「Ninja ZX-12R」と「ZZR1200」というカワサキに2台のフラッグシップが並び立っていた2002年から2005年。傍目から見ても「混乱しているなぁ~」と思わされたダブル旗艦時代ですが、今や幅広いジャンルにおいて先駆者となり絶好調ぶりを誇っている〈川崎重工業モーターサイクル部門のビッグバン〉も深く同時に進行していたのです……!

●2012年型カワサキ「Ninja ZX-14R ABS」。非常にざっくり言うと主要メカニズムは「Ninja ZX-12R」の発展進化形で、スタイリングは「ZZR1200」のエッセンスを導入しつつ昇華させた……とも。ではダブルフラッグシップ時代から、こちらへと至る道程の前半部分を振り返ってまいりましょう!
Ninja ZX-14Rという万能旗艦【その3】は今しばらくお待ちください m(_ _)m
Contents
ネイキッドとメガスポーツのジャンルで破竹の勢いだったカワサキ!
1990年代を通じ、ゼファー&ZRXシリーズとZZR1100(C型&D型)が絶好調!

●1989年にデビューして吹き荒れた「ゼファー」旋風が少し落ち着いた頃合いを見計らったかのように1994年登場した水冷ネイキッドモデル「ZRX」(写真)。ローソンレプリカを彷彿とさせる角ばったスタイリングは本当に秀逸でした。ノンカウル丸目スタイルの「ZRX-Ⅱ」や大排気量版「ZRX1100」も矢継ぎ早に繰り出されて市場は大いに盛り上がったものです!
レーサーレプリカの代名詞ZXRファミリーもスーパースポーツNinja ZX-○R群へ移行して一定以上の支持を獲得。

●1994年型「Ninja ZX-9R」。ちょうど初代ニンジャこと「GPZ900R」登場から10年、新時代のニンジャとしてリリース! 「ZXR750」向け水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンの排気量を899㏄まで拡大し、CVDK40キャブとツインラムエアシステムで139馬力を発揮……していたものの乾燥重量は215㎏。1998年のモデルチェンジでエンジンを「Ninja ZX-6R」ベースとして乾燥重量は脅威の35㎏減を実現し183㎏に(143馬力)!
ついでに書けば200~400クラスもZZR、Dトラッカー、バリオス、KDX、KLX、スーパーシェルパ、エストレヤらが大いにファン層の裾野を広げ、1980年代にはまだ多少残っていた「ちょっと近寄りがたくクセのあるメーカー」といった雰囲気から一気にメジャーシーンへと躍り出た感のあったカワサキ。

●1997年型「スーパーシェルパ(ダウンフェンダータイプ)」。ズバリ、ヤマハ「セロー225」の対抗馬として26馬力の249㏄空冷4ストDOHC4バルブエンジンを搭載してデビュー(乾燥重量107㎏)。「エストレヤ」や「ZZR250」とともにカワサキに乗る女性ライダーをガッチリ獲得していった功労車です!
「勝って兜の緒を締めよ」を素直に実行へ移した組織の強さよ……
しかし、長期間にわたる繁栄と安定は、時に停滞や慢心をもたらします。

●「日本、いや世界中の顧客がウチの製品を欲しがってる」、「うまくいってるんだから特に何も変えなくていいじゃん」。絶好調なときほど人や企業は保守的になってしまいがち……
かくいう状況に危機感を抱いたキーパーソンが会社の上層部にいらっしゃったのでしょう。
現状に甘んじることなく10年後、20年後、いやもっと先を見据えたカワサキ二輪車の新たなるビッグバン的改革が深く静かにスタート……。

●ラインアップを整理し、各ジャンルごと渾身の1台を年次計画に沿って淡々とリリースしていく……。ここ最近のカワサキは先の先まで読み抜いて効果的な一手を放ち続ける棋士のようだなぁ、と筆者はず〜っと思ってます
技術力のさらなる強化とデザイン部門の革命を推進しつつ選択と集中を果敢に行う企業姿勢が、2000年代の幕が上がると同時に我々バイクファンの目前で披露されていきました。
うまくいかなかったことも多々あったが攻めの姿勢は後日の糧に〜
1999年にスズキから「GSX1300R ハヤブサ」が登場した翌(2000)年には「Ninja ZX-12R」で世界最速の座☆奪還を試み、2001年にはその(?)スズキと協業(相互OEM供給)をスタートさせることを決定して共同発表!

●2002年型カワサキ「エプシロン250」。世はビッグスクーター大ブーム時代! スズキ「スカイウェイブ250 タイプS」のOEM(Original Equipment Manufacturing)車両として登場し、途中全面変更を受けつつ2006年モデルまで発売されていたのです〜。カワサキの「バリオス-Ⅱ」がスズキ「GSX250FX」として、同じく「Dトラッカー」が「250SB」として販売されていたことも有名ですね。なお、2社の業務提携はモトクロッサーの共同開発で一悶着があったとかなんとかで、2006年頃には協業を解消しちゃいました
同(2001)年にはマツダで初代ロードスターやセンティアなどを生み出してきた田中俊治さんを招聘して、デザイン部門を徹底的に強化!

●1989年マツダ「ユーノス ロードスター(NA型)」は能面をモチーフにしたとされる美しいデザイン、オープン2シーターモデルの解放感、そして走りの良さが渾然一体となって世界中で大ヒットを記録しました。現在は4代目となるND型ロードスターが販売されていますが、今なおNA型に魅せられるファンは後を絶ちません。そんなクルマの内外装をまとめ上げた敏腕デザイナーがカワサキへとやってきて、まさに革命を起こしていったのです!
2002年からはMotoGPにも参戦を開始(全戦を戦ったのは2003年から)してテクノロジーの頂点バトルを繰り広げていきます(本来は出す予定がなかったとも言われる「ZZR1200」が登場したのもこの年でしたね)。

●2002年型カワサキ「ZX-RR」の勇姿! 写真はカワサキモータース株式会社「RACING HISTORY」より。武骨そのものなスタイリングにドキドキワクワクしたものです〜。マシンは瞬く間に洗練されていき2004年の日本GPでは中野真矢選手のライディングにより3位入賞を果たし、その後も2位表彰台を3回獲得。残念ながら2008年をもってMotoGPを撤退した後はロードレース活動の軸足をスーパーバイク世界選手権へと移し、ジョナサン・レイ選手が2015年から破竹の6連覇を達成するなど黄金時代を築き上げました!
そして2003年、前述の田中俊治さんがデザインの取りまとめ役として腕をふるった第一陣となる「Z1000」と「Ninja ZX-6R(ZX636B)」が衝撃的なデビューを飾り、現在まで脈々と続く個性的なネオ☆カワサキスタイリングを確立させたのです。

●海外市場向けモデルとして2003年に登場した「Z1000」。「Ninja ZX-9R」用エンジンがベースとなる953ccの水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジン(127馬力 ※EU仕様。MA仕様は123馬力)を搭載したカワサキいわくスーパーネイキッド。この高性能パワーユニットをアグレッシブなデザインの車体に搭載するジャンルは後に「ストリートファイター」と呼ばれるようになりました。ど〜ですか、ゼファーやZRXらと同じメーカーとは思えない突き抜けっぷりは!

●尖りまくったエッジがバキバキ! カックカクの面構成にインプレッシブな4本出しマフラーなど、今見ても衝撃的なデザインですからデビュー当時に賛否両論が巻き起こったことは想像できると思います。結果的に新生Zデザインは欧米で高評価をもって迎え入れられ一世を風靡! 他メーカーからゾクゾクと「ストリートファイター」ジャンルのフォロワーが登場したものです〜

●従来の「Ninja ZX-12R(後期型)」小型版みたいなアイ〜ン顔から一転! ラムエアダクトをヘッドライトの上……というか、アッパーカウルのおでこ部分に設定して今につながるNinja ZX-○Rフェイスを新たに構築した2003年型「Ninja ZX-6R」。実はテールカウルの形状が「Z1000」と同じだったりするのですよ(^^ゞ
話題作りも巧みだった田中俊治さん加入後の新生カワサキ!
その勢いそのまま2003年には近未来のバイクをイメージした「ZZR-X」を世に問い、

●2003年の東京モーターショーでサプライズ車両としてアンベールされたコンセプトモデル「ZZR-X」(非常に興味深いWEBヤングマシンの記事はコチラ)。可変ポジションとハブステアを採用しており、ハイスピードツーリングモード=快適な高速走行を可能にしパニアケースを装着した基本モード(左)、ツーリングモード=基本モードから開閉式の風よけ(金色の部分)をオープンにした状態でライダーに当たる走行風を調整。ハンドルやスクリーンも上方へ移動している!?(右上)。スポーツモード=ハンドルバーとウインドシールドをローポジションに設定し、スポーツ走行に最適なモード(右下)……と3つのモードが提案されていました
2004年にはリッタースーパースポーツの新たな地平を切り拓いた「Ninja ZX-10R」で、世界中のファンを驚愕させたのです。

●2004年型「Ninja ZX-10R」。とにかく軽く、パワフルに! サーキット性能No.1を標榜し一般市販車としては史上初となるパワーウェイトレシオ1㎏/PS切りを達成すべく革新的な技術を全投入。乾燥重量170kgの車体に175馬力エンジン(欧州フルパワー仕様)を搭載することで見事0.97㎏/PSを達成〜。このインパクトは凄まじく、販売されると同時に全宇宙(?)引く手あまたの大ヒットを記録! 日本でも数多くの車両が逆輸入されてユーザーのもとへ送り届けられました
当時、モーターサイクリスト誌の編集部員としてインタビュー記事取材や海外ショーの会場などで何度となく田中俊治さんとお話する機会を得たのですが、いやぁ、歯に衣着せぬぶっちゃけ話は最高に面白かったですね~(^^ゞ。
例えば……(ほんの一部ですが)。
「ワシャあ、ステッカーをベタベタとカウルに貼るのは大嫌いなんじゃ!」→派手派手グラフィックのカワサキ車が一気に減り、単色で造形の美しさを見せつけるモデルが急増。

●2002年型「Ninja ZX-6R」……ちょっと上で紹介している2003年型の同車と比べてみてくださいませ。こちら外装部品には年ごとのグラフィックを表現するためのステッカーがカウルにベタベタベタと……。対して2003年型は造形による陰影で単色でも十二分な映えを獲得していますね〜
「その浮いたステッカー代でMotoGPの参戦活動費が捻出できたわい」→真偽のほどは不明(^^ゞ。

●欧米ではイヤーモデル制度があるので毎年何かしら見た目を変えることが求められ、多くのモデルは派手派手なグラフィック(ステッカー)でそれを実現していました。かくいう出費が突然ドカンと抑えられたら、浮いたお金でレース活動くらいできるように……なります!?
「ライムグリーン以外でカワサキを象徴する色を印象づけたいと思っとるんよ」→初代「Z1000」以降、目にまぶしいオレンジカラーを効果的に使用。

●まさしく田中さんが手がけた2003年型「Z1000」で鮮烈な記憶を残したオレンジ色のカワサキ。以降も様々なモデルに使われていきしっかり市民権を得ました。現在でも北米仕様の2025年版「Ninja650」には紫色も配したお洒落なオレンジカラーの車両がラインアップされております
そして、「ZZR1200のデザインはおとなしすぎるわ。やっぱフラッグシップ……世界最高峰のバイクはギョッとするほどの個性がないとのう。ほんじゃ期待しといて!(2004年ミラノショーでの取材時コメント)」→その回答となる車両は2006年に登場……。

●2006年「ZZR1400」発表時にカワサキが公表したイメージスケッチ。『圧倒する迫力、存在感。美しさよりも、近寄りがたい凄み』をコンセプトに、田中さん率いるカワサキデザイナー軍団は4つ目のヘッドライト+左右ポジションライトの6灯フェイスで最強の目力を標榜! 図らずも2008年世に出たヤマハ「VMAX」にも通じる奈良・東大寺に鎮座する南大門金剛力士(仁王)像の姿がイメージされたことが分かりますね
世界最速という指標が消えた後のカワサキフラッグシップとは!?
2000年代初頭……カワサキがより力強く進化していった過渡期であると同時に、欧州299㎞/h規制の影響で世界最速であることのプライオリティが激変する時代に登場していた「Ninja ZX-12R」と「ZZR1200」。

●2000年に登場した「Ninja ZX-12R」

●2002年に登場した「ZZR1200」
様々な思惑と開発の経緯によって、それまで北米名(Ninja ZX-○)と欧州名(ZZR○○)とで親しまれていた各ブランドが、それぞれ独立した(かつ似通ったビミョウな関係の)モデルになってしまい、個々の魅力が薄まったことは否めないところでしょう。
新時代のカワサキフラッグシップとはいかなるものか?
デザイン力と技術力とが田中俊治さん入社以前とは段違いとなる高い次元で融合したネオ☆カワサキが、満を持して2006年に放った新旗艦こそが「ZZR1400(北米名:Ninja ZX-14)」だったのです!

●2006年型カワサキ「ZZR1400」……大ざっぱに言えば最速パフォーマンスマシンとしての旗艦「Ninja ZX-12R」とハイスピードツアラーとしての旗艦「ZZR1200」が再び統合されて生まれたオールマイティフラッグシップというわけですね(サーキット方向のフラッグシップは「Ninja ZX-10R」が引き継いでいきます)
次回は再びバイク好きを熱狂させたカワサキの万能モーターサイクルについて語ってまいりましょう!

●いやぁ、この顔にはドギモを抜かれたものです……(^^ゞ
あ、というわけで2000年代初頭のカワサキラインアップを飾った魅力あふれるモデル群も、アフターサービス万全なレッドバロンの『5つ星品質』な中古車なら安心して走り出すことができますよ! まずはお近くのお店で在庫をチェックしてみてくださいね!
Ninja ZX-14Rという万能旗艦【その3】は今しばらくお待ちください m(_ _)m