日本国内では久々の400ccオフロードモデルとなるスズキのDR-Z4SとDR-Z4SM。前回はフロント21インチホイールのDR-Z4S試乗記をお届けしたが今回はいよいよモタードモデル・DR-Z4SM! 2025年10月8日から発売がスタートしたばかりなのだが、なんだかヒットモデルになりそうな予感。というのも試乗会が行われた10月15日の時点で、このDR-Z4SMだけで年間目標販売台数800台を大きく超える1000台もの受注が入っているという。400ccのモデルに約120万円の価格はずいぶん強気だな? なんて思っていたのだがこれだけ売れているのなら世の中の期待は相当大きかったってことだ。

SUZUKI DR-Z4SM/主要諸元■全長2195 全幅885 全高1190 軸距1465 シート高890(各mm) 車重154kg ■水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ 398cc 38PS/8000rpm 3.8kg-m/6500rpm 変速機形式5段リターン 燃料タンク容量8.7ℓ ■ブレーキF=ディスク R=ディスク ■タイヤF=120/70R17 R=140/70R17 ■価格:119万9000円

栃木県那須塩原市にあるつくるまサーキット那須/丸和オートランド那須で行われたDR-Z4S/SMのプレス向け試乗会。3日間に渡って二輪媒体関係者やインフルエンサーたちがDR-Z4S/SMで走りまくった。
サーキット走行がめっちゃ楽しいDR-Z4SM!!

DR-Z4Sで走ったオフロードコースからうってかわってDR-Z4SMを試乗するのはグリップの良いターマック。それも小さなコーナーの切り返しが楽しいコンパクトなサーキットだ。
さてこのDR-Z4SM、基本的な車体構成はオフロードモデルのDR-Z4Sと一緒なので、エンジン、メインフレームといった共通のブラッシュアップポイントは前回の記事を参照してほしいのだが、モタードモデルとして足回りを中心とした変更が行われており、前後17インチホイールを履いているほか、前後のサスペンションもモタードモデルとして専用にセッティング。細かいところでは、トラクションコントロールの介入度やABSのモードが異なったり、フロントフォークのアウターチューブに部分的な太さの違いを設けるなどの剛性チューニングも施されている。

モタードモデルの定番、前後17インチホイールの足回りを持つDR-Z4SM。タイヤはダンロップのSPORTMAX Q5Aをベースに内部構造とプロファイル(トレッドパターン)を専用設計。
走り出してまず驚いたのは車体のバランスの良さだ。筆者は恥ずかしながらほとんどサーキットを走らないツーリング専門のライダーではあるのだが、いきなりマシンを信用できてしまったくらいである。
車体は先代のDR-Z400SM(2011年モデル)比で、9kgほど重くなっているのだが気にならないくらいバランスがいい。モデルチェンジではフレーム、スイングアーム、足回りといった車体パーツを刷新したとのことだが、オフロード系モデルをベースにして作ったモタードモデルにありがちな車体まわりの心もとなさが皆無なのだ。
今回のDR-Z4シリーズのモデルチェンジは、オフロードモデルのDR-Z4SとモタードモデルのDR-Z4SMという二枚看板であるのだが、車両開発のメインとなったのはDR-Z4Sではなく、こちらのDR-Z4SMなのではないか? そう思ってしまうくらい車体バランスがよく楽しいモデルに仕上がっている。

“オフロードモデルのDR-Z4Sに対し、DR-Z4SMはより車体の剛性バランスを高めるため、アウターチューブの上部の外径が2mm太いφ55mmを採用している”……と言うよりは、“SMの剛性高めなロードスポーツキャラクターからアウターチューブを細めて剛性を落とし、Sをオフロードモデルらしい軽快なハンドリングに仕立てた”と言うべきか。
そんなこともあってだろう。走らせていると、周回を重ねるごとにどんどんペースがアップ。コーナー脱出時の速度が目に見えて上がってくる……なんてことをやっているうちにコーナー脱出でスロットルをワイドオープンしたらリヤタイヤが細かく跳ね出した(笑)。
まぁ、マシンに“ほどほどにしとけ!”と嗜められたカンジである。これならもう少しグリップのいいタイヤに換えてペースを上げても車体が負けることなく思い切り楽しめそうである。それくらい車体の剛性が高めに感じるのだ。
……と、そろそろ転びそうな雰囲気が出てきたところでカットしていたトラクションコントロールシステムをON。走行モードも「A(アクティブ)」だけでなく、ペースを落として「B(ソフト)」、「C(よりソフト)」といったモードも試してみることにする。

走行モードを切り替えて、いろいろ試してみるとそれぞれのキャラクターが全く違う味付けになっていることに驚く。決してイケイケで楽しい「A」モードだけが特別というわけではなく、「B」モードや「C」モードのキャラクターも丁寧に作り込まれているから、“単にエンジンの過渡特性が穏やかになっただけで途端につまらない……”なんてことにもならない。
サーキットなどで集中してスポーツ走行を楽しむ場合にしっかり刺激が味わえるのは「A」モードで間違いないのだが、「B」モードなら流して走っても攻めても楽しい。今回は一般道での試乗はできなかったがツーリングや街乗りなどでの使い勝手も良さそうだ。「C」モードは、しっかり初心者向きに作り込まれている印象でスロットルを開けても前に出過ぎるところが少しもなく、介入が強めのトラクションコントロールモードと組み合わせれば雨の日などにも安心して走ることができそうである。

DR-Z4SMの技術的なハイライトは、電子制御スロットルの採用だ。これにより「A」、「B」、「C」のエンジン過渡特性の違う走行モードを得たほか、バタフライバルブをコントロールする高度なトラクションコントロールシステムも装備できるようになった。写真のグリップ周りを見る限り普通のワイヤー引きのスロットルに見えるが、電子制御スロットルのユニットはエンジン側にある。
開発陣によれば、走行モード別の味付けに関しては相当手間をかけており、各ギヤ比別にスロットル開度に合わせた出力特性を作り込んでいるというから相当なこと。今回のサーキット試乗で使ったのはせいぜい4速までだが、ギヤのチョイスを間違えたような場合でも、“なんとか失速しないで進む”どころか、“結構進むな!?”なんて印象を受けたのは開発陣によってキャラクターが作り込まれた結果だったのだ。
先代DR-Z400SMの日本国内最終モデルは2011年式。DR-Z4SMのモデルチェンジでおよそ14年ぶりに400ccモタードモデルが復活したわけであるが、見事に14年分のバイクの進化を体感できた次第。この進化具合は是非、試乗して体感してみてほしいところ。足着きさえ克服できれば、バイク初心者にも十分オススメできるモデルになっている。
SUZUKI DR-Z4SMの足着き性

インプレッションライダーである谷田貝 洋暁の身長は172cmで体重75kg。
シート高は890mm。この数値はDR-Z4Sと一緒だが、DR-Z4Sに対しDR-Z4SMのシートは30mmほど厚さがあり、前後17インチホイールやサスペンションなどの違いでたまたま同じシート高となっている。両足で支えようとすると踵が4、5cm浮くが、母指球で支えられ、車体がスリムで支えやすいので不安はない。
SUZUKI DR-Z4SMのディティール



1つの発光部でHI/LOを切り替えらるバイファンクションLEDを採用したモノアイデザインのフロントマスク。 ウインカーはポジションランプも兼ねる。

フル液晶メーターは多機能で、時計やトリップ×2といった機能のほか、ギヤポジションや走行モード、トラクションコントロールのステータスを表示。左下のボタンを長押しするとABSの「ON」と「リヤのみ制御OFF」が切り替えられる。

全幅はSM、S共に885mm。先代のスチール製からアルミ製のテーパータイプとなると共に、ハンドル切れ角は片側38°から45°へ大幅にアップ。最小回転半径は2.6mから2.3mへ!

日本仕様だけの特別装備が左ハンドルスイッチのヘルメットホルダー。

250ccエンジンにはない力強い加速が持ち味の水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ・398ccエンジン。クローズド環境であることをいいことに調子に乗ってスロットルを開けているとリヤタイヤがスピンするくらい力強かった。アシストスリッパークラッチも新採用。

ギヤは“こだわりの5速”を継続採用。車体幅の増や重量増を嫌っての判断だ。

SMとSでシートの厚みは異なるがベースは一緒なので、Sの純正シートに換装すれば30mmのローシート化が可能だ。

前後のホイールトラベルはフロントが260mmでリヤが277mm。フロントブレーキディスクはS比で40mm大径のφ310ディスクを採用。サスペンジョンは前後ともKYB製でフロントには伸/圧減衰力調整機構、リヤにはプリロード+伸/圧減衰力調整機構を備える。

スチール製のフレーム刷新に加えてアルミのスイングアームも新作した。SとSMは一次減速比や各ギヤ比は一緒だが二次減速比が異なり、SMが2.733(15:41丁)で、Sが2.866(15×43丁)。

フットペグは幅49mmのワイドステップ仕様。コントロール性のアップを狙い先代比で+16mmワイドになった。

灯火類の光源はヘッドライトからライセンス灯までフルLED。車体左後ろにある筒状のパーツはブローバイガスのためのキャニスター。

エキゾーストパイプにはユーロ5に対応するためのキャタライザー(触媒)を2つ装備。

多くのパーツに手が入れられた398cc単気筒エンジン。排出ガス規制への対応を主題にツインプラグ化などのクリーン化の他、吸気側にチタンバルブの採用などフリクションロスの徹底的な排除も平行して行われている。

エンジンとフレームに挟まれた黒いカバーに覆われた部分が電子制御スロットルのユニット。ここでスロットルワイヤーの動きが電気信号に変換されている。

走行モード「A」、「B」、「C」の切り替えや、トラクションコントロールシステムのモード「1」、「2」、「Gモード」の切り替えは左スイッチボックスで行う。

燃料タンク容量は8.7ℓ。先代比の10ℓから1.3ℓ少なくなっているものの、5%の燃費の向上を図ったとのことでWMTCモード値による燃費は28.8km/ℓ。計算上の航続距離は250kmほどで多いとは言えないが、メーターは燃料残量が2.1ℓ、0.8ℓ時に2段階で警告が出るようになっている。
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