バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はバイクの車体サスペンションの用語前回のプリロード調整と対になる『減衰力調整機構』をピックアップ。

そもそも『減衰力調整機構』とは?

KTM フリーライド250Rのリヤショック

バイクのショックユニットにはスプリングが入っており、路面からの突き上げやブレーキでかかる荷重を受け止めている。そのスプリングの縮め具合を体格や乗り方に合わせて調整することがプリロード調整であることは前回説明させてもらった。では『減衰力調整機構』とはいったい何だろう?

 

もしバイクのショックユニットに減衰力機構がなく、スプリングだけで構成されているとすると非常に都合が悪いことが起こる。押し縮められたスプリングは、路面からの衝撃を受け止めながら縮んだ後、その反力で今度は逆向きの伸びる動きに切り替わる。サスペンションが伸び切ったところでスッと動きが収束してくれればいいのだが、スプリングだけではビヨンビヨンといつまでも伸縮を繰り返すことになる。バンジージャンプのゴムがビヨンビヨンと伸び縮みするのを想像してもらうとわかりやすいだろう。あんな風にいつまでも伸び縮みしていたら乗りにくいどころか、次の衝撃の入力と縮み込みのタイミングにうまく合ってしまったら、スプリングはさらに力を溜め込み、より大きな揺り戻しが発生。ホッピング(←懐かしい!)よろしく、車体が跳ねてしまい大変危険だ……。

そこでスプリングの伸縮運動を抑制するために、今回紹介する『減衰力調整機構』が登場する。ビヨンビヨンという伸び縮みを繰り返そうとするスプリングの動きを“減衰”させて、いち早く動きを抑えて収束させるのが減衰力機構、いわゆるダンパーの役割なのだ。そのダンパー機能の効き具合を好みや乗り方に合わせて調整できるようになっているのが『減衰力調整機構』というわけだ。

さてまずは“調整”の部分はひとまず置いておくとして、“減衰力機構(ダンパー)”の部分から説明していこう。この“減衰力”を体感しやすい身近なものは、玄関などのドアに付いているダンパーだ。

玄関のダンパー

玄関のダンパー。スプリングの力で勝手に閉まるようになっているドアには、大抵ダンパーが備わっており、急に閉まったりして指つめしたりしないよう、ゆっくりとしたスピードで閉まるようになっている。英語で言えば、減衰力はDamping forceであり、つまりこのダンパーこそが減衰力装置というわけだ。

 

重たいドアに取り付けられているダンパーは、開いたドアで指つめしないようゆっくり静かに閉めるためのものである。あの“ゆっくり”な動きこそがダンパーの役割なのだ。ドアのダンパーに限らず大抵ダンパーの内部には、オイルで満たされ注射器状のパーツがあり、内部のピストンが押されると狭い流路からオイルが“少しずつ抜けていく”ようになっている。この“少しずつ抜けていく”ことこそがつまり、“ゆっくり動かす”ことであり、その原理はバイクのサスペンションダンパーも基本的に変わりない。

KTM 390DUKEのリヤショックのカットモデル

バイクのサスペンションユニット(リヤショック)の内部にはオイルが封入されており、その中をピストン状のパーツがスライドする。その動きをオイルの流れる抵抗で減衰している。

 

またドアは閉じもするが、開きもする。ダンパーによる減衰力のかかり方が「閉じ」も「開き」も同じだったらどうなるだろうか? 閉まる時はゆっくりの方がいいが、開ける時際に扉がゆっくりとしか動かないとなると非常に使い勝手が悪い。閉じる場合にはゆっくり、開ける場合には軽い力でスッと開いてもらわないと困る。……というわけで、玄関のドアの減衰力機構には、閉じ側と開き側の2種類があり、動き方の特性を違えている。

この構造もバイクのサスペンションと一緒。バイクにもドアの開け閉めと同じように、バイクのショックユニットのダンパーにも圧側と伸び側がある。圧側はコンプレッション側(COMP)とも呼ばれスプリングが押し縮められるときの動きを司っている。限界まで押し縮められたスプリングは、その反力で今度は伸びようとする。その伸びる時の動きを司るのが伸び側(TEN/テンション)の減衰力機構だ。バイクのショックユニットには、この圧側(COMP)と伸び側(TEN)の二つの減衰力機構がセットで入っている。

『減衰力調整機構』のここがスゴイ!

サスペンションの動くスピードを好みで変えられる!

減衰力を発生させる仕組み

スプリングが伸びる方向の動きが伸び側(TEN)で、圧側が(COMP)。流路に抵抗となるワンウェイリードバルブを設けてオイルの流量をコントロール。これがバイクのショックユニットが減衰力を発生させる仕組みだ。

 

ここまでの説明でダンパーの役割や基本的な仕組みは理解していただけたと思う。さて、ここからがようやく“調整機構”の話になる。減衰力機構がオイルの流路を通り抜ける際の抵抗そのものであることは既に説明した。ではこの減衰力を調整できるようにするにはどうしたらいいだろうか? 

そう簡単である。オイルの流量が変わればそれだけ抵抗が増えたり、減ったりしてサスペンションの動く速度が変わる。バイクの『減衰力調整機構』とはつまり、サスペンションの内部を行き来するオイルの流量を変える機構なのだ。

伸び側の『減衰力調整機構』

TENと書いてあれば伸び側の『減衰力調整機構』で、COMPなら圧側の『減衰力調整機構』。H(hard)方向に回せばオイルの流路が狭まって動きが遅く乗り心地もハードになり、S(soft)方向に回せば流量が大きくなって素早くソフトに動くようになる。

 

また『減衰力調整機構』を備えるバイクの中には圧側(COMP)の動きで、さらに高速と低速でダンパーのキャラクターを変えられる車種もある。例えば、地面のちょっとした凹凸を通過するような場合の「小さくゆっくりな入力に対しては乗り心地を良くするためソフト(S/柔らかめ)にサスペンションを動かしたい」。その一方で、大きな凹凸からの衝撃やフロントブレーキをガッツリ握り込んだ場合のい素早く大きな入力(高速)に対しては、サスペンションのストロークを使い切らないようハード(H/硬め)めのタッチにしたい」。……といった走行条件によってサスペンションのストロークの仕方のキャラクターを変えるための機構が付いていたりする。つまり、『減衰力調整機構』を備えており、しかも圧側(COMP)の高速側と低速側に別々に調整できるようなマシンは、“それだけの高度なスポーツ走行に対応できるように作られたハイスペックなバイク”という図式が成り立つのだ。このあたりの実際の効用や調整のコツは次回説明しよう。

 

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