バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は電装系用語の『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』。あまり聞きなれないと思うけど、電子制御で武装する現代の高性能バイクにはなくてはならない装備なのだ。

そもそも『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』とは?

車体に散らばるセンサーや制御ユニットなどが『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』によって繋がっており、お互いの情報をやり取りしあってバイクを制御している。

 

「CAN(キャン)通信」とか「CANバス」とか表記されることもあるが、略さず書けばController Area Network(コントローラ・エリア・ネットワーク)で、ドイツのBOSCH社が作ったバイクやクルマなどに使われる内部配線の高速通信規格だ。

少しバイクを分解したことがある人ならわかると思うけど、バイクはメーターやヘッドライト、プラグに発電系とタンクの裏やシート下は電気配線だらけだ。これらの電線は“ハーネス”、基幹となるハーネスは“メインハーネス”なんて呼ばれるけど、バイクのなかではこの配線が複雑に入り組んでいる。

一般的なバイクだと、この電気配線は役割ごとに「点火系」「始動系」「充電系」「フューエルインジェクション系」などと役割ごとに分かれているのだが、『CAN/コントローラエリアネットワーク』はそうじゃない。ブレーキ系のABSだけでなく、トラクションコントロールクイックシフター、多機能メーターなどが1本の幹のようなハーネスを中心にすべて繋がっており、お互いの情報をやり取りしている。フューエルインジェクションや点火系のパーツなど相互に連動するような電子制御のために採用されるのが、 『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』というわけだ。

従来型の電装部品はそれぞれが独立した配線が必要だった。

 

この『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』を搭載するバイクは、あらゆる電子制御のシステムを1つのネットワークで統合。電子制御ユニット間による大容量の通信を双方向で行えるようになっている。

車などではいち早く採用され、バイクの世界はBMWが自己診断装置や総合診断装置のために取り入れていた。全ての制御ユニットが繋がっているおかげで自己診断はもちろん、診断機をつなげばバイクの電装系の不具合が一発で判明するというわけだ。ハーネスの断線一つとっても、従来のバイクのようにテスターを使ってあれこれ原因究明するような作業が『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』には必要ないというわけである。

この『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』の名前を頻繁に聞くようになったのはバイクの世界では2013年頃から。2013モデルのKTM 1190アドベンチャーは、ボッシュ製の5軸IMUを量産二輪車として初搭載。IMUからの膨大な情報を利用してトラクションコントロールの複雑な制御コントロールを行うために『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』も合わせて搭載したのだ。

KTM_1290SUPER ADVENTURE R

KTMの最新モデルの1290SUPER ADVENTURE Rには、スリップ具合をバイクが速度や傾き、スロットルの開け具合などに合わせて制御するようなトラクションコントロールが搭載されている。

 

ただ、この『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』には不都合な面もある。ユーザーが独自の判断で電装系のパーツを外したり、別の部品を交換・追加すれば、システムに“異常”と判断されてしまうことも。つまりユーザーによるカスタマイズがやりにくくなったのだ。例えば、バッテリーを車載したまま充電するような場合にも、BMWなどの車両ではCANバス対応の専用充電器を使わなければいけなくなったりするといったことが起こる。

さらに身近なところでは、アクセサリーソケットにUSBチャージャーを装着して携帯電話を充電するような場合、負荷の大きいUSBチャージャーなどで相性が悪かったりすると、うまく給電が行われないといった不具合が発生することもある。

『CAN/コントローラエリアネットワーク』のここがスゴイ!

双方向通信が可能

……と言ってもよくわからないよね。ちょっとちょっとIMU搭載の高度なトラクションコントロールの介入プロセスを例に挙げてみよう。

①ライダーが電子制御スロットルを大きく開けることで、バタフライバルブが開き、後輪が空転。
②前後車輪に取り付けられた車輪速センサーが前後輪の回転差でスリップを検出。
③IMUの情報から車両が、傾いているのか、直立なのか、コーナリングしているのかを判断。
④スロットル開度、エンジン回転数、車速などの情報と、③の情報を統合し、次の⑤~⑦、もしくはそれらを複合して実行。
⑤バタフライバルブの開度を調整してエンジン出力を調整。
⑥インジェクションをコントロールして燃料噴射量を調整してエンジン出力を調整。
⑦点火タイミングをコントロールしてエンジン出力を調整。
⑧トラクションコントロールの介入をライダーにインジケーターで知らせる。
⑨後輪の空転が収まるまで、②から⑧の作業を1/1000秒といった細かさで繰り返し続ける。

……というような具合。色々端折って説明してもなんだか複雑になってしまうが、実際の動作はさらに複雑かつ緻密であり、ECUやABSユニットがやり取りする情報量は膨大。これらの情報を統合分析して、お互い制御を干渉し合うなんていう複雑なコントロールをするために『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』は必要不可欠なのだ。

CAN/コントロールエリアネットワーク

『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』を持つバイクは1本の太い幹のハーネスにそれぞれの電子部品が繋がっているような構造をしている。イラストはスズキのV-STROM1050XT。

 

また一方で、『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』なら同じシステムを使って内容の違う仕事をさせることも可能。ブレーキ系のABSヒルホールドコントロールは、両方ともブレーキレバー(ブレーキペダル)からの入力でABSユニットがキャリパーへ伝わる油圧をコントロールする電子制御システムだが、その役割は全く違う。つまり“停止しているか?”、“走行中なのか?”をバイクがIMUからの情報で判断し、その状況に合わせて命令を変えている。こんなことができるのも『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』あってのことだ。

結果的に軽く耐久性もアップ!

また『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』は、従来のメインハーネスによる配線に比べて大幅な軽量化ができるという。考えてもみれば配線の主な構成要素は金属の銅である。ネットワーク化でハーネスの本数そのものが少なくなればそれだけ軽くなるというわけだ。

CAN/コントロールエリアネットワーク

アフリカツインのハーネスのイラスト。大量の配線で網の目のようなハーネスを作るよりは、『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』で大きな幹を作って各パーツを繋ぐ方が結果的に軽くなる。

 

また従来のハーネスは何十年も使っていると経年劣化で断線や漏電(リーク)が起きたりする。ポイント点火時代などあまりに電気系の構造がシンプルな旧車はともかく、トランジスタ点火以降のCDIやECUを搭載するようになった時代の旧車・名車は、他のパーツはなんとかなってもメインハーネスの損傷が原因で延命を諦めるなんてこともあるくらいだ。

これに対し『CAN通信/コントローラエリアネットワーク』は物理的な耐久性も高いという。まだ登場して日が浅い技術だけにそこまで時間を経た『CAN/コントローラエリアネットワーク』にお目にかかったことがないのが残念だが、耐久性が高くて生産後何十年ももつということであれば相当画期的なことだ。

 

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