バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説.していくこのコーナー。今回は、ギヤチェンジを自動化して運転を簡便化する『オートマチック変速機構』の第2回目。ホンダ二輪におけるATの代名詞となっている『DCT(ディー・シー・ティー)』について詳しく見ていこう。

そもそも『DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)』とは?

Dual Clutch Transmission、略して『DCT』であるが、名前がそのまんま“デュアル(2重)”の“クラッチ”を持った“トランスミッション”という機構の特徴を表している。前回このコーナーではベルトで無段階的な変速を行うCVTを紹介したが、近年のオートマチック変速機構のトレンドは既存技術のCVTではなく、“ギヤ付きのエンジンをオートマチック化”に注目が集まっている。

VFR1200F Dual Clutch Transmissionのクラッチ&トランスミッション部分の構造断面図。赤く塗られているところが1-3-5速に関係するパーツで青く塗られている部分が2-4-6速で使うクラッチやギヤ。2重構造になっているメインシャフト(インナーメインシャフト&アウターメインシャフト)が構造的なキーテクノロジーだ。

VFR1200F Dual Clutch Transmissionのクラッチ&トランスミッション部分の構造断面図。赤く塗られているところが1-3-5速に関係するパーツで青く塗られている部分が2-4-6速で使うクラッチやギヤ……と2組(デュアル)のクラッチを使っているのがわかる。

 

ホンダはこの“ギヤ付きのエンジンをオートマチック化”の先駆けであり、2009年に『DCT』の技術発表を行い、2010年モデルのVFR1200F Dual Clutch Transmissionで実用化。以来『DCT』を15年以上の歳月をかけて熟成させており、“『DCT』といえばホンダ”というくらいの強いイメージが出来上がっている。

2010年・VFR1200F Dual Clutch Transmission。ホンダ車の中で初めて『DCT』を採用。2014年にはバリエーションモデルにクロスオーバーコンセプトのVFR1200X Dual Clutch Transmissionも登場。

2010年・VFR1200F Dual Clutch Transmission。ホンダ車で初めて『DCT』を採用。2014年にはバリエーションモデルにクロスオーバーコンセプトのVFR1200X Dual Clutch Transmissionも登場。現在では、ロードスポーツモデルはもちろん、アドベンチャーバイクやクルーザーモデルまで幅広いジャンルのモデルに『DCT』が搭載されている。

 

機構的な『DCT』の特徴は、前述のとおり2組(デュアル)のクラッチがあることに間違いない。では、クラッチが2組あることで何ができるのか? これが実はとても話が単純。ギヤをあらかじめ組み替えておいてからクラッチでつなぐ……という作業を2組のクラッチを使って交互に繰り返すことでギヤ付きのエンジンをオートマチック化しているのだ。

いち早くオートマチック化が進んだクルマの世界では『DCT』は既に一般的な技術となっているが、バイクの分野ではホンダが『DCT』の先駆者であり、2025年現在、唯一『DCT』を採用するメーカーとなっている。

『DCT』のなにがすごいの?

ギヤ付きエンジンのスポーティな走りがオートマチックで楽しめる!

そもそもとして、スクーターなどに用いられる一般的なCVT式のオートマチック変速機構はどうしても乗り味がマイルドで、快適・便利・イージーといったキーワードが似合う乗り物になってしまいがち。一方、『DCT』をはじめとするギヤ付きエンジンをAT化する技術は、そのスポーティな特性を活かしたままなんとかオートマチック化できないか? と開発された技術である。

なので最大の特徴は、“運転が楽なオートマチック変速機構でありながらエンジンフィーリングがスポーティで楽しい”というところにある。これは今回紹介する『DCT』に関わらず、ギヤ付きエンジンをAT化した全てのオートマチック変速機構に言える特徴だ。

ギヤ付きのエンジンをオートマチック化すれば、スポーティなエンジンの特性を活かしたまAT化が可能というわけである。写真は2020年モデルのREBEL1100。

ギヤ付きのエンジンをオートマチック化すれば、スポーティなエンジンの特性を活かしたままAT化が可能というわけ。写真は2020年モデルのREBEL1100 Dual Clutch Transmission。

 

クラッチが2つあることでシフトショックがほぼない

2025年現在、ホンダの『DCT』に加え、ヤマハの「Y-AMT」BMWの「ASA」など、各社がギヤ付きのエンジンをオートマチック化に取り組んでいるが、『DCT』ならではのストロングポイントは、他のオートマチック変速機構とは比較にならないシフトショックの少なさ……、というか“ほぼない”とい言っていいほどスムーズなシフトチェンジにある。

他のオートマチック変速機構は多かれ少なかれギヤチェンジ時にシフトショックは出るものだが、『DCT』に関しては、“クラッチを2つ使いあらかじめギヤを組み替えておく”という仕組みのため、そもそもとしてシフトショックの出ようがない。シフトショックがないということは、それだけ走りがスムーズで快適になるわけだが、このシフトショックがないことによるメリットは単なる快適さだけにとどまらない。

というのも、普通のバイクでギヤチェンジすると“クラッチレバーで駆動をカットしてギヤを組み替える”時にどうしてもエンジンからの駆動が切れる瞬間が生まれてしまい車体が前後に揺れるピッチングモーションを起こす。これはクイックシフターだろうと、『DCT』以外のギヤ付きエンジンをAT化する機構でも同じ。タイヤを路面に押し付けていた力が駆動抜けによって抜けてしまい、サスペンションが伸びて車体が不安定化するのだ。

ところが『DCT』は、加減速時にいっさい駆動切れが起こらないためピッチングモーションによるバイクの姿勢変化がほぼなく、車体が安定し続ける。おかげで『DCT』を搭載したモデルで峠道を走ると路面を滑空するようなスムーズな乗り味が楽しめる。

『DCT』のデメリットは重さ。エンジンの構成パーツの中でも重たいクラッチ機構を2つ備えるため、『DCT』装備車は非搭載車に比べて10kgほど重くなる。このためホンダでは比較的パワーに余裕のある大型車に搭載している。

逆に『DCT』のデメリットはというとその重さ。エンジンの構成パーツの中でも重たい部品であるクラッチが2組必要になるため、『DCT』装備車は非搭載車に比べて10kgほど重くなる。このためホンダでは比較的パワーに余裕のある大排気量車に『DCT』搭載している。

 

他の電子制御デバイスとの組み合わせでさらに進化する『DCT』

第一世代の『DCT』を搭載した2014年発売のVFR1200X Dual Clutch Transmission。オートマチック変速ではあったが、スポーティな走りを行おうとすると変速タイミングが意にそぐわないことも多かった。

第一世代の『DCT』を搭載した2014年発売のVFR1200X Dual Clutch Transmission。確かにオートマチック変速ではあったが、第二世代で可能になったオーバーライド機能もなく、スポーティな走りをしようとすると変速タイミングが意にそぐわないことが多かった。より運転がシビアになるオフロード走行すると特にその傾向を顕著に感じた。

 

2010年にVFR1200F Dual Clutch Transmissionで登場した『DCT』であるが、この15年の歳月で相当技術が進化したと感じる。『DCT』機構そのもののコンパクト化などは当たり前として、ライダーの操作に対して“どうギヤチェンジを行うか?”という制御のソフト面が著しく進化したと感じる。

というのも、登場時の『DCT』は確かに車速が上がると自動でシフトアップしたものの、そのシフトスケジュールは車速やエンジン回転数で決まっており、峠道などをちょっとスポーティに走ろうとすると、“ちょっとタイミングが違うんだよなぁ!”とシフトスケジュールに違和感を感じることが多かった。シフトダウンはもちろんシフトアップでもライダー側の操る気持ちと削ぐわないタイミングでシフトチェンジしてしまうことが第一世代、第二世代の『DCT』には多かった。

『DCT』の第二世代では、クラッチのレイアウトなどを変更することによってユニットをコンパクト化。同時にATモード中でも任意のタイミングで手元のスイッチを操作すればライダーの意思によるシフトチェンジのオーバーライドが可能になった。写真は2012年モデルのNC700X DCT(現在のNC750X DCT)。

『DCT』の第二世代では、クラッチのレイアウトなどを変更することによってユニットをコンパクト化。同時にATモード中でも任意のタイミングで手元のスイッチを操作すればライダーの意思によるシフトチェンジのオーバーライドが可能になった。写真は2012年モデルのNC700X DCT(現在のNC750X DCT)。

 

第三世代は電子制御スロットルを得てシフトスケジュールが進化

2018年に17年ぶりのフルモデルチェンジが行われたゴールドウイングはなんと7速でリバースモードも搭載。『DCT』的には電子制御スロットルを組み合わせた第三世代となる。

2018年に17年ぶりのフルモデルチェンジが行われたゴールドウイングはなんと7段変速でリバースモードも搭載。『DCT』仕様には電子制御スロットルを組み合わせた第三世代が採用された。

 

電子制御スロットルと『DCT』が組み合わさった第三世代。変速時のクラッチ制御と電子制御スロットルによる出力制御が協調することでさらに変速ショックが低減されるとともに変速時間の短縮化に成功。ライディングモード別に設定されている『DCT』のシフトスケジュールも非常にキャラクター豊かになった。

2020年に登場したRebel 1100 Dual Clutch Transmissionのシフトスケジュール表。「SPORT」、「STANDARD」、「RAIN」の3種類でそれぞれシフトスケジュールが異なる。

2020年に登場したRebel 1100 Dual Clutch Transmissionのシフトスケジュール表。「SPORT」、「STANDARD」、「RAIN」の3種類でモードのキャラクターに合わせた異なるシフトスケジュールが組まれているのがわかる。

アフリカツインとしては2016年モデルから『DCT』仕様がラインナップしていたものの、電子制御スロットルを得た2018年モデルではよりスポーティな走りに対応するような『DCT』変速制御に進化。電子制御スロットルによるトラクションコントロールシステムの劇的進化と合わせたオートマチックモデルとは思えないオフロード走行が行えるようになった。写真は2018年・CRF1000L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmissionに乗る筆者。

アフリカツインとしては2016年モデルから『DCT』仕様がラインナップしていたものの、電子制御スロットルを得た2018年モデルではよりスポーティな走りに対応するような『DCT』シフトスケジュールに進化。電子制御スロットルによるトラクションコントロールシステムの劇的進化と合わせオートマチックモデルとは思えない高度なオフロード走行が行えるようになった。写真は2018年・CRF1000L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmission。

 

6軸IMUがシフトスケジュールを走行状況合わせて変更!

2025年現在、ホンダ『DCT』の最先端にあるのが、電子制御スロットルに加え6軸IMUのデータを制御に使う『DCT』である。モデルで言えば2019年モデル以降のCRF1100L アフリカツインの『DCT』仕様、2025モデル以降のNT1100に最新の『DCT』が搭載されている。

2019年モデルのCRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmission。

2019年モデルのCRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch Transmission。ホンダの中で最も進んだ『DCT』を搭載する一台だ。

 

車体の姿勢や加速度をセンシングして制御に活かす6軸IMUを搭載したことで、車速や減速具合はもちろん、コーナリングや上り坂・下り坂かどうかもバイクが判断できるようになり、『DCT』のシフトスケジュールが走行状況に合わせて細かく変更できるようになったのだ。

NT1100は2025年モデルから6軸IMUを搭載。よりスポーティな走りに対応する『DCT』シフトスケジュールを得た。

NT1100は2025年モデルから6軸IMUを搭載し、アフリカツイン同様最も進んだ『DCT』を得た。よりスポーティな走りに対応する『DCT』シフトスケジュールを得たことで、旅の楽さはもちろんだが、ワインディングでより遊びやすくなった。流石に突き詰めたスポーツ走行を行う場合には手動によるシフトダウンを使ってコーナーに進入したくなるが、それ以外はほぼ『DCT』任せで走ってストレスを感じない。

 

つまり平坦路と上り坂、下り坂でそれぞれ最適なシフトアップ&ダウンをチョイス。しかもスロットルの開け具合やブレーキのかけ具合から“スポーティに走りたいのか?”、“のんびりクルージングしているのか?”をバイクが判断してシフトスケジュールを変更しているというわけ。つまりよりライダーの気持ちに寄り添ったシフトチェンジをしてくれる。実際に走ってみるとこのシフトスケジュールがかなり気持ちよく、“そうっ! このタイミング!!”と誉めたくなるほど。特にブレーキによる減速具合の強弱でシフトダウンタイミングを変えてくるあたりの制御は感動ものだ。

年々進化する『DCT』の制御具合は試乗するたびに驚かされるが、15年前から歴代『DCT』モデルに試乗している筆者としては、電子制御スロットルと6軸IMUの得た『DCT』の登場よって、オートマチック変速機構としてほぼ完成域に達したと感じる。

 

 

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