうと、予想以上に長い付き合いとなってしまうことでしょう(笑)
ぶっちゃけ大ヒット……とはいかなかったものの、一定数が世に出た「VRXロードスター」は、ほぼノーマル状態で大切に乗られていた車両がまだ多く残っている印象がございます。
●ノーマルではシブくまとめられていたカラーリングですが朱色などのビビッドなカラーへ塗り替えたり、はたまたベースはノーマルのシブい色のままでもセンスのいい白や金のピンストライプをうまく配するだけで、印象がガラリと変わることにも驚かされました(「X」のフォロワーさんからいただいた写真や情報より)。お絵かきソフトに写真を取り込んで、自分だけの「VRX ロードスター」を夢想していくのも楽しいですよ〜
どんな用途にもしっかり応えてくれる優等生クンは、なんだかんだ言って気負わず疲れないエス・ディー・ジーズなバイクライフを実現してくれるもの(笑)。
まさに今、汎用性の高い相棒選びをしている皆さん、「VRXロードスター」という選択肢があることを覚えていてくださいね〜!
さて次回は、スズキ「DR-Z400SM」をお届けする予定でぇ~すエム。
●……これ、ナンバー付き市販車のカタログで使われた写真です。「ウソみたいだろ……」と思わず『タッチ』の上杉達也気分になってしまう突き抜けっぷり。今なお熱狂的なフリークを多数抱えている過激な400㏄モタードマシンについて語りおろしていくことといたしましょう!
あ、というわけで「VRXロードスター」は今や消滅したホンダVツインの醍醐味をリラックスして楽しむことができる秀逸なモデル。カスタムパーツが少ないという難点もありますが(苦笑)、カラーリング、タイヤ、サス、スプロケットなどなどやれることは山ほどあります。レッドバロン本社とスタッフが共有する膨大なノウハウとパーツをうまく活用して、自分だけの相棒を作り上げてみませんか? まずは、お近くの店舗まで足を運んでみましょう!
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