バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、電子制御前走車を追従するACCの中でもヤマハが採用した先進的なブレーキシステム『レーダー連動UBS(ユニファイドブレーキシステム)』を見ていこう。

そもそも『レーダー連動UBS』とは?

前走車との距離を一定に保って追従走行する機能がACC(アダプティブクルーズコントロール)。追従走行中は、基本的にスロットル操作もブレーキ操作も要らず、勝手にバイクが前の車についていく。ただし2輪という特性上、姿勢の保持やステアリング操作はライダーが行う必要がある。

前走車との距離を一定に保って追従走行する機能がACC(アダプティブクルーズコントロール)。追従走行中は、基本的にスロットル操作もブレーキ操作も要らず、勝手にバイクが前の車に一定間隔でついていくため運転がものすごく楽になり、結果として疲れずより遠くへ行くことができる。クルマのACC機能とは違い車線保持機能はなく、姿勢の保持やステアリング操作は常時ライダーが行う必要がある。

 

前走車追従型のクルーズコントロールシステムであるACC(アダプティブクルーズコントロール)では、ミリ波レーダーシステムを使って前走車との車間距離(正確には車間時間)を測って車速をコントロールしている。

前の車両が加速すれば、こちらも加速し、減速すればそれに合わせて減速する。そんなACCによる減速の仕方は2通り。前走車が緩やかに減速するような場合やそれほど車速差がない車両に追いついたような場合には、①スロットルオフでのエンジンブレーキのみでの減速を行う。

しかし、前走車が強めのブレーキを踏んだような場合や大きな車速差のある車両に追いついたような場合には、スロットルオフでのエンジンブレーキだけではなく、②前後のブレーキシステムを使っての減速を行う。当然、バイクがライダーの意思とは関係なく勝手にブレーキをかけるわけだから、このACCによるブレーキ制御では極端に強い減速は行えない……というのが定説だった。

ヤマハのトレーサー9GT +が搭載するミリ波レーダーはボッシュ製。ACCの目にあたる装置だ。

ヤマハのトレーサー9GT +が搭載するミリ波レーダーはボッシュ製(画面中央下部の四角いパーツ)。ACCの目にあたる装置で、77GHzミリ波を発し、その反射で周囲の交通状況を把握している。バイクのACCが、四輪で主流のカメラではなくミリ波レーダーを使うのは、ミリ波レーダーがユニットの汚れや霧といった気象条件に強く、遠くまでしっかり見通せるから。

 

2024年現在、カワサキ、BMW、KTM、ドゥカティといったバイクメーカーがACC付きのモデルを登場させているが、ACCによるブレーキ介入に関しては正直なところ似たり寄ったりであくまで“補助”の域を出ない。この4つのメーカーのなかでは一番強い介入を入れてくるKTMの1290スーパーアドベンチャーSのACCにしても、ブレーキへの介入はフルブレーキングの50%程度だというから相当なやんわりブレーキだ。実際、筆者は4社のACCを全て体験しているが、どれも“やんわりブレーキ”の域を出ず、前走車との極端な車速差がある場合には、追突を防ぐためライダーによる積極的なブレーキコントロールが不可欠になる。

……ところがである、2023年モデルのヤマハのトレーサー9GTプラスに搭載されたACCは、今までのACC搭載モデルとは比べ物にならないくらい強いブレーキ、それこそ急ブレーキに近い制動を行うようになったのだ。

2023年に登場したヤマハのトレーサー9GT+(写真はアクセサリーパーツ装着車)。ヤマハ初のACC搭載モデルであるが、ACCの精度やフィーリングにおいては他車を圧倒。2024年現在、最も快適で、最も安全なACCを搭載しているのがこのトレーサー9GT+だ。

2023年に登場したヤマハのトレーサー9GTプラス(写真はアクセサリーパーツ装着車)。ヤマハ初のACC搭載モデルであるが、ACCの精度やフィーリングにおいては他の4メーカーを圧倒。筆者の個人的な見解としては、2024年現在“最も快適で最も安全なACC”を搭載しているのがこのトレーサー9GTプラスである。

 

ヤマハの『レーダー連動UBS』のなにが凄いの!?

電子制御サスペンションとの協調制御でACCがかなり強いブレーキ介入を行えるようになった。

……ということだ。実際にトレーサー9GT+を走らせたフィーリングの話をすれば、これまでのACC搭載モデルではブレーキ介入が“やんわり”の域を出なかったのに対し、『レーダー連動UBS』を搭載したトレーサー9GT+は“急ブレーキに近い強い介入”を実現。車の“衝突被害軽減ブレーキ”ほどの機能ではないにせよ、あわや追突! というときにトレーサー9GT+の『レーダー連動UBS』は事故防止の一助になるくらいの急減速を入れてくる。

ミリ波レーダーの情報を使って、エンジン出力だけでなくブレーキ装置への積極介入も行うトレーサー9GT+のACC。

ミリ波レーダーの情報を使って、エンジン出力調整だけでなく、前後のブレーキ装置への積極介入も行って効果的に減速するトレーサー9GTプラスの『レーダー連動UBS』の概念図。

 

“そんな! 勝手に急ブレーキをかけられてしまったら、ライダーはつんのめってバイクから放り出されてしまうじゃないかっ!?”と思うかもしれないがそうはならないのがヤマハの『レーダー連動UBS』のスゴイところなのだ。というのもトレーサー9GT+の『レーダー連動UBS』はKYB製の電子制御サスペンションと組み合わさったことで、ブレーキによる車体姿勢変化(ピッチングモーション)を協調制御でコントロールできるようになったのだ。

筆者は、トレーサー9GT+登場時に、クローズド環境のテストコースにて行われたACC体験試乗会に参加させてもらったのだが、正直このトレーサー9GT+のACC、特に『レーダー連動UBS』の完成度に度肝を抜かれることになった。

この試乗会では、ACCによる追従走行中に“前走車が急ブレーキを踏んだり”、“目の前にいきなり割り込みを受けた”といった状況を体験するプログラムが組まれていたのだが、トレーサー9GT+はそんな状況に対応して急減速するのだが、車体が前につんのめる動きが“ほぼない”と言ってしまっていいくらい出ないのだ。おかげで上半身が前に投げ出されるようなモーメントが起こらないから、バイクが勝手に急ブレーキをかけても変な怖さがない。

『レーダー連動UBS』が働くのは、前走車追従中に急な割り込みを受けたり、前走車が急ブレーキを行なったような場合。体感的には急ブレーキに近い制動をバイクが勝手に行うのだ。

『レーダー連動UBS』が働くのは、前走車追従中に急な割り込みを受けたり、前走車が急ブレーキを行なったような場合。体感的には急ブレーキに近い制動をバイクが勝手に行う……のだが違和感や恐怖感が全くないのがヤマハの『レーダー連動UBS』の最大の特徴だ。

 

試乗会運営スタッフから、「バイクの方がしっかりブレーキをかけますので、なるべくご自身でのブレーキ操作は控えてください」なんて、言われながらの追突回避体験。最初は胃の奥がキュッとなるような嫌な感覚があったが、テストを繰り返していると『レーダー連動UBS』によるブレーキ介入を次第に信用できるようになってくるから不思議だ。最後には、“片手(ブレーキレバー側)をハンドルから離してバイクに完全にブレーキコントロールを任せてみたり”、“よそ見をしたまま『レーダー連動UBS』に追突を回避させる”……(あくまでもクローズド環境でのテストです)、なんてところまで信用することができたのだ。

前走車を自動追従するACCだけでもすごいと思うのだが、ヤマハはそこから一歩進んで、電子制御サスペンションと協調制御を行う『レーダー連動UBS』なんていうアクロバティックな機能を作りだしてしまったというわけだ。

トレーサー9GT+のACCの完成度の高さはヤマハだからこそ

トレーサー9GT+が採用するKYB製セミアクティブタイプの電子制御サスペンションがACCをはじめとするミリ波レーダー機能と融合。『レーダー連動UBS』によるブレーキ介入時には、バイクが前につんのめるような動き(ピッチングモーション)を抑制するような制御を行なってハードブレーキングに対応する。

トレーサー9GTプラスが採用するKYB製セミアクティブタイプの電子制御サスペンションが、ACCをはじめとするミリ波レーダー機能と融合することにより完成した『レーダー連動UBS』。ハードブレーキング時のバイクが前につんのめるような動き(ピッチングモーション)を抑制するために、フロントフォークの圧側減衰力を瞬間的にコントロールし、大きくフロントフォークが沈み込んでしまわないような制御を行う。

 

なぜヤマハのトレーサー9GTプラスだけが、そんな高度なACCを作り出すことができたのか? それはもうヤマハの社風としかいいようがない。現代のバイクになくてはならない電子制御システムの根幹技術は、ドイツのボッシュをはじめとするメガサプライヤーなしでは成立しないような状況になってきている。

2024年現在、ACCを搭載を採用しているヤマハ以外のメーカーはカワサキ、BMW、KTM、ドゥカティの4社だが、これら4社のバイクが搭載するACCは全てボッシュ製のコンポーネント。各社、モデルごとに多少プログラムの味付けこそ違えどシステムの根幹は一緒であり、ボッシュ製のミリ波レーダー、IMU、ECU、ディスプレイユニットを採用している。

ところがヤマハのACCは違うのだ。ミリ波レーダーユニットこそボッシュ製のものを使っているものの、6軸IMUも自社開発なら、制御を行うシステムのプログラムも自社開発。だからこそ電子制御サスペンションとの協調制御による『レーダー連動UBS』なんて領域にまで踏み込んだACCの開発ができたのだ。

 

2014年のYZF-R1の電子制御のため搭載するため6軸IMUを村田製作所と共同開発(写真はトレーサー9GT+に搭載されている最新の6軸IMU)。キーデバイスの開発を他社に頼らず、自社開発するこの姿勢が2024年現在のACCの性能差につながっている。

2014年のYZF-R1に搭載された6軸IMUは村田製作所と共同開発(写真はトレーサー9GTプラスに搭載されている最新の6軸IMU)。IMUのようなキーデバイスの開発を他社に頼らず、自社開発する姿勢が2024年現在のACCの性能差につながっている。

 

ヤマハでは“人機官能”というコンセプトのもと、80年代から“ジェンシス”、“ジェニック”といった呼称をつけて、機械であるバイクとライダーの感覚を融合させる研究を長年に渡って行っており、そんなこだわりが現代のIMUや自然で違和感のないACCのシステムの自社開発につながっているというわけだ。さらに「衝突予知警報」といった機能でも、ヤマハはこの独自の『レーダー連動UBS』で大きく差をつけることになったが、この話は次回に取っておくことにしよう。

バイクのソレなにがスゴイの!? Vol.69 『衝突予知警報』~バイク専門用語をわかりやすく解説!

 

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