バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉なんだけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの? そのメリットは!?」なんて今更聞けないし…。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、ハイスペックなエンジンでよく使われる用語の『DOHC』。読み方はそのままディー・オー・エイチ・シーだ。

WR250RのDOHCエンジン

ハイスペックなエンジンの代名詞的用語『DOHC』。この単語は動弁機構、つまりバルブがどのような仕組み動いているかを表す言葉だ。写真はDOHC単気筒エンジンを搭載したヤマハのWR250R/Xで、250ccクラスの単気筒としては超高回転型。最高出力31馬力を10000回転で発揮する。

 

まずはここでエンジン内部のパーツがどんな風に動いているかを動画でお勉強。①シリンダー内のピストンが燃焼の膨張力によって押し下げられ、クランクシャフトを回す。②その勢いを使ってピストンが上昇しながら排気ガスを排気バルブから押し出し、③さらにピストン下がるときに吸気バルブから混合気を吸い込み、④ピストンが上昇するときに圧縮。再びプラグの点火によって再び膨張が起こるとピストンを押し下げる…という“4つ”の工程を“1サイクル”とするエンジンが4サイクルエンジンだ。今回のお題である『DOHC』は、吸気バルブと排気バルブをどう動かしているか? というところがポイントになる。

そもそも『DOHC』とは?

DOHCというのは略語で、正式には、ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト。直訳すれば、二つの・頭上の・カムシャフト。つまり“シリンダーヘッドの上に2本のカムシャフトがある”というエンジンの構造そのものを示した言葉で、別名はツインカム。このカムシャフトは、エンジンの内部に混合気を送り込んだり、排気ガスを排出するための“バルブ”という密閉弁の開き具合や開閉タイミングを司る重要なパーツである。

カムシャフト

カムシャフトは文字通り、金属の棒(シャフト)に、カムと呼ばれる卵の断面形状の突起が取り付けられている。このシャフトが回転することでカムの凸部がバルブを押し下げ流路が開く。この隙間からシリンダー内へと混合気が流れ込んだり、排気ガスが排出されたりする。

 

ここでスズキのSV650のシリンダーヘッドの透視図を見てみよう。ピストンが収まったシリンダーの上側、つまりシリンダーヘッドに4本のバルブ機構(棒にお皿を付けたようなパーツ)があり、その上に2本のカムシャフトが見える。これが『DOHC』の基本構造で、カムシャフトが回るとカム山の出っ張りがバルブの頭を押し下げる。写真、左上側のシャフトが2本の吸気バルブを動かし、右下側のシャフトが排気バルブ2本を動かしている。

SV650のシリンダーヘッド

エンジンの動力で画像奥のカムチェーンを引っ張るとカムシャフトが回転。ピストンの上下運動に合わせて、カムシャフトの突起がバルブを押し下げることでバルブがシリンダー方向に押されて吸排気のための流路が開く。閉じるための戻りはスプリングの反力を使うのが一般的だが、機械式で強制的に閉じるデスモドロミックという機構もある。

 

SV650のシリンダーヘッド

ちなみに『DOHC』かどうかはエンジンの見た目からも判別可能。写真は同じくSV650のシリンダーヘッドだが『DOHC』エンジンは、カムシャフトを2本も収めなければならないため頭でっかちになり、いかにもカムシャフトが2本内部に入ってそうな見た目になっている。

『DOHC』のなにがスゴイの!?

「高回転型の高性能エンジンの証」

…ってことだ。バイク用エンジンの進化のすべては高出力化にある。同じ排気量のエンジンでも高回転化できれば、それだけよりたくさん仕事がさせられる。乱暴な言い方をすれば、排気量が同じでパワーが一緒でも、1分間に5000回転しか回せないエンジンと、1分間に10000回転できるエンジンなら、後者の方が倍の仕事がさせられて高性能というわけ。そんなわけでバイクのエンジンは、大排気量化や多気筒化、圧縮比アップなど、色々な工夫を盛り込んで高回転化してきた。だが、そんな高回転化のなかで大きな弊害となったのが動弁機構だったのだ。

つまり、いくら金属加工精度が上がったり、多気筒化などの工夫でエンジンがスムーズに回るようになっても、結局のところ燃料の供給と排気ガスの排出が追いつかなければそれ以上の高回転化は望めないってこと。早く正確に動くバルブシステムなくしては一定以上の高回転化は望めなかったのだ。

そんなエンジン高回転化のキーデバイスである動弁機構だが、『DOHC』は言ってみれば現在最先端の動弁機構ってことになる。サイド・バルブ(SV)より、オーバー・ヘッド・バルブ(OHV)より、オーバー・ヘッド・カムシャフト(OHC)よりも高回転化が可能なハイスペックな動弁機構が、ズバリ『DOHC』ってわけなのだ。

動弁機構の進化過程

SV(サイド・バルブ)

シリンダーの横にバルブがあるからサイドバルブ。初期のエンジンは全てこれだったが、燃焼室が大きくなってしまい圧縮比が上げられないことで、のちにバルブをシリンダーヘッドに移したOHCを登場させて燃焼室形状の小型化をはかった。現在でもそれほど高回転化の必要のない発電機のエンジンなどでは見られる形式だが、バイクのエンジンとしては絶滅。ただGASGASが4ストエンジンのトライアルバイクを登場させようとしたときに、2ストロークエンジン並みの全高の低さを求めてサイド・バルブの採用を検討して話題になった。

SV(サイドバルブ)を採用したバイク用エンジン

GASGASが2007年頃に開発していた4ストロークトライアルマシン・TXT PRO Four Stroke 4Tのエンジンはサイドバルブ式だった。シリンダーヘッドはプラグと燃焼室だけなのでシリンダーヘッドがコンパクト化が可能。あえてそんな前時代的なバルブ機構のエンジンを作ったのは、トライアルバイクに積む全高の低いエンジンが欲しかったため。

 

OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)

サイドバルブから進化して、バルブをシリンダーヘッドの上に持ってきたからオーバーヘッドバルブ。サイドバルブよりも燃焼室をコンパクトにでき、圧縮比が上げられるのでハイパワー化が可能。カムシャフトはまだエンジン下部、写真のエンジンだと“YAMAHA”のロゴが入った丸いプレート内部にあり、プッシュロッドと呼ばれる棒を下から押し上げるようにしてバルブを動かしている。現代でもハーレーダビッドソンなどでは現役の動弁機構で、最大のメリットは、後述するOHCやDOHCよりもシリンダーヘッドがコンパクトでエンジン全高を低くすることが可能。つまりエンジン積載スペースが限られた中でも、ロングストローク化が可能なエンジン形式と言える。

OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)を採用したバイク用エンジン

エンジン下部からシリンダーヘッドへと伸びるプッシュロッドがあるのが外見的にも最大の特徴。写真はヤマハの海外向け大型クルーザーのエンジンで、ロングストロークが生み出す鼓動感がその特徴だ。

 

OHC/SOHC(オーバー・ヘッド・カムシャフト)

OHVのプッシュロッドは構造が簡単だが、カムシャフトとバルブの間に“棒で押すという”作業が入るためロスが多く、高回転化が難しい。ならば、バルブに加えてカムシャフトもシリンダーヘッドに移して、バルブを動かせば高回転化がはかれていいんじゃない?…と生まれたのがオーバーヘッドカムシャフト。 DOHCと区別する意味で、SOHC(シングル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)と呼ばれることもある。亜種として吸気側のバルブをカムシャフトが直押して駆動するホンダのユニカムなどがある。

OHC/SOHC(オーバー・ヘッド・カムシャフト)を採用したバイク用エンジン

1本のカムシャフトが、ロッカーアームと呼ばれるシーソー的な動きをするパーツを介して吸気と排気の両方のバルブを動かしている。写真はスズキのジクサー150のシリンダーヘッド。

 

DOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)

ロッカーアームを介してバルブを動かすOHCでは、まだフリクションロスやエネルギー損失がある。さらなる高回転化のためには、吸気と排気の両方のバルブを2つのカムシャフトで直押してより正確に早くバルブを開け閉めさせたほうがいい。…と誕生した、現時点で一番高回転化に向くハイスペックな動弁機構がDOHC、ダブルオーバーヘッドカムシャフトだ。多くのスポーツエンジンに採用されており、ロードレース最高峰のモトGPマシンも当然DOHCエンジンを採用。ちなみにドゥカティのデスモドロミック機構はバルブを直押しするDOHCの特性に加え、バルブの戻りの動きにスプリングを使わず機械的に引き上げることで、更なるバルブ駆動の正確さを求めた機構だ。

DOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)を採用したバイク用エンジン

バルブに加え、2本のカムシャフトがシリンダーヘッドに収まるため、エンジンの全高が高くなってしまうのがウィークポイント。写真はヤマハのWR250R/X。

 

 

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