さて今回は、前回に引き続き「イタリアでKTMの890SMTに乗ってきた!」の2回目。渡欧するまでその全容がわからなかった新型SMTのアンベールが行われ、車名が「890SMT」とわかった……というのが前回のあらすじだが、いよいよ今回は試乗がスタート。 実際の試乗会と同じような雰囲気を味わっていただくために、890SMTの車両概要は後で説明することにしよう!
主要諸元(海外仕様)■軸距1502±15 シート高860(各㎜) 車重206㎏(装備)■水冷4ストDOHC並列2気筒 889cc 105PS/8000rpm 10.2kg-m/6500rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量15.8ℓ ブレーキF=φ320ダブルディスク R=φ260ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17
発売予定:2023年8月 メーカー希望小売価格:179万9000円(税込)
走ってわかった890SMTの強烈なキャラクター
試乗がスタートすると、KTMが事前にマシンの素性をこの試乗会がスタートするまで頑なに明かさなかった理由がよくわかった。
僕らに事前情報を与えず、技術説明会でいきなりヒルクライムまがいのプロモーション映像を見せつけたのか? それはこの“890SMTのキャラクターをブレなくしっかり理解して欲しい”その一点を目指したからなのだ。
どういうことか? もし事前に「このマシンは890アドベンチャーをベースにしており、17インチホイール化したロードモデルです」なんて当たり障りのない情報が発表されていたらどうなっていただろう? きっと僕らは890SMTに対してヤマハのトレーサーかトライアンフのタイガースポーツのような、“ロード寄りのアドベンチャー”という先入観を持ってしまったに違いない。実際、僕は見聞きした情報をもとに890アドベンチャーがベースと勝手に当たりをつけて、装具はアドベチャーウエアとツアークロスを用意してこの試乗会に参加してしまっている。
これで試乗会がもし「好きに走ってきてください」なんてマシンの鍵を渡されるだけだったとしたら、“ロード寄りのアドベンチャー”以上の試乗テストはしなかっただろうし、二輪媒体各誌に寄稿する原稿にも“890SMTはロード寄りのアドベンチャーです。ロードスポーツ性能も高くてそこそこ走りますよ!”なんて感じのインプレッションを書いていただろう。
だがKTMは、そんな状況を懸念して、あえてこんな趣向を凝らした試乗会を企画したように思うのだ。だから、事前に大した情報も与えず、とにかくバイクに乗せてイタリアの片田舎のワインディングもこれでもかと引き回す。890SMT本来のスーパーモト的なスポーツ性を、変な事前情報で凝り固まってしまう前に徹底的に体に叩き込むことにしたのだ。
KTMの国際試乗会は、とにかく飛ばすので有名、バイクがREADY TO RACEなら、試乗会もREADY TO RACEってワケなのだが、そんなハイペースの先導にも890SMTなら付いていけてしまうのだから驚かされる。
この異常な速度の試乗ペースに慣れてくると、890SMTのワインディングマスター的なキャラクターの根幹がどうやらサスペンションの動きの良さにありそうなことがわかってきた。コーナーでフルブレーキングしても、脱出でフル加速してもサスペンションのストロークを使い切ることもなければ、その予兆すら感じさせないから安心して攻め込めるというわけだ。それにトラクションコントロールの介入度やタイヤがどれだけ路面を捉えているかが非常によくわかるから安心感も高い。
通常、ロードモデルのサスペンションストロークは150mm以下だ。この短いストロークの中でロードスポーツ性能を追い求め、それでいて乗り心地もいい快適なサスペンションを作ろうとすると、どこかにほころびが出るものだ。ところがこの890SMTは前後180㎜もある潤沢なストロークを使い、峠をガンガンに攻めるようなセッティングを施してきた。
ストロークがあるから快適性とスポーツ性の両立という矛盾が現れにくく、タイヤがどれだけ路面を捉えているかが非常によくわかる。ストロークが大きいからこそ、反力が急激に強まるようなこともなければ、ちょっとライディングをミスったところでタイヤが急にグリップを失うこともない。KTMはワインディング最強のコーナリングマシンを890アドベンチャーベースで作り上げたというわけである。
しかも、その試乗会は890SMTのキャラクターを我々メディア関係者に正しく理解させる工夫があり、しかもKTMらしい遊び心に溢れた素晴らしいものになっていた。この海外メーカー特有の内容も演出も凝った試乗会は、是非日本のメーカーも取り入れて欲しいところだ。
エンジン&車体のベースは890アドベンチャー
……と、インプレッションを読んでこのバイクのキャラクターを知ってもらったところで車両概要を説明しよう。新作の890SMTは、そのオフロード性能においては世界最強のアドベンチャーバイクといわれる890アドベンチャーのフレーム&スイングアーム、エンジンをそのまま使って前後17インチホイール化。ステアリングの取り付け部分の角度も変更しておらず、フレーム&エンジンの寝かせ具合でキャスター角を決め、フロントアクスル軸の位置でトレール量をコントロールしているとのことである。
890SMTの足着き&ポジションチェック
シート高は860㎜。ネイキッドに比べると高めだが、アドベンチャーバイクとしては低めという感じ。車体はアドベンチャーベースだけあってオフ車よりも幅広で両足を着こうとすると踵が5cmほど浮いた。上半身はツーリングしやすいアップライトなポジション。僕の身長は172cmで体重は75kg。
890SMTのディティール
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