バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、 最近スポーツモデルを中心に装備が進んできている電子制御装備の『クイックシフター』だ。

そもそも 『クイックシフター』とは?

ギヤチェンジ時のクラッチレバー操作は意外と疲れるものだ。丸一日ツーリングしていると左手の握力がなくなってきたり、ひどい時には手首が痛くなったりすることもある。アシストスリッパークラッチではそんなクラッチレバーの操作が軽くなる…なんて話をしたが、そもそもとしてこの 『クイックシフター』を搭載したモデルを選べば、クラッチレバーの操作が“大幅に”減る。

“大幅に”なんて回りくどい書き方をしたのは、発進と停止時には、どうしてもクラッチレバー操作が必要になるため。

ただひとたび走り始めてしまえば、クラッチレバーの操作はほぼ不要。左足のつま先でシフトチェンジペダルを操作すれば、クラッチレバーを握らずともギヤが切り替わる。モデルによって“ギヤが何速以上で、エンジン回転数が○○回転以上”といった発動条件はあるものの、これまで様々な『クイックシフター』装着モデルに乗ってきた経験から言えば、走り出してしまえばクラッチレバー握らなくてもギヤチェンジが可能になると思ってもらって間違いない。

ホンダ・CB1100Rの 『クイックシフター』概念図。

ホンダ・CB1000Rの 『クイックシフター』概念図。

 

機構的な話をすれば、この 『クイックシフター』も、現代のモデルはフューエルインジェクションありきであり、近年高性能化が進んだものはさらに電子制御スロットルが必要になる。

さてどうやってクラッチレバー操作をせずにギヤチェンジをしているのか? ちょっとバイクの経験が長いライダーだったら、 『クイックシフター』の付いてないごく普通のバイクでもクラッチレバーを使わずにギヤチェンジができることを経験的に知っているだろう。ちょっとその時のことを思い出して欲しい。加速でシフトアップする際に、スロットルを戻した瞬間にシフトペダルを上げると、クラッチレバーを使わずともわりとスムーズにシフトチェンジが可能だったりする。…まぁ、回転が高すぎたり、タイミングが悪かったりするとシフトフォークやシフトドラムに大きな負担をかけることになるのであまりオススメはできないが、僕自身、疲れてきた時などは横着してこの方法でシフトアップすることもある。

今回紹介する 『クイックシフター』は、この“スロットルを戻した瞬間にシフトペダルを操作”的な内容を、電子制御でものすごく緻密に行っていると思って間違いない。そのプロセスは…

①シフト検出スイッチがシフトチェンジペダルの操作を検知
②ECUが車輪速やエンジン回転数、シフトドラム回転角、グリップ開度をセンシングしながら最適なタイミングを図る
③ECUが電子制御スロットル、インジェクションを使って瞬間的に駆動カット
④駆動が抜けたほんの僅かな一瞬でギヤが組み変わる
⑤シフトダウン時には電子制御スロットルがバタフライバルブの開度を調整してエンジン回転を合わす

という流れになる。

CBR250RR

オプション設定とはいえ、2020モデルからミドルクラスで初めて『クイックシフター』を装備可能となったホンダのCBR250RR。

390デューク

ミドルクラスにも徐々に『クイックシフター』装備が波及しつつある。ホンダのCBR250RRに続き、KTMの390デューク(2021モデル〜)、それに兄弟モデルのRC390(2022〜)がUP/DOWN対応型の『クイックシフター』をオプション設定。またヤマハのYZF-R25/MT-25もUPのみだが『クイックシフター』がオプションで設定された。

 

 『クイックシフター』のここがスゴイ!

スロットルを開けたままギヤチェンジが可能

走行中はクラッチレバーを握らずにギヤチェンジが可能な 『クイックシフター』であるが、電子制御スロットルを併用する 『クイックシフター』はさらにすごい。なんとスロットルをワイドオープンした状態でもスムーズなギヤチェンジが可能になったのだ。

僅かなタイムロスをも嫌うレースシーンでは、この『クイックシフター』の登場でさらに無駄のない加速が可能になったというワケである。またオートブリッパー機能がついていれば、シフトダウン時に電子制御スロットルが自動でバタフライバルブを開けてエンジン回転数を合わせてくれるため、ライダーはクラッチレバーやスロットル操作以外の別のことに注意をはらえるというワケだ。

カワサキ・ニンジャH2SXSEのメーター

『クイックシフター』は電子制御なので、その機能をOFFにして通常のバイクと同じようにすることも可能。…なのだが 『クイックシフター』の機能がアクティブでもクラッチレバーを使ってのギヤチェンジも普通に可能。なので機能をカットする必要性はあまりなさそうだが、OFFにできるモデルが多く、モデルによってはアップとダウンで個別にON/OFFできることもある。写真はカワサキ・ニンジャH2 SXSEのメーター。

 

 『クイックシフター』にはスポーツ用とツーリング用がある

サーキットレンジの走行では大変有効な 『クイックシフター』であるが、冒頭で話したとおりクラッチレバーの操作回数が減ることはツーリングライダーにとっても非常に大きなメリットになる。

面白いのは、スポーツバイクの『クイックシフター』と、ツーリング系モデルの『クイックシフター』では、チェンジペダルのタッチというか、操作フィーリングが異なるということだ。

スポーツバイクの『クイックシフター』は、触れただけで…というのはちょっと大袈裟だが軽く触ったぐらいでシフトチェンジできるのに対し、ツーリングモデルの 『クイックシフター』はしっかりつま先で“ガッチャ”と押さないとギヤが変わらないようになっている。

BMWなどは、旅の道具としての要素が強いのか、ツーリングモデルからスポーツモデルまで割と重めのタッチのモデルが多い。またヤマハ(の一部の車両)はスロットルを完全に戻さないとシフトダウンできないような設定を採用するなど、メーカーによっても少しずつ『クイックシフター』の味付けが異なるのも面白いところだ。

CBR1000RR(2017〜)

CBR1000RR(2017〜)などは、アップとダウンのシフトタッチをそれぞれ「ソフト」「ミディアム」「ハード」の3段階で変えられるようになっている。

 

またスポーツ走行を想定して作られた『クイックシフター』の場合、加速時に極力駆動が抜けないような工夫が盛り込まれている。一方のツーリング用の『クイックシフター』の場合、安全を考慮してギアが組み変わった瞬間に駆動を一瞬カットするような制御が盛り込まれるのが普通。これらのツーリング用の『クイックシフター』でちょっとスポーティに走ろうとする『クイックシフター』の挙動が煩わしく感じることもある。そんな場合には機能を『クイックシフター』の機能をオフにしてしまった方が気持ちよく走れることが多い。

ホンダのXL750トランザルプでオフロード走行

特に重量級のアドベンチャーバイクなどで、スタンディング走行するような場合に『クイックシフター』の駆動カットの挙動が強く出る場合がある。煩わしく感じるようなら機能をカットしてしまった方が気持ちよくスポーティに走ることができる場合が多い。

 

 

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