バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は素材の話、 バイクでよく使われるアルミ素材の『鍛造(たんぞう)』をピックアップ。
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そもそも『鍛造』とは?
『鍛造』とは、文字通り叩いて伸ばすことで“鍛える”金属加工の製法のことだ。我々日本人には鍛冶屋が焼けた鋼からトンカンと金槌で日本刀を打ち出す作業が『鍛造』と言えば金属を“鍛える”イメージがしやすいだろう。
ただ金属を溶かして流し込んだだけの鋳造(ちゅうぞう)、また圧力をかけて鋳造したダイキャストと比べても、鍛造(フォージング)された金属は“鍛える”という工程を経ることで、より強度がアップし粘り強さを表す靭性という特性も向上する。
型に流し込んで固めた鋳物(いもの)の多くは衝撃に弱く割れやすいものだが、鍛造で鍛えた金属は衝撃にも強い。その秘密は、金属を鍛えたときに内部で発生する鍛流線(たんりゅうせん)と呼ばれる金属組織の流れにある。
バイクにおける『鍛造』は、鍛冶屋がトンカン叩いて鍛えるような製法ではなく、熱してある程度柔らかくなった金属を型に入れて圧力成形する熱間鍛造が主流。刃物のように何度も折り重ねて鍛えているわけではないが、それでも内部に鍛流線がうまれ素材としての強度が飛躍的にアップするという。
バイクのパーツにおいて『鍛造』は、アルミ、マグネシウムなどのより軽い金属素材をさらに強くして軽量化したいような場合に使われることが多く、バイクで『鍛造』と言えば、おおむね『鍛造』アルミのことを指すと思っていれば間違いない。パーツとしては、エンジン内部のピストンやコンロッド、またカスタムパーツではホイールやステップなどに『鍛造』アルミが採用される。
『鍛造』のなにが凄いの!?
鋳造に比べて『鍛造』は強く、さらなる軽量化が可能でプレミアム
……ってことだ。“鍛える”ことで強度を増す『鍛造』アルミは、同じパーツを作るにしても鋳造アルミに比べて肉薄化と軽量化が可能。だったら、バイクの全てのアルミパーツを鍛造化すればより軽くなるじゃない!? と思うかもしれないが、『鍛造』アルミは鋳造アルミよりも遥かに手間とコストがかかり、とても高価。レースに勝つために惜しげもなく開発費が注がれるMotoGPマシンならともかく、市販車にはそこまでコストがかけられないというのが実情だ。
エンジンのピストンやコンロッドなど、高強度で軽い必要がある重要なパーツに『鍛造』アルミを使い、その他の部分は鋳造アルミとする場合が殆どだ。
だからこそ『鍛造』アルミを使った製品は、高級でプレミアム感がありバイクカスタムの分野などで持て囃される。同じアルミ素材のモノブロックキャリパーやバックステップでも、鋳造アルミ製より、『鍛造』アルミ製の方が、より軽くて高くプレミアム感があるから、“どうだ、すごいだろ!”という図式が成り立つというわけだ。
アルミ『鍛造』ピストンができるまで
『鍛造』のような強度を鋳造に迫るコストで実現!? -スピンフォージドホイール-
製造コストは安めだが重さがネックの鋳造アルミと、より強度が高くさらなる軽量化が見込めるものの手間がかかりどうしても高価になってしまう『鍛造』アルミ。
この2つの金属加工の“製造コストは安め”と“強度が高くて軽い”という長所のいいとこ取りをしたような製造方法がヤマハで開発された。それが回転塑性加工と呼ばれる加工技術で、MT-09やトレーサー9GTに採用されているスピンフォージドホイールに使われている。
このスピンフォージドホイールには、鋳造したキャストホイールを回転させながら熱し、ジグを当てて伸ばしながら成形する回転塑性加工を採用。この伸ばす工程が鍛造のような効果を生み、“鋳造ホ イールでありながら鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性(粘り)”を手に入れることができたというわけだ。
ヤマハでは2021モデルのMT-09やトレーサー9GTから、このスピンフォージドホイールを採用しているが、それ以前のMT-09のホイールに比べ前後で合計約700g(リヤの慣性モーメントを11%低減)、トレーサー9GTでは約1000g(慣性モーメントでフロント11%、リヤ15%)もの軽量化に成功。より軽やかで応答性のいいハンドリングを作り出すことに大きく寄与している。
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