バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はライダーなら一度は経験したことがあるだろう“ウインカー消し忘れ”によく効く電装系の装備、『オートキャンセルウインカー』だ。

そもそも『オートキャンセルウインカー』とは?

読んでそのまま、“オート(自動)でキャンセルするウインカー”だ。つまり「右左折」、「車線変更」、「合流」などでウインカーを出したあとに、勝手にキャンセルされて平常運転に戻るようになっている。この『オートキャンセルウインカー』、クルマの世界では搭載が当たり前になっており、むしろ『オートキャンセルウインカー』が付いてない車など聞いたことがないが、バイクではまだまだ普及が進んでいない。

その理由はハンドルを切って曲がる車と違い、車体を傾けて(リーンして)曲がるというバイクの特性にある。その傾け具合は、交差点の形状や状況、速度や乗り手のスキルによって千差万別。ウインカーを手動で出したはいいが、曲がって(車線変更/合流)から直進運転に戻る……という一連の流れを、車と同じ機械式のスイッチキャンセルだけで対応させるのは非常に難しいのだ。

現代の最新のバイクのなかには、バイクの傾き具合や進行方向を感知する慣性計測装置(IMU)を積んでいるモデルもあり、『オートキャンセルウインカー』も少しずつだが普及しはじめている。ただ、この『オートキャンセルウインカー』、IMUなんていう高級車のための飛び道具が登場する前からあったりする。

ボッシュの6軸IMU

IMUは、車両の傾きはもちろん加速度も検知。計測データをトラクションコントロールABSの制御に利用しているが、『オートキャンセルウインカー』にもその情報を活用できる。

 

ホンダが昔からこの『オートキャンセルウインカー』に力を入れており、実は1986発売の250ccスクーター・フュージョンに『オートキャンセルウインカー』を搭載していたりする。

IMUがない時代にどうやって『オートキャンセルウインカー』を成立させていたのか? 実は機械式だった。ハンドルの操舵によってコーナリングを感知し、ハンドルが再び真っ直ぐになるとウインカーも消されるというシステムだったのだ。

1986発売の250ccスクーター・FUSION

1986発売の250ccスクーター・フュージョン

 

ホンダ・フュージョンの取扱説明書

フュージョンの取扱説明書。注釈によれば、「ゆるやかなカーブや進路変更等、ハンドル操作角が少ない場合、ウインカは自動的に解除しません」などと書かれている。

 

1986年といえば今から37年前である。こんな時代からホンダは『オートキャンセルウインカー』の搭載に積極的に取り組んでいたのだ。30年以上の時を経た現在、IMUの登場でバイクの『オートキャンセルウインカー』は飛躍的な進化を遂げることになった。そんなIMUタイプの『オートキャンセルウインカー』を装備したバイクに乗って驚くのは、交差点などでの右左折なのか? 直進時の進路変更なのか? をバイクが判断してちょうど良い感じにウインカーを消してくれるということだ。

例えば、まず交差点の右左折では車体がまっすぐ前を向いた“瞬間に”ウインカーが消える。しかし、追い抜きや合流などでは車線変更後、“1、2秒たってから”ウインカーが消えるようになっている。つまりバイクの動きからIMUが右左折と、追い抜きや合流の動きの違いを判断しており、状況にあわせてキャンセルのタイミングを変えているということ。天晴れである。

また最近は、IMUを使わない『オートキャンセルウインカー』の開発にもホンダは取り組んでいる。というのも、IMUを搭載するような車両は高級車であり、『オートキャンセルウインカー』を搭載するのは当たり前だが、それ以外の大衆的なモデルにも『オートキャンセルウインカー』は必要だとホンダは考えているワケだ。

どうやっているのか? これがなかなかすごいと思うのだが、 ABSなどのシステムに使われる前後車輪の車速センサーから、前輪と後輪の回転差でコーナリングを感知しているというのだ。これは言葉で説明するより、下のイラストを見てもらった方が手っ取り早い。前輪と後輪で発生する内輪差でコーナリングを感知し、内輪差がなくなると直線走行に戻ったと判断してウインカーをキャンセルするのだという。

 

ホンダの新しい『オートキャンセルウインカー』の概念図

ホンダの新しい『オートキャンセルウインカー』の概念図で、内輪差で旋回の開始と終了を検知している。2023年に登場するであろう、XL750トランザルプにこの車輪速差タイプの『オートキャンセルウインカー』が搭載されている。

 

確かにこの『オートキャンセルウインカー』のシステムならIMUもリーンアングルセンサーも必要なく、前後車輪の車速センサーさえあれば『オートキャンセルウインカー』の装備が可能だ。しかもABSの義務化によって、現代の125cc以上バイクには大抵のモデルに前後車輪の車速センサーは搭載されている。IMUを持たない車両にも搭載可能な『オートキャンセルウインカー』のシステムをホンダは開発したのだ。

『オートキャンセルウインカー』のここがスゴイ!

事故の誘発を防ぐ!

XL750 TRANSALP

2023年2月現在、日本でも発売が期待されている新型アドベンチャーバイク・XL750 TRANSALP。車輪速差タイプの『オートキャンセルウインカー』やエマージェンシーストップシグナルなど安全面の装備も充実している。

 

「ウインカーを消し忘れて恥ずかしい思いをしなくて済む!」という効用はもちろんだが、一番重要な目的はやはり事故の防止にある。例えば、あなたが交差点で右折しようとして交差点内で止まっているとき。前方から右ウインカーを出したバイクがやって来たら? ……大抵のライダーは走行ラインがクロスしないと判断、タイミングを見計らって右折を始めることだろう。

だが、これがもしウインカーの消し忘れだったらどうなるだろう? 相手が右折せずそのまま直進してきたら……、タイミングが悪ければ典型的な右直事故が発生してしまうのだ。ウインカーを消し忘れは恥ずかしいだけでなく、大変大きな危険を孕んだ行為なのだ。1台でも多くのバイクに『オートキャンセルウインカー』が搭載されて、悲惨な事故が減ることを祈るばかり。それとやっぱり恥ずかしい「付けっぱなし」が防げるのなら、それはそれで言うことなしだよね(笑)。

 

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