バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は電子制御装備の『衝突予知警報』。前回紹介したミリ波レーダーを使ったヤマハの先進的なブレーキシステム「レーダー連動UBS」は、この『衝突予知警報』も大きく進化させることになった。

ミリ波レーダーで前方の交通状況を把握し、前走車を追従走行するACC(アダプティブクルーズコントロール)。ミリ波レーダーが得たデータは、ACC以外にもBSDや『衝突予知警報』といった他の機能にも利用される。

ミリ波レーダーで前方の交通状況を把握し、前走車を追従走行するACC(アダプティブクルーズコントロール)。ミリ波レーダーで得られた周囲の情報は、ACC以外にもBSD(ブラインドスポットディテクション)や、今回紹介する『衝突予知警報』といった機能にも利用されている。

そもそも『衝突予知警報』とは?

追突の危険性がある場合にメーターに警告を表示してライダーに知らせる『衝突予知警報』で写真はカワサキのニンジャH2SX SE。2024年現在、ミリ波レーダーを採用しているのは、ボッシュ系のドゥカティ、BMW、KTM、カワサキと、後発で独自のACCを開発したヤマハがある。

追突の危険性がある場合にメーターに警告を表示してライダーに知らせるのが『衝突予知警報』の役割。写真はカワサキのニンジャH2SX SEでメーターに警告が出ている。2024年現在、ミリ波レーダーによる『衝突予知警報』を採用しているのは、ボッシュ系の技術を採用するドゥカティ、BMW、KTM、カワサキの4社と、後発だが独自のACCを開発したヤマハだ。

 

前提として『衝突予知警報』は、前方にミリ波レーダーユニットを備えたバイクが持つ機能だ。『衝突予知警報』の特徴は、ミリ波レーダーはACCによる追従走行中であってもなくても常に前方にミリ波を発しており交通状況をセンシングしていることにある。常に自車と前走車との距離や相対速度から追突事故発生の危険を予測。急激に車間距離が詰まり、追突事故の危険性があると判断した場合にメーターに警告表示を出してライダーにその危険を知らせてブレーキ操作を促す……という機能なのだが、実際の交通社会の中で使ってみると、実はあまり役に立つ機能では“なかった”んだよね。

“なかった”なんてもったいぶった書き方をしたのは、2023モデルのヤマハのトレーサー9GTプラスが、レーダー連動UBSと『衝突予知警報』を組み合わせたことで、衝突回避時にはバイクがブレーキをしっかりかけて止まれる、より実効的なシステムへと進化したからだ。

というのも、ACCを搭載したモデルで混雑した交通環境の中でバイクの機動性の活かした走り(まぁ、早い話がスリ抜けだ)を行っていると、前走車の急な車線変更やブレーキに反応してこの『衝突予知警報』が出ることはあった。ただその出現タイミングはかなり遅く、“そのつもり”で警戒しながらマージンをとって運転しているから事故を回避できるものの、トレーサー9GTプラス以外のモデルでは『衝突予知警報』が出てからライダーが反応してブレーキをかけたところで“これじゃ間に合わないだろ!?”と感じる場面が多かったのだ。

2023モデルのヤマハのトレーサー9GTプラスは、フロントカウル内部にミリ波レーダーユニットを内蔵し、前方の交通状況をACC設定時もそれ以外でも常にセンシングしてもしもの時に備える。

2023モデルのヤマハのトレーサー9GTプラスは、フロントカウル内部にボッシュ製ミリ波レーダーユニットを内蔵し、前方の交通状況をACC設定時もそれ以外でも常にセンシングしており、もしもの時に備える。

 

ヤマハの『衝突予知警報』のなにが凄いの!?

もしもの時にしっかり事故を防ぐ機能になっている!

……ってことだ。トレーサー9GTプラスに搭載されるヤマハのミリ波レーダー系の装備は、多くのメーカーが採用するボッシュのパッケージシステムではなく、6軸IMUなどのキーデバイスやプログラムはヤマハが独自に開発したもの。そんな自社開発の長所を活かし、電子制御サスペンションとブレーキシステムの協調制御を行うレーダー連動UBS、さらにこれらの機能を『衝突予知警報』と融合させてしまったのだ。

おかげでヤマハ・トレーサー9GTプラスのレーダー連動UBSは、ACCでの巡航走行時に急ブレーキに近い制動を勝手に行うだけでなく、『衝突予知警報』が出た場合にもかなり強いブレーキ制御をバイクの方で入れてくる。

ヤマハのトレーサー9GTプラスの『衝突予知警報(ヤマハでの名称はライダー介入リクエスト)』表示画面。画面いっぱいに表示されるため、とても目立つ。

ヤマハのトレーサー9GTプラスの『衝突予知警報(ヤマハでの名称はライダー介入リクエスト)』表示画面。画面いっぱいに表示されるため、とても目立つ。

 

なかでも特徴的なのは、『衝突予知警報』が出た状態でブレーキ操作を行なった場合のブレーキ増圧制御だ。『衝突予知警報』が出るような状況では誰もが咄嗟にブレーキをかけると思うが、正直ブレーキレバー(ペダル)に指(足)を伸ばすのが精一杯で“適正にコントロールする”というところまで気が回らないものだ。

ところがトレーサー9GTプラスは、『衝突予知警報(ヤマハでの名称はライダー介入リクエスト)』出た状態で“何らかのブレーキ操作”を行うと、最大限に効果的なブレーキ制御をバイクの方で勝手に行なってくれる。前回のレーダー連動UBS紹介記事でも書いた通り、サスペンションとの強調制御を実施して前方に投げ出されるような動きを極力排除したうえで、かなり強力なブレーキ制御を入れてくるのだ。

つまり“危ない! 追突する!!”と思ったときに、“何らかのブレーキ操作”ができれば、たとえそれがレバーに触れるくらいの弱い入力だったとしても、バイクが“ライダーがブレーキをかけたがっている”と判断してブレーキ操作をオーバーライド。急制動に近いブレーキングを行って追突してしまう確率を下げてくれるというわけなのだ。

トレーサー9GTプラスのこの機能は、車に搭載されているような乗り手による操作がいっさいなくても勝手にブレーキがかかる“衝突被害軽減ブレーキ”ではないものの、実走してみると十分効果的な機能になっていることが実感できた。

トレーサー9GTプラス登場時にクローズド環境で行われた、『衝突予知警報』&レーダー連動UBS(ユニファイドブレーキシステム)のテスト風景。車の横から飛び出たバーを前走車に見たて、あえて追突しそうな状況を作ってレーダー連動UBSの介入具合やその違いを体感する。

トレーサー9GTプラス登場時にクローズド環境で行われた、『衝突予知警報』&レーダー連動UBS(ユニファイドブレーキシステム)のテスト風景。車の横から飛び出た青いバーを前走車に見たて、あえて追突しそうな状況を作ってレーダー連動UBSの介入具合や機能の有り無しの制御の違いを体感するプログラムが組まれていた。

ミリ波を反射する素材が取り付けられたバー。最悪バイクが突っ込んでも大丈夫なソフトな素材で作成されているものの、『衝突予知警報』が画面に表示されるまでバイクで急接近するにはかなりの胆力が必要だった。

ミリ波を反射する素材が取り付けられたバー。最悪バイクが突っ込んでも大丈夫なソフトな素材で作成されているものの、『衝突予知警報』が画面に表示されるまでこの棒に急接近するにはかなりの胆力が必要だ。

走行中、バーに取り付けられた金属板に2~1mくらいの距離まで接近し、『衝突予知警報』が出たところでブレーキ操作。すると明らかに自分がかけた以上のブレーキ操作をバイクが行なって、しっかり速度が落ちるのが体感できた。テストでは追従走行状態からのブレーキ操作、かなり速度差がある状態からのブレーキ操作をテストの2種類を実施。

走行中、バーに取り付けられた金属板に1~0.7mくらいの距離まで接近し、『衝突予知警報』が出たところで軽くブレーキ操作してみる。すると明らかに自分がかけた以上のブレーキ操作をバイクが行なって、しっかり速度が落ちるのが体感できた。テストでは「追従走行状態からのブレーキ操作」、「かなり速度差がある状態から追突直前でのブレーキ操作」の2種類を実施した。

 

トレーサー9GTプラスとはクローズド環境のテストだけでなく、筆者はその後も何度か公道での試乗を行なっており、『衝突予知警報』及びレーダー連動UBSが、しっかり公道で使える機能になっていることも確認している。実際、何度か前走車の動きに反応して『衝突予知警報』が発現。咄嗟にブレーキをかける! なんて状況にも陥ったが、そんな場合にはしっかりブレーキ操作が増圧されて、自分が入力した以上のブレーキングが行われることが体感できた。トレーサー9GTプラスの『衝突予知警報』およびレーダー連動UBSは、しっかり実際の交通環境で事故防止、もしくは事故を軽減させる機能になっていたのだ。

 

 

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