バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。『電子制御サスペンション』徹底解説の4回目では、セミアクティブタイプの電子制御サスペンションの効用を“プリロード調整”関連の機能に絞って見ていこう。
前回解説した、ソレノイドバルブの小型化で実現した即応式の減衰力調整とは違い、『電子制御サスペンション』におけるプリロード調整はちょっと大がかりだ。プリロード調整とは、サスペンションのスプリングを締め込んで縮めたり、緩めたりといった作業を行うための大きな動力がいる。このためサスペンションユニットとは別にDCモーターや油圧ピストンを内蔵したシリンダー状の大きなパーツ、油圧ポンプが必要になるのだ。

金色の筒状のパーツがプリロード調整のための油圧ポンプ。写真はスズキ初の電子制御サスペンション搭載モデル GSX-S1000GX。

同じくGSX-S1000GXのサスペンションの内部構造図。左の油圧ポンプの内部では、DCモーターでオイルに圧力をかけて、その油圧でサスペンションユニットに内蔵されたアクチュエーターがスプリングの縮め具合を調整する。
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プリロード調整を自動で行うオートレベリング
セミアクティブタイプの電子制御サスペンションも、構造自体は『電子制御サスペンション』1回目で説明した電動調整式プリロード調整機構とほぼ変わらないのだが、IMUやストロークセンサーを使った制御技術、パーツ間の大容量通信機構が発達したことで登場したのがこのオートレベリングだ。
その機能は名前の通り、オートレベリング……つまり“自動で水平を保持する”というもの。この制御をアクティブにしておくと、ツーリングの途中でタンデマーをピックアップしたり、出先で大きな荷物を積むような場合に、いちいちプリロード調整を行う必要がない。
このオートレベリングの仕組みの肝となるのは前後サスペンションに内蔵されたストロークセンサー。このストロークセンサーが、電源がオンになった瞬間から前後のピッチング具合を監視している。積載などにより、走行中の前後サスペンションのストローク量が基準値からズレるとリヤショックのプリロードを調整して、基準値に収まるようなバランス取りをする。厳密には水平(レベル)をとっているわけではなく、全自動のサグ出し機能と思って間違いない。
最近、筆者が試乗したスズキ初の電子制御サスペンション搭載モデルGSX-S1000GXには、「ソロ」、「ソロ+荷物」、「タンデム」のプリセットモードに加え、この「オートレベリング」機能を搭載。実際に使ってみた印象としては、ツーリングやタンデム走行などのイージーライディング中はこの「オートレベリング」で十分だと感じるくらい良くできていた。ただ、ハードブレーキングやスロットルのワイドオープンを多用するようなスポーツライディングを行う際は、サスペンションセッティングにライダーによって好みの差が出るため、万人向けの「オートレベリング」ではちょっと不足が出やすくなる。
そんな場合はプリセットモードに切り替えて、細かく調整した方がより走りやすくなる印象だった。プリセットモードなら、前輪荷重を確保するために「ソロ+荷物」にしてさらに微調整なんてことも可能だからだ。

GSX-S1000GXのリヤショックのプリロード調整は、「ソロ」、「ソロ+荷物」、「タンデム」のプリセットモード、「オートレベリング(AUTO)」があり、ボタン操作で変更できるようになっている。各モードでのサスペンションのフィーリング変化も顕著だ。
停車時だけ足つき性がよくなる!? アダプティブライドハイト
プリロードとは“どれだけスプリングに負荷を予めかけておくか”ということで、つまりはスプリングの縮め具合だ。縮めれば縮めるほどスプリングは反力が増し、逆に緩めればソフトになり跨った時の沈み込み具合も大きくなる。たまに足つき性を良くするためにリヤショックのプリロードを抜いてます……なんて人もいるかもしれないが、走行バランス的にはプリロードの抜きすぎは、変な直進性が出たり、フロントの接地感が減って曲がりにくく感じたりして、あまりいいことはない。
だったら、走行中はプリロードをしっかりかけて適正な姿勢を保ち、停車中だけプリロードを抜けたら足つき性がよくなっていいんじゃない? なんて発想を形にしてしまったのがアダプティブライドハイトだ。走行時と停車時でプリロードのかけ具合を変え、停車時には足つき性が良くなって安心という、夢のようなシステムである。
実はもうすでに実用化されており、2014年2月現在、ハーレーダビッドソンのパンアメリカ1250スペシャルや、トライアンフのタイガー1200シリーズ、BMWのR1300GSに搭載されている。
HARLEY-DAVIDSON PAN AMERICA1250Special
世界初のアダプティブライドハイト搭載車となったのは、ハーレーダビッドソン初のアドベンチャーモデルであるパンアメリカ1250の上級仕様“スペシャル”。アドベンチャーバイクとしてのオフロード性能と良足つき性を両立させるために前後のサスペンションにこの機能を搭載し、走行時と停車時のシート高の違いは40mm以上もある。

左が高い状態で右が低くなった状態。172cm/75kgの筆者だと、停車時のシート高830㎜時には踵がギリギリ付かないくらいと足つき性がよく安心感たっぷり。逆にサスペンションが伸び切った状態の足つき性は、3、4cm踵が浮く感じ。足つき性を気にするライダーにとってこの差はかなり大きいだろう。

アダプティブライドハイトの動作設定は4段階。停止寸前にシートが下がる“オート(自動)”、停止後0.5秒後に下がる“ショートディレイ(短い遅延を伴う自動)”。停止後2秒後に下がる“ロングディレイ(長い遅延を伴う自動)”。また停止後も車高を高くしたまま維持する“車高でロック”もある。
TRIUMPH TIGER1200GT/RALLY
トライアンフのアドベンチャーモデルフラッグシップモデル、タイガー1200GT/ラリーも2023年からアダプティブライドハイト(トライアンフでの名称はアクティブ プリロード リダクション)に対応している。
残念ながら筆者はまだトライアンフの車高調整対応モデルに試乗したことがないのだが、パンアメリカとは違い車高を調整するのはリヤショックのみとのこと。またリリースによれば、「新しいアクティブ プリロード リダクション機能は、Tiger1200 が時速 65km/h 以下ではリアサスペンションのプリロー ドを低減し、停車時ではシート高が最大 20mm下がります。この機能は、時速 65km/h 以下でスイッチキューブにある【Home】ボタンを 1 秒間押すだけでオン/オフが可能 」とのこと。
ちなみに2021年モデル以降のShowa製セミアクティブサスペンションを搭載したタイガー1200シリーズであれば、ディーラーでのアップデートでこのアダプティブライドハイトの機能が使えるようになるということだ。
BMW R1300GS Touring
2021年にハーレーダビッドソンのパンアメリカが先鞭を付けたアダプティブライドハイトだが、BMWがR1300GSツーリングで採用したアダプティブライドハイト(BMWでの名称はダイナミック・サスペンション・アジャストメント、略称DSA)は、さらに機能が進んでいる。
パンアメリカ1250スペシャルが採用したアダプティブライドハイトは、走行時のピッチングモーションを使ってサスペンションのプリロードをかけていくような仕組み。つまりユニットのコンパクト化&軽量化を優先するような構造で走行してサスペンションを動かさないと車高を上げることができない。ところがBMWのR1300GSは、油圧ポンプを前後のサスペンションユニットにつなげたことで、停車していても車高の上げ下げ調整が可能になっている。

停車中にも車高の上げ下げが可能になったのは、リヤショックとフロントショックの構造が似ているBMW独自のサスペンション構造によるところも大きい。前後のサスペンションユニットと後部の油圧ポンプが油圧ライン(黄色)で繋がっている。また電源オンの状態でセンタースタンドをかけようとすると、電子制御サスペンションが伸びてセンタースタンドがけを助けるようなリフトアップサポートシステムも搭載している。
BMWのR1300GSツーリングのアダプティブライドハイトは、ライディングモードの切り替えとアダプティブライドハイトの設定が連動しており、舗装路用の走行モードでは自動で車高調整が上下する「AUTO」で停車中は車高が下がるように、また、最低地上高がとにかく欲しいオフロード系の走行モードでは、モード切り替えを行った時点で車高がアップ(もしくは低いままでロック)させられるようになっている。サスペンションの良し悪しが走破性に大きく影響するオフロード走行では、モードを切り替えた瞬間にサスペンションが伸びるので、変なところで車高が下がって“亀になる”こともない。
実際これらアダプティブライドハイト搭載車両に乗って思うのは、意外と走行フィーリングも自然で、変に曲がりにくくなったりすることがないということ、これで停車時は足つき性がよくなって安心できるのだから、非常に便利な機能だ。
↑のヤングマシンの動画は、SHOWAが2020年に開催した最新サスペンションの試乗会の様子。アフリカツインをベースに「アダプティブライドハイト」や「スカイフック制御」、「ジャンプ制御」など搭載したスペシャルマシンを実走。当時はまだ「オートレベリング」は開発中の技術だった。
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