バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの? そのメリットは!?」なんて今更聞けないし…。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は“ラジアルタイヤ”、“ラジアルマウントキャリパー”に続く、ラジアルシリーズ第3弾の『ラジアルポンプマスターシリンダー』。車体ブレーキ周りのお話だ。

そもそも『ラジアルポンプマスターシリンダー』とは?

ラジアルタイヤ”、“ラジアルマウントキャリパー”の記事でも書いたけど、“ラジアル”は英語のradialで直訳すれば“放射状”。この言葉がついたパーツは何かがラジアル方向の構造になっている、もしくは取り付けられているということだ。この『ラジアルポンプマスターシリンダー』も同じ。読んでそのまま、ブレーキレバーの動きを油圧に変換する“マスターシリンダー”が“ラジアル”方向に取り付けられている。

そもそもディスクブレーキで使われる油圧システムの動きを説明すると ① ブレーキレバーを握り込む。 ② 握り込んだ力が注射器のような構造のマスターシリンダーと呼ばれるパーツに伝わり油を押し出す。 ③ その圧力(油圧)がブレーキホースで接続されたキャリパーへ。 ④ キャリパーのポットに嵌め込まれたブレーキピストンが油圧で押し出される。⑤ 押し出されたブレーキピストンが回転するディスクローターを挟み込み、その摩擦でブレーキがかかる。…ということになる。

今回のお題である『ラジアルポンプマスターシリンダー』が関わるのは②の、“握り込んだ力が注射器のような構造のマスターシリンダーと呼ばれるパーツに伝わり油を押し出す”の部分。油圧を発生させるマスターシリンダーというパーツが、どういう向きで取り付けられているのか? がとても重要なのだ。

横置きマスターシリンダー

一般的なマスターシリンダー(横置きマスターシリンダー)。注射器のような構造のパーツがレバーと同一方向(指さした方向)に取り付けられている。写真はカジバのエクストララプトール。

 

一般的なマスターシリンダー…というのもわかりにくいので“横置きマスターシリンダー”という言葉を使わせてもらうけど、『ラジアルポンプマスターシリンダー』は、この横置きマスターシリンダーに対して“縦置き”、レバーに直交するような向きでマスターシリンダーがレイアウトされている。

ラジアルポンプマスターシリンダー

『ラジアルポンプマスターシリンダー(縦置きマスターシリンダー)』は、注射器のようなパーツがレバーに直交する向き(指さした方向)に取り付けられている。写真はヤマハのYZF-R7。

『ラジアルポンプマスターシリンダー』はなにがすごいの?

『握り込んでもブレーキの効き具合の変化が一定』

ってことだ。一般道のライディングとは違い、レースの世界では300km/hのトップスピードから一気に200km/h以上減速してコーナーに飛び込んだり、コーナリング中にブレーキをかけたり、そもそもブレーキをかけながらコーナーへアプローチしたり…。

免許を取るときに、「カーブの手前でしっかり減速を終了してから、曲がりましょう。コーナリング中はブレーキをかけてはいけません」と耳にタコができるほど聞かされたビギナーにこんな話をすると“そんなことしたら危ないよ?”と思うかもしれない。でも、だからこそブレーキの効き具合、コントロール性に対して、レーシングライダーはものすごくシビアになる。そんな極限のレースの世界で生まれたのが『ラジアルポンプマスターシリンダー』なのだ。

何がスゴイのか? 冒頭では『握り込んでもブレーキの効き具合の変化が一定』なんて回りくどい書き方をしたが、端的に言えば“コントロール性がいい”ということになる。決して効きが良くなるわけではないので間違えないように!

レバー比が変化しない『ラジアルポンプマスターシリンダー』

さてレーシングライダーが求める“コントロール性がいいブレーキ”とはどんなものか? この答えはとても簡単。よく効くというのは当たり前だが、“常に思いどおりのブレーキ効力が得られる”こと。これが一番重要になる。

そんなマスターシリンダーの取り付けの向きだけで何が変わるの? と思うかもしれないがコレが実は大違い。下の一般的なマスターシリンダー(横置きマスターシリンダー)写真を見てもらうと、マスターシリンダーの筒の端をレバーの突起が押しているのがわかるだろう。

横置きマスターシリンダー

一般的なマスターシリンダー(横置きマスターシリンダー)を下から見上げてみたところ。画面中央でレバーがマスターシリンダーを押して、その力が油圧に変換される。写真はスズキのVストローム1050XT。

 

このブレーキレバーから伸びた突起がマスターシリンダーを押して、それがそのままブレーキの効力に変換されるわけだが、ミソはこの突起の動き具合にある。ブレーキレバーを握り込んでいくと当然突起がマスターシリンダーを押すように動くわけだが、レバーの支点が根元にある以上、その動きは“若干の弧”を描くことになる。この弧を描く動きが、ブレーキレバーの握り込み具合に対してのブレーキ圧力に変化を起こしてしまう。

誇張した言い方をすれば、①握り始め圧力の立ち上がりが緩慢。②中間、圧力が一番ダイレクトに伝わる。③奥側では再び圧力の立ち上がりが緩慢になる。…ってわけだが、この変化が極限のブレーキングを行うレースの世界ではとても顕著に感じられるという。難しい言葉でレバー比というけど、レースの世界ではこのレバー比の変化が少なくて思い通りにコントロールしやすいブレーキが必要になった。

そこで生まれたのが『ラジアルポンプマスターシリンダー』。マスターシリンダーの方向をレバーのストローク方向(縦置き)としたことで、弧を描いていた突起の動きが直線的になる。正確にはブレーキレバーの支点と突起に僅かな距離があるため、レバーストロークに対して若干のブレーキ圧の変化は起きているものの、横置きマスターシリンダーに比べればはるかにマシ。

ラジアルポンプマスターシリンダー

ブレーキレバーの握り込み量に対してブレーキ力の変化が少ないのが『ラジアルポンプマスターシリンダー』の最大の特徴だ。写真はヤマハのYZF-R7。

 

『ラジアルポンプマスターシリンダー』が、そんなに素晴らしい構造なら、一般的なバイクにももっと使えばいいじゃない? と思うかもしれないがなかなかそうはいかない。というのも、『ラジアルポンプマスターシリンダー』にしてしまうと、レバーまわりのパーツが前方方向に大きく張り出してしまうためハンドル切れ角が制限される。また造作コスト的な面から市販車には採用しにくいらしい。ヤマハでは21年に登場した新型MT-09や新型トレーサー9GT ABSなどで、ようやく市販車に初採用したくらいである。

セミラジアルポンプマスターシリンダー

『ラジアルポンプマスターシリンダー』と、一般的なマスターシリンダー(横置きマスターシリンダー)の折衷案的な、“セミ”ラジアルポンプマスターシリンダーもある。ラジアルポンプがレバー向きに対して、45°くらいの角度が付けられる。写真はトライアンフのストリートトリプルRS。

 

で、実際の乗り味的に『ラジアルポンプマスターシリンダー』が必要か? と言われれば、サーキット走行するなら…という感じ。確かにホームストレートから1コーナーへと飛び込む際のブレーキングに思い切りが出たり、フロントブレーキを引きずりながらリーンインしてクリップポイントを越えたところでブレーキをリリース…なんて操作はこの『ラジアルポンプマスターシリンダー』の方がやりやすいとは感じる。

ただこれはサーキット走行という非日常の世界でのこと。一般道の走行レンジでは正直そこまでのコントロール性の必要を感じないし、使ってみても公道ではそれほど違いは生まれないというのが正直な印象。とはいえ、そんなレーシングスペックのパーツが市販車に取り付けられていたらカッコいいよね。ブレーキ周りのカスタムパーツとしてこのラジアルマウントキャリパーの人気が高いのも頷けるというものだ。なので知り合いのバイクに『ラジアルポンプマスターシリンダー』が取り付けられていたら、「レーサーみたいでカッコいいね!」と言ってあげると喜ぶと思うぞ!

 

 

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