バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、電子制御で前走車を追従するACCの中でもヤマハが採用した先進的なブレーキシステム『レーダー連動UBS(ユニファイドブレーキシステム)』を見ていこう。
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そもそも『レーダー連動UBS』とは?
前走車追従型のクルーズコントロールシステムであるACC(アダプティブクルーズコントロール)では、ミリ波レーダーシステムを使って前走車との車間距離(正確には車間時間)を測って車速をコントロールしている。
前の車両が加速すれば、こちらも加速し、減速すればそれに合わせて減速する。そんなACCによる減速の仕方は2通り。前走車が緩やかに減速するような場合やそれほど車速差がない車両に追いついたような場合には、①スロットルオフでのエンジンブレーキのみでの減速を行う。
しかし、前走車が強めのブレーキを踏んだような場合や大きな車速差のある車両に追いついたような場合には、スロットルオフでのエンジンブレーキだけではなく、②前後のブレーキシステムを使っての減速を行う。当然、バイクがライダーの意思とは関係なく勝手にブレーキをかけるわけだから、このACCによるブレーキ制御では極端に強い減速は行えない……というのが定説だった。
2024年現在、カワサキ、BMW、KTM、ドゥカティといったバイクメーカーがACC付きのモデルを登場させているが、ACCによるブレーキ介入に関しては正直なところ似たり寄ったりであくまで“補助”の域を出ない。この4つのメーカーのなかでは一番強い介入を入れてくるKTMの1290スーパーアドベンチャーSのACCにしても、ブレーキへの介入はフルブレーキングの50%程度だというから相当なやんわりブレーキだ。実際、筆者は4社のACCを全て体験しているが、どれも“やんわりブレーキ”の域を出ず、前走車との極端な車速差がある場合には、追突を防ぐためライダーによる積極的なブレーキコントロールが不可欠になる。
……ところがである、2023年モデルのヤマハのトレーサー9GTプラスに搭載されたACCは、今までのACC搭載モデルとは比べ物にならないくらい強いブレーキ、それこそ急ブレーキに近い制動を行うようになったのだ。
ヤマハの『レーダー連動UBS』のなにが凄いの!?
電子制御サスペンションとの協調制御でACCがかなり強いブレーキ介入を行えるようになった。
……ということだ。実際にトレーサー9GT+を走らせたフィーリングの話をすれば、これまでのACC搭載モデルではブレーキ介入が“やんわり”の域を出なかったのに対し、『レーダー連動UBS』を搭載したトレーサー9GT+は“急ブレーキに近い強い介入”を実現。車の“衝突被害軽減ブレーキ”ほどの機能ではないにせよ、あわや追突! というときにトレーサー9GT+の『レーダー連動UBS』は事故防止の一助になるくらいの急減速を入れてくる。
“そんな! 勝手に急ブレーキをかけられてしまったら、ライダーはつんのめってバイクから放り出されてしまうじゃないかっ!?”と思うかもしれないがそうはならないのがヤマハの『レーダー連動UBS』のスゴイところなのだ。というのもトレーサー9GT+の『レーダー連動UBS』はKYB製の電子制御サスペンションと組み合わさったことで、ブレーキによる車体姿勢変化(ピッチングモーション)を協調制御でコントロールできるようになったのだ。
筆者は、トレーサー9GT+登場時に、クローズド環境のテストコースにて行われたACC体験試乗会に参加させてもらったのだが、正直このトレーサー9GT+のACC、特に『レーダー連動UBS』の完成度に度肝を抜かれることになった。
この試乗会では、ACCによる追従走行中に“前走車が急ブレーキを踏んだり”、“目の前にいきなり割り込みを受けた”といった状況を体験するプログラムが組まれていたのだが、トレーサー9GT+はそんな状況に対応して急減速するのだが、車体が前につんのめる動きが“ほぼない”と言ってしまっていいくらい出ないのだ。おかげで上半身が前に投げ出されるようなモーメントが起こらないから、バイクが勝手に急ブレーキをかけても変な怖さがない。
試乗会運営スタッフから、「バイクの方がしっかりブレーキをかけますので、なるべくご自身でのブレーキ操作は控えてください」なんて、言われながらの追突回避体験。最初は胃の奥がキュッとなるような嫌な感覚があったが、テストを繰り返していると『レーダー連動UBS』によるブレーキ介入を次第に信用できるようになってくるから不思議だ。最後には、“片手(ブレーキレバー側)をハンドルから離してバイクに完全にブレーキコントロールを任せてみたり”、“よそ見をしたまま『レーダー連動UBS』に追突を回避させる”……(あくまでもクローズド環境でのテストです)、なんてところまで信用することができたのだ。
前走車を自動追従するACCだけでもすごいと思うのだが、ヤマハはそこから一歩進んで、電子制御サスペンションと協調制御を行う『レーダー連動UBS』なんていうアクロバティックな機能を作りだしてしまったというわけだ。
トレーサー9GT+のACCの完成度の高さはヤマハだからこそ
なぜヤマハのトレーサー9GTプラスだけが、そんな高度なACCを作り出すことができたのか? それはもうヤマハの社風としかいいようがない。現代のバイクになくてはならない電子制御システムの根幹技術は、ドイツのボッシュをはじめとするメガサプライヤーなしでは成立しないような状況になってきている。
2024年現在、ACCを搭載を採用しているヤマハ以外のメーカーはカワサキ、BMW、KTM、ドゥカティの4社だが、これら4社のバイクが搭載するACCは全てボッシュ製のコンポーネント。各社、モデルごとに多少プログラムの味付けこそ違えどシステムの根幹は一緒であり、ボッシュ製のミリ波レーダー、IMU、ECU、ディスプレイユニットを採用している。
ところがヤマハのACCは違うのだ。ミリ波レーダーユニットこそボッシュ製のものを使っているものの、6軸IMUも自社開発なら、制御を行うシステムのプログラムも自社開発。だからこそ電子制御サスペンションとの協調制御による『レーダー連動UBS』なんて領域にまで踏み込んだACCの開発ができたのだ。
ヤマハでは“人機官能”というコンセプトのもと、80年代から“ジェンシス”、“ジェニック”といった呼称をつけて、機械であるバイクとライダーの感覚を融合させる研究を長年に渡って行っており、そんなこだわりが現代のIMUや自然で違和感のないACCのシステムの自社開発につながっているというわけだ。さらに「衝突予知警報」といった機能でも、ヤマハはこの独自の『レーダー連動UBS』で大きく差をつけることになったが、この話は次回に取っておくことにしよう。
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