バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。『電子制御サスペンション』徹底解説の3回目で進化目覚ましいセミアクティブタイプの電子制御サスペンションの効用を“減衰力調整”に絞って見ていこう。
リアルタイムで減衰力が調整できればこんなことができる!
前回のこのコーナーでは“セミアクティブタイプ”の電子制御サスペンションの仕組みとその効用を説明させていただいた。1/1000秒毎、1/1000mm単位……ほぼリアルタイムで減衰力調整が行えるようになった電子制御サスペンションがつまり、“セミアクティブタイプ”というわけである。さてこのセミアクティブタイプの電子制御サスペンションが、6軸IMUなどの先進機器と組み合わさるとどんなことができるようになるのだろうか?
①セッティングで大きくキャラクターが変化させられる
まず即応型のセミアクティブサスペンションが登場したことによって、サスペンションの物理的なストローク量がそれほど多くは必要なくなった。というのもタイヤを路面に押し付けてグリップを稼ぐサスペンションの仕事の中で一番あってはならないことは底突き、つまりはストロークを使い切ってしまうことだ。セミアクティブサスペンションなら、入力……つまりは衝撃や負荷の大きさに応じて減衰力を変えることが可能。普段は減衰力が低めのよく動くソフトな乗り心地でありながら、急ブレーキや大きなバンプなどからの強い入力があった場合に瞬間的に減衰力を高めて底突きを防ぐ、なんてことが可能になったのだ。
おかげでそれほど大きなサスペンションストロークを確保しなくても、よく動くソフトな乗り心地が作り出せ、急激に負荷が増大したような場合には瞬間的に減衰力を高めるなんて対応もできるようになった。これら減衰力の調整は厳密には、車速やストローク速度の変化など状況に応じてきめ細かく行っているが、物理的に同じ量のストローク量ながら、ソフトな乗り心地から、ハードでスポーティなキャラクターのセッティングまで1本のサスペンションで幅広く対応できるようになったのは、セミアクティブ化の恩恵である。
ソフトなオフロード走行用のセッティングから、減衰力高めのロードスポーツ的なセッティングがまで幅広いキャラクターを両立させることができるようになったというわけである。近年のセミアクティブタイプの電子制御サスペンションはこのキャラ変が顕著で、セッティングを変えるとまるでバイクを乗り換えたような錯覚に陥る。
②スカイフック制御
バイクに限らず、車や電車など地上を走る全ての乗り物における理想のサスペンション理論に“スカイフック”という考え方がある。“乗り心地”という乗客観点から言えば全く揺れない乗り物のサスペンションが最上である……という考え方で、あたかも空中に吊るされているかのようなスムーズな乗り心地から“スカイフックサスペンション”とか“スカイフック制御”とか呼ばれる。全てのサスペンションを協調制御し、ピッチングもロールも“極力”起こさないようリアルタイムで減衰力調整を実施、乗り物の姿勢を安定させている。
バイクの場合、サスペンションは前後輪の2つしか搭載していないので、前後のピッチングモーションを極力減らすということになるが、他の乗り物と違ってバイクはちょっと『スカイフック』化するのが難しい。というのもバイクは乗り手が積極的に操る乗り物。“乗り心地”はもちろんなのだが、“操りやすさ”も重要になってくるからだ。
バイクの運転はタイヤがどれくらい路面にグリップしているか? を敏感に感じてそれに応じた加速や制動を行うところがある。誰でも晴れの日のドライ路面と、雨の日のウエット路面、また滑りやすいジャリの上では走り方を変えると思う。これはライダーが路面の滑りやすさの違いを敏感に感じ取っているからで、“危うい路面では滑らないように走らせている”というわけだ。ドライ路面でスポーツ走行するような場合も一緒で、ライダーは路面温度によるグリップ力の変化やタイヤの温まり具合などを敏感に感じ取り、滑らない自信があるから、スロットルを開けられるし、強いブレーキングがかけられる。
そんなところへ乗り心地重視のスカイフック制御を入れてしまうと、ライダーにとって重要な接地感の変化までもスカイフック制御で消してしまうという弊害が起こる。このためバイク用のスカイフックには、“どれだけタイヤを路面に押し付けているか?”の接地感を消さないような制御を組み込むのが近年のトレンド。日立アステモ SHOWA EERA®︎のスカイフック制御はもちろん、KYBの電子制御サスペンションには“グランドフック”などといったわかりやすい表現で“接地感のあるスカイフック制御”が技術化されていたりする。
③ジャンプ着地制御
ジャンプの着地ではサスペンションに大きな負担がかかる。200kg超えは当たり前の重量級のアドベンチャーバイクなら尚更底突きを誘発しやすくなる。だが、このジャンプ着地制御を搭載した電子制御サスペンションならそうはならない。搭載した6軸IMUがジャンプによる浮遊(0G状態)を検知すると、サスペンションの減衰力を高めて高負荷なジャンプの着地に備える。おかげでストローク量が少なめのバイクであっても着地で底突きしなくなるというわけだ。
この制御は、ホンダのCRF1100L Africa Twin ADVENTURE SPORTSの“ES”モデルに搭載されており、制御有りと制御無しを乗り比べてみると、ジャンプ着地制御を入れた方が着地時の安定感が抜群に高く、サスペンションの揺り戻しが少ない。少なくともストローク量以上の仕事をしていることはしっかりと感じられる。
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④仮想バネレート変更
本来、物理的にスプリング本体を交換しない限りサスペンションのバネレートは変更できない……のだが、サスペンションストロークに応じて減衰力の変化具合を調整することで、あたかもバネレートを変更したかのような反力の変化特性を疑似的に作り出すことが可能。
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