バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。数回にわたって電子制御システム『トラクションコントロールシステム』の進化を紹介しており、今回はその4回目。
これまで
①『トラクションコントロールシステム』の黎明期
②転倒を防ぐ安全装置としての『トラクションコントロールシステム』
③電子制御スロットルを得た速く走るための『トラクションコントロールシステム』
とその進化の過程を見てきたが、今回は近年アドベンチャーバイクで劇的な進化を遂げることになる、④車体の動きをもコントロールする2023年時点で最新の『トラクションコントロールシステム』を見ていこう。
『トラクションコントロールシステム』でパワースライドも制御可能に!
ハイパワーかつ、車重が200kgを超えるようなモデルが多いアドベンチャーバイクは、『トラクションコントロールシステム』やABS、電子制御サスペンションといった電子制御システムとの親和性がいい……というか、大きく重いアドベンチャーバイクがここまで扱いやすくなったのは『トラクションコントロールシステム』をはじめとする電子制御技術の恩恵であることは間違いない。
とくに電子制御スロットルを搭載したバタフライバルブのコントロールまで行う『トラクションコントロールシステム』においてはバイクメーカーはこぞってこの独自の電子制御システムを開発。職業柄、いろいろな『トラクションコントロールシステム』搭載モデルを試乗すると、バイクのジャンルはもちろんだがメーカーによって味付けや目指す方向が違うことに驚かされる。
その中で最も衝撃を受けたのが、2018年にモデルチェンジしたホンダのCRF1000Lアフリカツインの『トラクションコントロールシステム』だ。アフリカツインシリーズは、2016年の登場時から3段階調整式の『トラクションコントロールシステム』は搭載していたものの、まだ電子制御スロットルはなく本格的なオフロード走行をするには制御OFFにするしか選択肢がないような制御具合だった(当時のタンデムスタイル掲載のインプレッション記事)。
ところが、2018年のモデルチェンジで電子制御スロットルを得たことで『トラクションコントロールシステム』の制御介入度が一気に進化。なんと制御OFFに加え、介入レベルを7段階から選べるようになったのだ。当然、制御具合も非常に自然で違和感がなくなったりしているのだが、驚いたのは『トラクションコントロールシステム』の介入レベルを下げていくと、徐々にパワースライドを許容するような味付けになっていたことだ。
つまり全くリヤが空転しないような制御を行う安全性第一の“7”に対し、“2”まで下げてスロットルをガバ開けした場合に「ズッ!」とリヤタイヤが滑るようになり、“1”にするとフルカウンターに近いパワースライドが行えるようになるのだ。今考えるとIMUも搭載していなかったのに、ここまで『トラクションコントロールシステム』制御精度を高めたことに恐れ入る。この7段階の『トラクションコントロールシステム』は、1100ccとなりIMUを搭載することになった現行モデルのCRF1100Lアフリカツインシリーズにも、より精度を高めて引き継がれている。
6軸IMUの搭載でさらに進化
この電子制御スロットルによる『トラクションコントロールシステム』の劇的な進化と同時に行われてきたのが、6軸IMUの装備だ。車体の傾き具合や進行方向などの情報をリアルタイムで得られる6軸IMU。この高度なセンサーを積んだことでバイクの『トラクションコントロールシステム』は、直線なのかコーナリング中なのかを判断できるようになり、“車体の姿勢をコントロール”するという領域へ進化する。
なにせこれまでは、“後輪の空転”として捉えられなかったスリップが、“直進中”なのか? “コーナリング中”なのか? はたまた“カウンタースライドで斜めに進んでいるのか?”をバイク側で判断できるようになり。その走行状況に合わせた制御を入れられるようになったのだ。
このIMUを利用した『トラクションコントロールシステム』はロードレースの世界で活用され始め、2015年にはヤマハがYZF-R1に自社開発の6軸IMUを搭載し、鈴鹿8耐をはじめとする市販車ベースのレースを席巻。その後は各社のスーパースポーツモデルには当たり前のように装備されるようになった。ただ、市販車の技術として『トラクションコントロールシステム』が大きく進化を遂げたのは、やはり世界的なアドベンチャーバイクブームによるところが大きい。バイクメーカー各社はもちろん、ボッシュなどのメガサプライヤーがこぞって『トラクションコントロールシステム』をオフロード走行向きに進化させ、滑りやすく不安定な路面の上で使える機能へと昇華させたのだ。
各社で違う『トラクションコントロールシステム』の味付け
前述したスズキの速く走るための『トラクションコントロールシステム』はもちろんだが、ヤマハはとにかく制御の介入をライダーに感じさせないような『トラクションコントロールシステム』入れてくるのがその特徴。海外メーカーがよく使うボッシュやコンチネンタルなどのメガサプライヤー系の『トラクションコントロールシステム』に関しては、システムの仕組みや制御の方向性は基本的に一緒だが、メーカーによって少しずつ味付けが異なるのが面白い。
例えばKTMやドゥカティ、BMWなどの海外メーカーをはじめ、カワサキやスズキが採用するボッシュ製の『トラクションコントロールシステム』は、基本的なシステムは一緒だが、“制御をライダーに感じさせる安全第一系か?”、それとも“全く介入を感じさせない系か?”、それとも“スポーツ走行のために接地感の変化を感じさせる系か?”などの味付けの具合が微妙に違っている。
また2018年にアフリカツインの電子制御スロットル付き『トラクションコントロールシステム』を登場させた後、KTMのアドベンチャーモデルの介入の味付けが2021モデルで劇的に変化。KTMの『トラクションコントロールシステム』はボッシュのものでそれまで介入度を下げても多少リヤが流れたところでスライドを止めるような安全装置に近い制御だったのが、スロットルの開け具合で“ライダーはリヤを流そうとしている”と感じ取ると、制御が外れて大きなテールスライドが行えるようになった。
この制御介入は、同じボッシュ系の『トラクションコントロールシステム』を搭載する、ドゥカティのムルティストラーダシリーズでも採用していた制御方式だが、個人的には、アフリカツインの『トラクションコントロールシステム』を意識しての変更だと認識している。現在、メーカーがしのぎを削り合う、開発合戦が行われているのがアドベンチャーバイクの『トラクションコントロールシステム』というわけだ。
電子制御スロットルとIMUを得て、スポーツ走行で使える機能として進化している『トラクションコントロールシステム』。技術の発展は我々にどんな世界を見せてくれるのだろうか?
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