バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はバイクの車体サスペンションの用語『減衰力調整機構』の2回目。実際の効用や調整の初歩的なコツをご紹介!

『減衰力調整機構』はどういじる?

『減衰力調整機構』の基本的な仕組みに関しては前回説明させてもらったけど、軽くおさらいしておくと、フロントフォークやリヤショックの内部には、オイルが封入されており、その中をピストン状のパーツがサスペンションの動きに伴ってスライドする。オイルで抵抗を発生させてスプリングの動きを“ほどよく抑制”するのが、減衰力装置、ダンパーの役割だった。

リヤショックの内部構造

バイクのサスペンションユニット(リヤショック)の内部にはオイルが封入されている。イラストはリヤショックの内部構造図。スプリングが伸びる方向の動きが伸び側(TEN)で、圧側が(COMP)。流路(オリフィス)にワンウェイリードバルブを設けて抵抗とし、オイルの流れる量をコントロール。これが減衰力を発生させる仕組みだ。

 

さてバイクの中には、この減衰力機構に調整機構が付いている場合がある。オリフィスを通るオイルの流量をコントロールすることで減衰力の発生具合が変化し、サスペンションの動きをスムーズにしたり遅くして硬さを出したりできる。わざわざバイクメーカーが調整機構を付けているってことは“必要なら調整してくださいね”ってことなのだが、なんでそんな調整を行う必要があるのだろう?

『減衰力調整機構』のここがスゴイ!

サスペンションの“おいしいところ”を速度レンジや走り方にアジャスト

サスペンションの動き幅、つまりストローク量は有限だ。ロードスポーツモデルならフロントで100㎜前後、アドベンチャーバイクで200㎜前後、最もストロークを必要とするオフロードバイクで250㎜前後。もし、このストローク量が無限にあって、どんな速度からハードブレーキングしても、また路面からどんなに大きな衝撃を受けてもそれを受け流して路面にタイヤを押し付け続けられる能力があれば、減衰力の“調整機構”など必要ないのだが実際にはそうはいかない。

減衰力調整機構の仕組み

ストロークを増やせば走行性能的には有利になるが、そのぶん足着き性が悪くなったり、フロントフォークの剛性不足が起きたりする。写真はVストローム800DEのストリップモデルで、フロントフォークのストローク量は220㎜、リヤのホイールトラベルは212㎜を確保している。

 

バイクは、短いストローク量の中でなんとかやりくりして路面からの衝撃を吸収したり、ブレーキング時のノーズダイブを受け流さなければならない。そんな状況でサスペンションのストロークを使い切ってしまうことを“底突き”なんて言ったりするけど、オフロード走行などでこの“底突き”を起こすとフレームなどの車体部分に破損や曲がりなどを誘発するくらいのものすごい負担がかかる。

速度レンジの高く繊細な走りが求められるサーキット走行などで“底突き”を起こしてサスペンションの機能を破綻させることは、即転倒に直結する危険な行為だ。考えてみよう、タイヤを地面に押し付けてグリップを稼いでいたサスペンションが“底突き”を起こすことは、つまりタイヤのグリップを失うということである。まぁ、このレベルの破綻具合だと『減衰力調整機構』以前の問題でプリロード調整はもちろん、スプリングのバネレート変更まで行う必要がありそうだが……。

さて、そんな危険な“底突き”とはいかないまでも、ストロークを使い切る寸前には急激にスプリングの反力が上がる。リンク付きのリヤショックなどはその反力の立ち上がり具合がものすごく顕著だったりする。そんな急激な反力の立ち上がりをライダーが感じてしまうと、限界が近いと感じ、それ以上の攻めた走りはできなくなる。そんな場合に必要となるのが『減衰力調整機構』なのだ。

減衰力調整機構の仕組み

『減衰力調整機構』のなかには、工具を使わずにダイヤルで簡単に調整できるモデルもある。写真はカワサキ・ZRX1200ダエグのリヤショック。

 

例えば、街乗りのような速度レンジの低い環境下で乗り心地の良くコンフォートなサスペンションにセッティングされたバイクが、サーキット走行など速度レンジが高くブレーキング時のサスペンションへの負荷がものすごく強くなるような走行を行う場合には、『減衰力調整機構』のCOMP(圧)側をハード方向に調整する必要がある。

こうするとオリフィスが狭まり、オイルの流路抵抗が増えてサスペンションの動きがゆっくりに(硬く)なる。おかげでコーナリング侵入時のノーズダイブ……、つまりスロットルオフによるピッチングモーションでストロークを使い切るようなことがなくなる。ストロークに余裕を残したままブレーキング&コーナリングに移れるため、ライダーは安心してハードブレーキングが行えるからコーナーを攻め込めるというわけだ。

またオフロード走行の場合は、ジャンプの着地で底突きしたり、林道によくある水切りの溝での底突きしたりする状況から、『減衰力調整機構』のCOMP(圧)側をハード方向に調整すると底突きをうまくかわせたりする。まぁ、その対価として、街乗りなど低速域のサスペンションフィーリングがゴツゴツと乗り心地が悪くなったり、オフロードでは低速域や難路面でスリップしやすくなったりするので、どちらがいいとは一概には言えないのだが……。

この説明は、ライディングにおいて一番大事なフロントフォークのCOMP(圧)側の『減衰力調整機構』を例に説明させてもらったが、実際のバイクには前後にサスペンションがあり、しかも『減衰力調整機構』は伸側と圧側があるのでさらに色々な状況に合わせてセッティングすることになる。サスペンションセッティングとは、有限であるサスペンションストロークの “おいしいところ”を速度域による負荷や走り方に合わせて“うまく使えるように調整する”行為というわけだ。

ちなみに最近、高級なスポーツバイクへの搭載が進んでいる電子制御サスペンションでは、電動調整式のプリロード調整に加え、『減衰力調整機構』も電子制御化されており、走行状況(負荷のかかり具合)に合わせた減衰力調整をリアルタイムで行うようになっている。

減衰力調整機構の仕組み

リヤショックのなかには、“リザーバータンク”と呼ばれるサスペンションオイルの補助タンクが付いているものもある。オイルの全体量を増やすことで摺動で発生する熱に対する容量をアップ、熱ダレを起きにくくしている。

 

 

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