バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし…。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。数回にわたって電子制御システムトラクションコントロールシステムを紹介してきたが、今回は後輪のスリップではなくフロントタイヤの浮き上がりを制御する『ウイリーコントロール』だ。

そもそも『ウイリーコントロール』とは?

読んで字のごとく“ウイリー”、つまりフロントタイヤの浮き上がりを“制御(コントロール)する”のが『ウイリーコントロール』。250ccや400ccクラスのバイクでは、スロットルをガバ開けしたところでフロントタイヤが浮き上がってしまう!……なんてことは稀だ。しかしリッターオーバークラス、特に最近のモデルとなるとインジェクション可変バルブの効用もあり低速トルクがものすごく潤沢。不用意にスロットルを開ければ軽々とフロントタイヤが浮いてしまうようなモデルはいくらでもある。

こんなハイパワーなバイクに乗っていて怖いのは“意図しない不意の”フロントアップだ。スロットルワークや体重移動で意図的にフロントタイヤを持ち上げるのなら、そのつもりでアクションしているので心構えも体勢もできているためアンコントロールに陥ることは少ない。ただ、たまたま路面のギャップがあり、たまたま変な体重移動をしたときにスロットルをワイドオープンしてしまったりすると、“意図しないフロントアップ”が発生することになる。不用意にフロントアップしてしまうわけだから当然怖い。そこで慌てずスロットルを戻せば大抵の場合フロントアップは収束するのだが、怖いのはびっくりして体が遅れてしまったような場合。

当然、ライダーは焦ってとっさにハンドルにしがみつこうとするのだが、これがスロットルを余計に開ける動作になってしまいフロントアップが加速。結果、フロントタイヤが上がりすぎて転倒してしまったりする。いわゆるこれが“マクれる”というやつだ。

フロントタイヤを上げようとして、スロットルワークや体重移動で意図的に上げたならそれなりに対処できるものの、“予期せずにフロントタイヤが上がってしまった”場合にはニッチもサッチもいかない状況になりやすい。『ウイリーコントロール』は、この予期せぬフロントアップを防ぐために備わっているというワケだ。

いわゆるこれが“マクれる”というやつ

予期せずバイクがマクれてしまうのは非常にコワイ。この体勢になってしまったらスロットルは戻せないし、かといってハンドルから手を離すこともできず往生する。写真はエンデューロ的な状況でマクれてしまったところを堪えている様子だが、舗装路の上でマクれてしまうと一瞬で転倒することになる。

 

『ウイリーコントロール』のここがスゴイ!

フロントタイヤの浮き上がりを感知して出力を抑制

トラクションコントロールが“スロットルの開けすぎによるリヤタイヤのスリップを防ぐ”電子制御だとしたら、『ウイリーコントロール』は“スロットルの開けすぎによるフロントアップを防ぐ”電子制御である。

すごいのは最新のIMU電子制御スロットルを搭載したモデルであれば、フロントタイヤの上がり方や上がっている時間をコントロールするような機能を搭載していたりすること。

『ウイリーコントロール』を搭載したロードバイクの場合、その制御の介入の仕方に各社の思想の違いが面白いように現れる。例えば、“絶対に浮かさず加速させる”なんて制御をする場合もあれば、フロントタイヤを体感的に5〜10cmくらいのフロントアップまで許容して加速をするような制御を行なうメーカーもある。まただいたいのモデルは制御レベルの変更が可能で、制御レベルを下げるとマクれないまでもある程度のフロントアップを許容したり、ある程度の高さに達すると“○秒キープしてフロントタイヤを落とす”……というようなことができるようになっている。

6軸IMUを2019年のモデルチェンジで備えたホンダのCRF1100Lアフリカツイン

IMUを搭載したバイクは、常に車体の姿勢や加速度の変化をセンシングしている。車体の傾き具合やその動きの加速度、前輪と後輪の車速差などからフロントアップの発生を検知するのだ。

 

オフロード走行用の『ウイリーコントロール』もある

CRF1100L アフリカツインの『ウイリーコントロール』

ホンダ・CRF1100L アフリカツインの『ウイリーコントロール』は3段階でレベル設定が可能。

 

飛んだり跳ねたり、スライドしたりと、3次元的な動きをするオフロードバイクやアドベンチャーモデルの中にも『ウイリーコントロール』が搭載するモデルがある。上のイラストはホンダのCRF1100L アフリカツインの『ウイリーコントロール』のイメージ図。1〜3段階で制御レベルが設定でき、フロントタイヤの持ち上がり具合を制御する。実際に乗ってスロットルをガバ開けしてみた印象もこのイメージ図どおりといった感じ。レベル3にするとどんなにスロットルをガバ開けしてもフロントタイヤがほとんど上がらなくなる。ツーリング先などで少々荒れた道を走るような場合にもスロットルの操作にナーバスにならなくていいので、運転が非常に楽になる。

ただ逆に困るのはジャンプしたいような場面。オフロードでのジャンプはリヤタイヤの方から着地した方がタイムロスにはなるものの、大きな安心感がある。特に重量級のアドベンチャーバイクなら尚更で、フロントタイヤから着地するのは前転しそうな雰囲気があって非常に怖いものだ。さて、そんな状況を踏まえて『ウイリーコントロール』をオンにした状態でジャンプするとどうなるか?

当然、ジャンプの踏み切りで『ウイリーコントロール』はフロントタイヤを下そうとするような制御を行う。フロントタイヤが地面から離れそうになるとエンジン出力を抑えるようなような制御介入を行うのだ。たとえ『ウイリーコントロール』が介入したとしても完全にジャンプしないような制御を行ってくれるのであれば問題ないのだが、いくら電子制御が進化したとはいえ“すでに発生してしまった慣性力”には逆らえない。踏み切りまでの進入速度が速ければ、『ウイリーコントロール』のおかげでフロントタイヤが若干前下がりになった状態で跳び出すことになってしまう。

安全第一のペースで走るのであれば『ウイリーコントロール』は効果的に働いてくれる反面、ジャンプを行うようなスポーツ走行の域では『ウイリーコントロール』を切っておいた方がいい場合もあるということを覚えておこう。

 

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