最近ブームになっているアドベンチャーバイクの中でも特に注目が集まっているのが、フロント21インチサイズのスポークホイールを装備したオフロード性能の高いモデルたちだ。例をあげればヤマハのテネレ700、スズキのVストローム800DEなどだが、ホンダはなんと既存のCRF1100Lアフリカツインに加え、ミドルクラスのXL750トランザルプをさらにラインナップに追加投入。先日、ホンダの行なったメディア向け試乗会に参加してきたので、XL750トランザルプの試乗レポートをお届けしたい!
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程よいサイズ感の車体に754ccエンジンを搭載
ニューモデル・XL750トランザルプの登場で、リッターオーバーのCRF1100Lアフリカツインと2枚看板になったホンダのアドベンチャーバイクのラインナップ。本気系オフロード装備でとにかく高い走破性を追求したアフリカツインに比べると、新登場のXL750トランザルプはややコンパクトで幾分フレンドリーな印象を受けるけど、実際の乗り味はどんなものだろうか? そんなことを考えながら試乗会場へ向かった。
開発陣によれば、車名を“アフリカツイン”ではなく、“トランザルプ”としたのは、よりフレンドリーな扱いやすさを求めたからということらしい。オフロード適正の高いフロント21インチサイズのスポークホイールを装備しているものの、アフリカツインのような高いオフロード性能ではなく、日常での扱いやすさや、「トランザルプとならジャリ道デビューして林道ツーリングにも挑戦してみようかな」と思えるフレンドリーさを重要視したのだという。シート高を低めに設定するとともに、軽量化にも注力、209kgという目標値を設定し、なんとかこの目標値に収まるように注力。実際には車両重量で208kgという数値を実現したのだとか。
XL750トランザルプは、フロント21インチサイズのスポークホイールを装備しているものの、高いオフロード性能よりも足着き性を重視して最低地上高は210㎜と少なめに設定。結果、シート高は850㎜となり、172cm/75kgの筆者の場合、両足のかかとが3、4cm浮くくらい。フロント21インチサイズのアドベンチャーバイクとしてはかなり足着き性がいい方で非常に安心感がある。
アドベンチャーらしからぬ足着き性の良さもさることながら、上半身のポジションもコンパクトな印象を受けた。ハンドル幅も840㎜と900㎜台が当たり前のライバル達に比べると随分コンパクト。えてして大きく重いアドベンチャーバイクは玄人ライダーが乗る印象があり、おいそれと手を出しにくい雰囲気があるが、このXL750トランザルプなら多くの人が乗ってみようと思えるのではないだろうか?
XL750トランザルプならUターンも楽々! 初めてのアドベンチャーバイクに最適
アドベンチャーバイク全般に言えることだが、どうしても車格が大きく、その乗り味も極低速やUターンといった細やかな走りを苦手とするマシンが多い。その見た目から「あんなに大きなバイクには乗れないよ! 」と思ってしまう人も多いだろう。でもちょっとでもこのアドベンチャーバイクというジャンルのバイクに興味があるのなら、騙されたと思ってぜひこのXL750トランザルプにぜひ跨ってみてほしい。
このXL750トランザルプは、ミドルクラスのアドベンチャーの中では一番コンパクトに感じる車格に仕上がっているからだ。見た目は大柄だし、車重も208kgと決して小さくはないのだが、跨ってみると予想よりコンパクトに感じるハズだ。
この辺りは開発陣が「日常から世界一周までを叶える、新世代ジャストサイズオールラウンダー」という目標を掲げて相当こだわったそう。実際に走ってみると極低速やUターンの扱いやすさが際立っており、400ccクラスに迫る扱いやすさがある。それにこのトランザルプ、とにかく足つきがいいことでものすごく安心感がある。フロント21インチホイールを採用するアドベンチャーバイクのなかでこのXL750トランザルプの扱い易さはかなり異質と言っていい。
この扱いやすい車体特性に、扱いやすいエンジンのキャラクターがさらに拍車をかける。エンジンは低回転域でしっかり力が出せるキャラクターになっており、エンストしにくくとても力強い。スロットルを開けた時のパルス感のフィーリングもよく、粒感のあるパルスフィールは兄貴分のアフリカツインとよく似ており、「バラン、バラランッ!」という鼓動感が低回転域から味わえた。
感心したのはオンロードでのスポーツ性能だ。フロント21インチサイズのアドベンチャーバイクというと、オフロード性能を求めるあまり、ロード性能がスポイルされてしまうモデルもあるが、このXL750トランザルプはワインディングでの走りも非常に軽快。オフロード性能重視したモデルによくありがちな、車体の剛性不足感からくる不安感がなく、むしろライディングモードを「スポーツ」にしておけば、峠道を結構なペースで走ることができた。これだけロードセクションの走りが楽しければツーリングバイクとしては文句なしといったところだ。
オフロードでも乗りやすさが際立つXL750トランザルプ
前作のXL700Vトランザルプ(2008年モデルで欧州仕様)がフロント19インチホイールでタイヤ幅もワイドで、オンロード向けのキャラクターだったことから、この新作のXL750トランザルプに対しても、“オンロードメインのアドベンチャーモデルでしょ?”というイメージを持つ人が多いようだが、それは大きな誤解だ。
アフリカツインほどのオフロード重視のキャラクターではないにせよ、しっかり林道やジャリ道程度のフラットダートはしっかり走れるように作り込まれている。むしろ“思いのほかよく走る”というのが正直な感想だ。
開発担当がしきりに、「アフリカツインのような競い合うレベルのオフロード性能は追求してません」と強調していたが、実際に走ってみるとダート性能もしっかり作り込まれており、しかもアドベンチャーバイクらしからぬ乗りやすさが際立っていることに驚いた。
ロードセクションで感じた扱いやすさがダートセクションでもしっかり感じられ、とても扱いやすいのだ。サスペンションストロークが少ないため、ジャンプやギャップ越えなどに対しての限界は低いものの、そのぶん足着き性がよく、とにかくジャリ道で安心感がある。
またライディングモードの「グラベル」は、言わば“初心者安心オフロードモード”であり、極力リヤタイヤのスリップを抑えるような制御を行なってくれる。トラクションコントロールにしてもABSにしても初心者が一番ナーバスになる発進停止あたりの制御の作り込みが絶妙なのだ。
近年、ミドルクラスのアドベンチャーには、KTMの890アドベンチャーやテネレ700、Vストローム800DEなどなど、フロント21インチモデルだけでもかなりの数がひしめいている。
その中から“最もダートデビューしやすいアドベンチャーバイク”を選ぶとしたら、僕はこのXL750トランザルプをいの一番に挙げる。アドベンチャーバイクでのダート走行は一部の限られた層だけのものと思われがちだが、アドベンチャーバイクの存在を身近なものにしてくれるのがこのXL750トランザルプというわけなのだ。
ホンダの新型アドベンチャーバイクの車名が“アフリカツインではなく、“トランザルプ”だと聞いた時に思わず“なんで?”と思ってしまったが、乗ってみれば納得。このフレンドリーなキャラクターこそが、“トランザルプ”というわけなのだ。