バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は素材の話、 バイクでよく使われるアルミ素材の『鍛造(たんぞう)』をピックアップ。

そもそも『鍛造』とは?

軽く高強度な部品が必要な場合に『鍛造』アルミが採用される。写真はWR250Rのピストンで『鍛造』アルミ製。

バイクにはエンジンをはじめ多くのアルミ素材が使われているが、軽く高強度な部品が必要な場合に『鍛造』アルミが採用される。写真はヤマハ・WR250Rのピストンで『鍛造』アルミ製。

 

『鍛造』とは、文字通り叩いて伸ばすことで“鍛える”金属加工の製法のことだ。我々日本人には鍛冶屋が焼けた鋼からトンカンと金槌で日本刀を打ち出す作業が『鍛造』と言えば金属を“鍛える”イメージがしやすいだろう。

 

写真はアルミではなくダマスカス鋼という鋼(鉄)を使ったナイフだが、種類の違う鋼材を重ね、叩いて何度も折り重ねて伸ばしているために独特の模様が出る。

写真はアルミではなくダマスカス鋼という鋼(鉄)を使ったナイフ。種類の異なる鋼材を重ね、叩いて伸ばし折り重ねてまた鍛えるという作業を数回繰り返しているため、地図の等高線か木目のような独特の模様が出るのが特徴だ。

 

ただ金属を溶かして流し込んだだけの鋳造(ちゅうぞう)、また圧力をかけて鋳造したダイキャストと比べても、鍛造(フォージング)された金属は“鍛える”という工程を経ることで、より強度がアップし粘り強さを表す靭性という特性も向上する。

型に流し込んで固めた鋳物(いもの)の多くは衝撃に弱く割れやすいものだが、鍛造で鍛えた金属は衝撃にも強い。その秘密は、金属を鍛えたときに内部で発生する鍛流線(たんりゅうせん)と呼ばれる金属組織の流れにある。

バイクにおける『鍛造』は、鍛冶屋がトンカン叩いて鍛えるような製法ではなく、熱してある程度柔らかくなった金属を型に入れて圧力成形する熱間鍛造(熱間鍛造)が主流。刃物のように何度も折り重ねて鍛えているわけではないが、それでも内部に鍛流線がうまれ素材としての強度が飛躍的にアップするという。

『鍛造』で作られたアルミピストン。内部の鍛流線は見ることができないが、表面には圧力成形時についたと思われる金属組織の流れのような模様が見てとれる。そして部材が薄くいかにも軽そうだ。写真はスズキのブルバードM109のピストン。

『鍛造』アルミで作られたピストンの裏側。肉眼で内部の鍛流線は見ることができないが、表面には圧力成形時についたと思われる金属組織の流れのような模様が見てとれる。そしてリブなどの部材が薄くなっており、いかにも軽そうだ。

一方、鋳造製のアルミピストン。『鍛造』のアルミピストンと比べるといかにも分厚く重そうだ。写真はヤマハ・SRX400のピストン。

一方、鋳造(ダイキャスト)で作られた一般的なアルミ製ピストン。上の『鍛造』のアルミピストンと比べるといかにも分厚く作られており重そう。表面には鋳物独特のざらざらとした鋳肌が見える。写真はヤマハ・SRX400のピストン。

 

バイクのパーツにおいて『鍛造』は、アルミ、マグネシウムなどのより軽い金属素材をさらに強くして軽量化したいような場合に使われることが多く、バイクで『鍛造』と言えば、おおむね『鍛造』アルミのことを指すと思っていれば間違いない。パーツとしては、エンジン内部のピストンやコンロッド、またカスタムパーツではホイールやステップなどに『鍛造』アルミが採用される。

『鍛造』のなにが凄いの!?

鋳造に比べて『鍛造』は強く、さらなる軽量化が可能でプレミアム

……ってことだ。“鍛える”ことで強度を増す『鍛造』アルミは、同じパーツを作るにしても鋳造アルミに比べて肉薄化と軽量化が可能。だったら、バイクの全てのアルミパーツを鍛造化すればより軽くなるじゃない!? と思うかもしれないが、『鍛造』アルミは鋳造アルミよりも遥かに手間とコストがかかり、とても高価。レースに勝つために惜しげもなく開発費が注がれるMotoGPマシンならともかく、市販車にはそこまでコストがかけられないというのが実情だ。

エンジンのピストンやコンロッドなど、高強度で軽い必要がある重要なパーツに『鍛造』アルミを使い、その他の部分は鋳造アルミとする場合が殆どだ。

市販車のオフロードバイクとしては初のアルミフレームが採用されたWR250R。そのメインフレームは大部分を鋳造アルミとし、力のかかるネック部分下部に『鍛造』アルミが溶接するという凝ったもの。当然コストがかかり、70万円を超える価格で登場。2007年当時は“オフロードバイクで70万円超えは高すぎる!”と話題になった。

トレールモデル(ナンバー付きの市販オフロードバイク)としては初めてアルミフレームを採用したWR250R。そのメインフレームは大部分を鋳造アルミとし、力のかかるネック部分下部に『鍛造』アルミを溶接している。当然コストがかかり、2007年に70万円を超える価格で登場。当時、いくら“オフロードモデルのYZF-R1”をコンセプトにしたプレミアムオフロードバイクとはいえ、250ccクラスのオフ車が70万円超えとは高すぎるだろ!と話題になった。

 

だからこそ『鍛造』アルミを使った製品は、高級でプレミアム感がありバイクカスタムの分野などで持て囃される。同じアルミ素材のモノブロックキャリパーやバックステップでも、鋳造アルミ製より、『鍛造』アルミ製の方が、より軽くて高くプレミアム感があるから、“どうだ、すごいだろ!”という図式が成り立つというわけだ。

アルミ『鍛造』ピストンができるまで

アルミを溶かして作った鋳造棒。これがアルミ『鍛造』ピストンの原料だ。

アルミを溶かして作った鋳造棒。これがアルミ『鍛造』ピストンの原料だ。

鋳造棒を必要な大きさに切断。まだ単なるアルミの塊でピストンには見えない。

材料である鋳造棒を必要な大きさに切断。まだ単なるアルミの塊でピストンには見えない。

アルミの塊を熱して柔らかくして上下の金型で挟み込んで成形。これが熱間鍛造と呼ばれる製法だ。

アルミの塊を熱して軟らかくし、上下の金型で挟み込んで成形。これが熱間鍛造と呼ばれる製法だ。

熱処理をして“焼き入れ”を行い、強度・硬度を安定させる。

熱処理をして“焼き入れ”を行い、強度・硬度を安定させる。

必要な穴や溝などの加工を行い、摺動性をアップする表面処理を行なって完成。

必要な穴や溝などの切削加工を行い、摺動性をアップする表面処理を行なってアルミ『鍛造』ピストンが完成。

 

『鍛造』のような強度を鋳造に迫るコストで実現!? -スピンフォージドホイール-

製造コストは安めだが重さがネックの鋳造アルミと、より強度が高くさらなる軽量化が見込めるものの手間がかかりどうしても高価になってしまう『鍛造』アルミ。

この2つの金属加工の“製造コストは安め”と“強度が高くて軽い”という長所のいいとこ取りをしたような製造方法がヤマハで開発された。それが回転塑性加工と呼ばれる加工技術で、MT-09やトレーサー9GTに採用されているスピンフォージドホイールに使われている。

YAMAHA MT-09

前後のホイールに軽量なスピンフォージドホイールを履くMT-09(2021年モデル)。

 

このスピンフォージドホイールには、鋳造したキャストホイールを回転させながら熱し、ジグを当てて伸ばしながら成形する回転塑性加工を採用。この伸ばす工程が鍛造のような効果を生み、“鋳造ホ イールでありながら鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性(粘り)”を手に入れることができたというわけだ。

ヤマハでは2021モデルのMT-09やトレーサー9GTから、このスピンフォージドホイールを採用しているが、それ以前のMT-09のホイールに比べ前後で合計約700g(リヤの慣性モーメントを11%低減)、トレーサー9GTでは約1000g(慣性モーメントでフロント11%、リヤ15%)もの軽量化に成功。より軽やかで応答性のいいハンドリングを作り出すことに大きく寄与している。

“鋳造ホ イールでありながら鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性”を手に入れたスピンフォージドホイール。ヤマハはこのスピンフォージドホイールのために、回転塑性加工に向く新たなアルミ素材の開発も行なった。

“鋳造ホ イールでありながら鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性”を手に入れたスピンフォージドホイール。ヤマハはこのスピンフォージドホイールのために、回転塑性加工に向く新たなアルミ素材の開発まで行なった。

 

 

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