バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は高性能なレインウエアに使われる素材の話、透湿防水素材の仕組みを見ていこう。
そもそも『透湿防水素材』とは?
透湿防水素材という名前が示すとおり、“湿気は透しながら”、“防水性もある”という二面性を持った素材だ。素材自体がスポンジのような分子レベルの穴が空いた構造をしており、水は通さないが湿気は通す。ただコレ、実はこれとてもスゴイことなのだ。だって考えてもみよう。液体である水も、ムレの正体である湿気も水の状態が変化しただけで両方“水”、“H2O”であることは変わらない。
それなのに水の状態では通さず、湿気になると通れるという、非常に絶妙なサイズの穴が空いている。分子同士の結合する力が大きい水の状態では通さないけど、気化して分子がより自由に動き回れる状態になるとすんなり通り抜けられるというワケだ。いずれにしても狙った大きさの穴が空いてないと高い性能は得られなさそうである。なので透湿防水素材の性能を表すには、水を防ぐ能力値を表す「耐水圧」と、どれだけ水蒸気を通すかの「透湿度」の2つがセットで表示される。
耐水圧20,000㎜なら、生地の上に1cm四方のまっすぐな管を立て、その中に水を入れて20mまでの高さの水圧に耐えられるということ。一方、ムレにくさである透湿度は、1㎡あたり24時間でどのくらいの水蒸気を通すか。20,000g/㎡・24hなら24時間で20ℓの水蒸気を通す能力があるということ。
両方とも数値が高い方が性能がよく、またどちらか一方だけの能力が高いだけでも意味がない。耐水圧が低ければ、それだけレインウエアとしての防水能力が低いということだし、逆にゴムやビニールのような水を一切通さない素材は、耐水圧に関しては非常に高くても透湿度に関してはほぼゼロと言ってよく、大変ムレやすい。
そんな透湿性ゼロの素材でレインウエアを作ったらどうなるか? 最近は、レストランなどでもビニールの手袋をすることが多いと思う。そんなビニールの手袋をはめて作業していると、内部が曇ったり、ムレたり、結露してビニールが肌に張り付いたりして、脱がすのに煩わしい思いをした経験はないだろうか?
近年のコロナ禍で着用の機会が増えたビニール手袋。防水性に関しては非常に高いが、透湿性はゼロ。つまり内部はムレやすく、少し時間が経つと結露で内部が濡れ始める。この結露は冬の窓ガラスが曇って水滴を作るのと原理は一緒だ。
…思い出すだけで不快だよね。手のひらほどではないにせよ人間の皮膚からは、汗をかいてなくても常に水分が蒸散しており、ムレや結露といった現象がレインウエアの中で起こる。透湿性のないレインウエアを着ていると内部がものすごい勢いでムレてくるのだ。ムレるだけなら不快な思いをするだけで済むのだが、外気で冷やされて結露がはじまると今度は内部の衣類が濡れてしまう。
この結露が非常にやっかいで、高地や冬季の登山においては低体温症を引き起こし、最悪は疲労凍死することもあるくらいだ。透湿防水素材はそんなやっかいな内部のムレと結露を解消するために生まれた画期的な素材なのだ。
透湿防水素材のトップブランドはゴアテックスで、このヒエラルキーはもう20年以上も前から変わっていない。ただこのゴアテックスはその性能はもちろん、保証内容にもこだわるあまり非常に高価で、おいそれと手が出せる価格ではないのが現状だ。
相場としては、ゴアテックスを使ったレインウエアは1着だいたい3万円以上。性能が人の生き死にに関わることもある登山用のアイテムならともかく、立ちゴケ1発で穴があくような消耗品であるバイク用レインウエアにそこまでのコストをかけられる人はほんのひと握りだろう。
そこで最近、バイク用品各メーカーはゴアテックスよりもかなり安い価格帯でありながら、ゴアテックスの性能に迫るような透湿防水素材の開発に力を入れている。大別すると、ゴアテックスと同じ“フィルムタイプ”の透湿防水素材と、別の素材に塗布して透湿防水性能を持たせる“塗布タイプ”の2種類がある。
『透湿防水素材』のここがスゴイ!
防水素材なのにムレない、内部で結露を起こしにくい!
何度も繰り返すようだが、もうこの一言に尽きる。だけど水は通さず、湿気だけ通すなんて都合のいい話はにわかに信じがたいよね。なんとか証明する方法がないだろうか? なんて思っていたところに、レッドバロンの担当さんから「ROMのライディングレインスーツの生地を提供するので、煮るなり焼くなり、引きちぎるなり、なんでもしていいですよ」なんてお話をいただいたので、僕はこの透湿防水素材の生地を実際に蒸してみることにしました!
フラスコでお湯を沸かし、その上にライディングレインスーツの生地を被せてみる。透湿があるなら水蒸気は透過するはずである。ちなみにROMのライディングレインスーツの生地スペックは耐水圧:20000mmで透湿度:20000 g/㎡・24hとのことだ。
実はずっとやってみたかったんだよね〜、この透湿防水実験。とはいっても、内容はとても簡単でお湯を沸かしたフラスコの蓋に透湿防水素材の生地を被せて、どれくらいの湿気が湯気として通り抜けているのか? を見るだけである。
グツグツと煮立ったフラスコに生地を被せるてゴムで止めてみると、生地を通り抜けた水蒸気が湯気となって立ちのぼるのが見える! 透湿防水素材はちゃんと内部のムレを逃しているのだ! しかも内部の圧力で生地が伸びているのもわかる。ROMのライディングレインスーツの生地は透湿防水性能を持ちながら、同時に高いストレッチ性も備えているのだ。