バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。数回にわたって電子制御システム『トラクションコントロールシステム』の進化を紹介しており、今回はその3回目。フューエルインジェクションを得たことで“転倒を防ぐ安全装置”として普及した『トラクションコントロールシステム』”は、さらに電子制御スロットルを得て“速く走るための『トラクションコントロールシステム』”へと大きく進化する事になる。
レース畑で生まれた速く走るための『トラクションコントロールシステム』
MotoGPをはじめとするレースの世界でも『トラクションコントロールシステム』を積極活用している。しかも、レースの世界では、いち早く電子制御スロットルが採用されたため、“点火タイミング”と“燃料噴射量”に加えて“バタフライバルブよる流量コントロール”まで行うさらに緻密な制御を行う『トラクションコントロールシステム』が登場。
つまり『トラクションコントロールシステム』を、“スロットルの開けすぎによるスリップ転倒を防ぐ安全装置”としてではなく、“より効率的に前へ進む、勝つための武器”として利用。スリップしないギリギリの出力を見極めて効率的に加速するための『トラクションコントロールシステム』が生まれていたのだ。さらにレースの世界では電子制御スロットルに加えて、IMUの搭載も早かったのだがこの話は次回にとっておこう。
スズキがレース用の『トラクションコントロールシステム』を市販車に転用
この“バタフライバルブよる流量コントロール”まで行う『トラクションコントロールシステム』で特徴的だったのが、スズキのVストローム1000(2014年)に搭載されたスズキ デュアル スロットル バルブ(SDTV)だ。
今でこそ電子制御スロットルを搭載した市販車は徐々に増えてきているが、当時はごく一部のハイエンドモデルにしか搭載されていなかった。そんな中でVストローム1000は、2014年のモデルチェンジでスズキの二輪車として初めて『トラクションコントロールシステム』を搭載。
驚いたのはVストローム1000は、電子制御スロットルを搭載してないにもかかわらず、“バタフライバルブよる流量コントロール”を行う、レーシングスペック由来の『トラクションコントロールシステム』を搭載していたことだ。
どんなやり方をしたのか? なんと2つのバタフライバルブを装備していた。1つ目はライダーが操作するスロットルとワイヤーで繋がった普通のバタフライバルブ。これに加えて、『トラクションコントロールシステム』で制御するための専用バタフライバルブを用意。つまりライダーがスロットルを開け過ぎてスリップを誘発しそうな場合には、2枚目のバタフライバルブが流路を閉じたり開けたりすることでエンジン出力をコントロールするというわけだ。
このスズキ デュアル スロットル バルブ(SDTV)を搭載したVストローム1000の『トラクションコントロールシステム』の介入フィーリングは革新的だった。というのも、“点火タイミング”と“燃料噴射量”だけの『トラクションコントロールシステム』は制御介入時に大きく失速するような感覚があるのに対し、Vストローム1000の『トラクションコントロールシステム』は、ものすごく自然な制御介入を入れてきたからだ。『トラクションコントロールシステム』が介入しつつも失速するような感覚がなく、そのままスロットルを開け続けての加速することも可能。インジケーターが光るところを見ていなければ『トラクションコントロールシステム』が介入していることに気づかないようなこともあったくらい違和感のないフィーリングで加速していくのだ。
そんな自然な『トラクションコントロールシステム』の制御介入に慣れてくると、今度は制御介入ありきでスロットルをガバ開け、MotoGPレーサーよろしく“トラコンにアテに行く”ような走りも可能になるからさらに度肝を抜かれた。つまり“コーナーで減速し、バイクを寝かした瞬間にアクセル全開。そのまま『トラクションコントロールシステム』任せで加速しながらコーナーの出口を目指す”なんていう、スロットルのオンとオフだけの乱暴な運転が可能となるのだ。これが実に革新的であまりの驚きに当時はそれだけの記事を書いたくらいだ。
その後、Vストローム1000に搭載されたスズキ デュアル スロットル バルブ(SDTV)は、カタナやGSX-S1000シリーズなどにも搭載されたが、現在ではそれらのモデルにも電子制御スロットル化されたことで廃止。ただし、レース畑で生まれた特異な『トラクションコントロールシステム』はその後のモデルにもしっかり引き継がれている。
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