バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は素材の話、 『マグネシウム』を解説していこう。

そもそも『マグネシウム』とは?

カワサキのNinja ZX-10Rは、2004年のデビュー当時からエンジンカバー類に『マグネシウム』合金を採用して、乾燥重量170kgという軽さを実現。

カワサキのNinja ZX-10Rは、2004年のデビュー当時からエンジンカバー類に『マグネシウム』合金を採用するなどの工夫で、パワーウエイトレシオ1を切る乾燥重量170kgという驚異的な軽さを実現。『マグネシウム』はとにかく軽さにこだわるモデルに使われる。

 

前回、ステンレスよりも圧倒的に軽く、アルミより遥かに強度が高い金属であるチタンを紹介したが、そのチタンやアルミよりさらに軽い金属素材が今回紹介する『マグネシウム』だ。

『マグネシウム』合金の金属としての最大の特徴は実用金属の中で最も軽いということ。比重でいえば、鉄が7.9、チタンが4.5、アルミが2.7なのに対し、マグネシムは1.7と圧倒的に軽い。同じ体積なら単純計算で鉄の25%、アルミに対しても60%ほどの重さしかないということである。ただ、素材の強度、強さに関しては鉄よりも若干弱く、鉄と同等の強度のパーツを『マグネシウム』で作る際には3分の1程度まで軽量化できるとされている。

2017モデルのCBR1000RRは、軽量化のためにチタン製のタンクやエキゾーストシステムを使い、エンジンのクランクケース左側カバーやオイルパンに『マグネシウム』を採用。エンジン単体で〜2016モデル比で約2kgの軽量化に成功した。左が~2016モデルで右が『マグネシウム』製のクランクケースカバー。

2017モデルのCBR1000RRは、軽量化のためにチタン製のタンクやエキゾーストシステムを使い、エンジンのクランクケース左側カバーやオイルパンに『マグネシウム』を採用。エンジン単体では〜2016モデル比で約2kgの軽量化に成功した。左のクランクケース左側カバーが~2016モデルでアルミ製、右が2017モデルで『マグネシウム』製。

 

『マグネシウム』のなにが凄いの!?

めちゃくちゃ軽いけど強度はそこそこ

……というところだ。ものすごく強度が高くて軽いチタンがエンジン内部のバルブやコネクティングロッドなど、負担の大きな部位に使われるのに対し、『マグネシウム』は、“とにかく軽くしたいので強度はそこそこで十分”というような箇所で採用される。

具体的にはエンジンのパルサーカバー、クラッチカバーやリヤフレーム、ホイールあたりと外装部品が多い。また製造方法に関しては、JB-POWER「MAGTAN」などの鍛造『マグネシウム』製品もありはするが、後述する取り扱いの難しさから鋳造(ダイキャスト)の製品が多い。

ヤマハでは2008モデルのYZF-R6にマグネシウム製の鋳造(ダイカスト)リヤフレームを採用。2014モデルのYZF-R1には、さらなる軽量化のためにリヤフレームの他、前後ホイールも『マグネシウム』化された。写真はYZF-R1(2014)モデルのリヤフレーム。

ヤマハでは2008モデルのYZF-R6からマグネシウム製の鋳造(ダイキャスト)リヤフレームを採用。写真はYZF-R1(2014)モデルのリヤフレーム。2014モデルのYZF-R1には、さらなる軽量化のためにこのリヤフレームの他、前後ホイールも『マグネシウム』合金化された。

YZF-R1(2014モデル)に採用された『マグネシウム』ホイールは鋳造(真空ダイカスト)製。~2013モデルの鋳造アルミホイールに対してフロントで530g、リヤホイールで340gの軽量化に成功している。

YZF-R1(2014モデル)に採用された『マグネシウム』ホイールは鋳造(ダイキャスト)製。それまでの~2013モデルの鋳造アルミホイールに対してフロントで530g、リヤホイールで340gの軽量化に成功した。

 

2サイクル・スーパースポーツバイク「ホンダNSR250R」

ホンダは1988年3月に発売した2サイクル・スーパースポーツバイク「ホンダNSR250R SPで、量産市販二輪車としては世界で初めてマグネシウム製ホイールを採用。このマグネシウムホイールは日本軽金属(株)との共同開発。

『マグネシウム』って危なくないの!?

ランボー世代にはなつかしい、マグネシウムファイヤースターター。ナイフの背などでマグネシウムを削って集め、そこにストライカーで火花を落とすと発火するという仕組み。マッチやライターのように濡れたら使えなくなるなんてことがないミリタリーアイテムだ。

ランボーに憧れた昭和世代には懐かしい、マグネシウムファイヤースターター。ナイフの背などでマグネシウムを削って集め、そこにストライカーで火花を発生させて落とすと発火するという仕組み。マッチやライターのように濡れたら使えなくなるなんてことがないミリタリーアイテムだ。40年近く前のもので表面はすっかり酸化皮膜を形成している。

 

また『マグネシウム』の特性は軽いだけでなく酸化しやすいということがある。学生時代を思い出してみよう、理科や化学の授業で、薄いマグネシウム片を燃焼させて強い閃光を発生させるなんて実験を見たりした人も多いと思う。金属でありながら燃えやすい『マグネシウム』は燃焼時に強い光を発するため、昔のカメラのストロボの光源(明治、大正のドラマなどで撮影時にボウンという煙の出るアレだ)として使われていたくらいだ。

この燃えやすく、燃焼時に高熱を発するという特性が『マグネシウム』の取り扱いを難しくしている。切削加工時の切屑や粉となって表面積が増えると、大気中の水分と反応しやすくなって発熱、自然発火することもあり、それによる火事も実際に起きている。……そんなこともあって“『マグネシウム』は危険!”なんてイメージがついてしまっているが、それはあくまで著しく表面積が増えた状態でのことで、ブロック状になっている『マグネシウム』製のホイールやエンジンカバーがいきなり燃え出すなんてことはないのでご安心を!

 

 

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