バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし……。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、バイクの『オートマチック変速機構』の第1回目。黎明期から現代のスクーターなどにもよく使われるCVTまでの『オートマチック変速機構』を見ていこう!
そもそも『オートマチック変速機構』とは?
ATとかオートマなどとも呼ばれるが、正確には『オートマチック変速機構』で英語で書けばAutomatic Transmission。ATとはこのオートマチック・トランスミッションの略というわけだ。
バイクに使われるレシプロエンジンは、ピストンが上下を繰り返すという機構上の制約から、安定して力を出せる常用回転域は下は1000rpm(アイドリング)程度から上は15000rpm(レッドゾーン)くらい。最も高回転化がはかれるDOHCの多気筒エンジンだとしてもせいぜいレッドゾーンは20000rpmほどであり、使えるトルクが取り出せる回転数のレンジが狭い。このためトランスミッション(変速機構)を設けて、速度に合わせたギヤチェンジをしないと0〜100km/h以上なんていうレンジの広いスピード域を持つ乗り物にはならない。この辺りは自転車における“ギヤ付き”と“ギヤなし”の違いと一緒。坂道やトップスピードにおける“ギヤ付き”自転車の使い勝手を思い返せばトランスミッションの有用性は安易に想像できることだろう。
ただ、このギヤチェンジの操作はバイクを操るうえでの醍醐味であると同時に運転操作を難しくしている原因でもあり、昔からバイクメーカーは『オートマチック変速機構』に積極的に取り組んできた。

近年、各社が力を入れるオートマチック技術。ヤマハは変速機を備えたギヤ付きエンジンをオートマチック化する「Y-AMT」機構を2024年に実用化。MT-09シリーズやMT-07シリーズ、トレーサー9GTシリーズなどに搭載している。
クルマの分野ではもはやギヤ付きのMTモデルよりAT車モデルの方が普及が進んでいるくらいであるが、バイクの分野では2024年になってヤマハの「Y-AMT」や、BMWのR1300GSの「ASA」など、各社が急にギヤ付きエンジンのATモデルをリリースしはじめた感じがある。
『オートマチック変速機構』のなにがすごいの?
兎にも角にも、変速をバイク任せにできてライダーがギヤチェンジ操作を行わなくていいということが最大の利点だ。なので『オートマチック変速機構』搭載車両には、クラッチを操作するクラッチレバーもなければ、ギヤチェンジのためのシフトペダルもない。ライダーは、ギヤチェンジがないぶん、スロットル操作やハンドル操作に集中できて運転がよりイージーになるというわけ。このため『オートマチック変速機構』はスポーツ性の高さを追求するバイクではなく、スクーターに代表されるような、どちらかというとイージーさや快適性を求めるようなバイクに搭載される傾向にある。
また免許制度的にも区別されている。バイクに乗るための自動二輪免許の種類には、いわゆるMT免許とAT限定免許があり、『オートマチック変速機構』を備えるバイクはAT限定免許での運転が可能となっている。

2025年・ヤマハ NMAX155。かつてビッグスクーターブーム時に各社が力を入れた“CVTでありながらMT車のような変速フィーリングを再現した”電子制御CVTが、2025年モデルのNMAX155で復活!! 基本となる『オートマチック変速機構』がCVTであることに変わりはないが、任意のタイミングでボタンを押すとまるでシフトダウンをするかのように変速設定が変化する。
『オートマチック変速機構』の歴史 黎明期〜CVTまで
トルクコンバーター

4輪用のホンダマチック(トルクコンバーター)の構造図。バイクではホンダのエアラ、HAWK CB400Tなどがこのトルクコンバーターによる『オートマチック変速機構』を採用。このほかスクーター黎明期にもトルクコンバーターが利用されたが、現在のバイクでこのタイプの『オートマチック変速機構』を使うモデルはない。
トルクコンバーター(Torque Converter)は流体力学を応用した変速機で“トルコン”などとも呼ばれる。その仕組みをざっくり説明するなら、2台の扇風機を用意して互いに向かい合わせる。一方の扇風機を作動させると、もう一方の扇風機も風を受けて回り始める。この原理を“エンジンの力でポンプを回し、オイルを媒介として動力伝達する方式”に置き換えたものがトルクコンバーター。エンジンの回転力をポンプでオイルの流れに変換し、タービンで再び回転力として取り出すというわけである。力の伝達に流体を使用しているためクラッチ効果もあり滑らかな発進が可能。また発進時など、特に強い力が必要な場合は、2枚のプロペラ(ポンプとタービン)の間にあるステーターと呼ばれる装置が、オイルの流れの速さを変えることで変速装置としての役割も果たす。

1977年・ホンダ EARA。CB750FOUR系の4気筒エンジンにホンダマチック自動変速機と名付けられたトルクコンバーター組み合わせている。エアラの名前は英語のERA(時代)と、AutomaticのAを組み合わせており、Expands the Automatic Riding Age(オートマチック時代を開く)の意味が込められた。
油圧機械式無段変速機

2008年に登場したDN-01に搭載された油圧機械式無段変速機のユニット。
Hydraulic Mechanical Transmission。その名のとおりHydraulic(油圧)を使った『オートマチック変速機構』で、直訳すれば油圧機械式無段変速機。その構造的な特徴は内部の斜板(しゃばん)が回転力を油圧に変換すること。再度圧力を回転力に変換する際にも斜板を使い、その角度を調整することで変速比を変えている。また発進機能(クラッチ機構)、動力伝達、変速機能(ギヤ)を一つの装置に収められることで、他の自動変速機よりも大幅にユニットをコンパクト化できることも大きな特徴。残念ながら現行モデルに油圧機械式無段変速機を持ったバイクは存在しない。

1962年・ホンダ ジュノオM型。当時バダリーニ社が基本パテントを所有していたため、バダリーニ式無段変速機と命名された油圧機械式無段変速機を搭載した。
ホンダでは、1962年のジュノオM型にこの油圧機械式無段変速機を搭載。さらに2008年のDN-01で、この油圧機械式無段変速機に高速走行時の動力伝達ロスを軽減するロックアップ機能を追加したHFT(Human-Friendly Transmission)を開発している。

油圧機械式無段変速機は、①回転力を油圧に変換する斜板を備えたオイルポンプ、②油圧を制御するシリンダー、③油圧を再度斜板でで回転力として変速しながら取り出すオイルモーターの3ブロックで構成される。キモとなるのは斜板(しゃばん)と呼ばれる“ポンプピストン”と“モーターピストン”で、この板が回転力を油圧に変換したり、再び回転力に戻したりをしている。またモーターピストン側の斜板はその角度を変えられるようになっており、傾斜が強ければよりゆっくり大きな駆動力を、逆に角度を浅くすれば高回転化することで『オートマチック変速機構』としての変速を行なっている。

2008年・ホンダ DN-01。変速機は、油圧機械式無段変速機のHMT(ホンダの名称はHFT)を採用したATモデル。ユニットスイングなどの構成パーツのレイアウト上の制限やエンジン周辺パーツの肥大化など、どうしてもデザイン面で自由度が低くなってしまうベルコン式のCVT。DN-01はそんなデザイン面での自由度を求めるべく開発された、ホンダ独自の油圧機械式無段変速機HFTを採用。今までのモーターサイクルにないポジションやスタイリングが追求されている。エンジンは680ccのV型2気筒を搭載。
CVT
Continuously Variable Transmissionで、通称CVT(シー・ブイ・ティ)。直訳すれば“継続的に変化する変速機”、または連続可変トランスミッション。その名のとおり、ギヤの組み替え(有段)で変速比を変えるのではなく、ゴムベルトやスチールベルトと円盤状のプーリー使って、無段階に変速を行う。バイクにおけるCVTとはベルコン式のCVTを指しており、今も昔も多く……というかほとんどのスクーターで採用されるのがこのCVT方式の『オートマチック変速機構』だ。マイルドな加速感がその持ち味だが、その分ダイレクト感は薄くスポーティさに欠ける。

CVTのパーツは大まかにいえば、エンジンにつながるドライブ側のプーリー(図ではドライブフェイス)と、タイヤ側のドリブンプーリー、両者間にかかるベルトで構成される。プーリーの内部にはウエイトローラーと呼ばれるオモリが入っており、回転で発生する遠心力でベルトがかかるお皿状のパーツの幅が変化すると、プーリーにかかるベルトの径も変化する。このベルトがかかる前後のプーリー径が大小変化することで、無段階的な変速を行う。

2008年・アプリリア MANA GT850ABS。839ccの90°Vツインエンジンの内部にベルコンCVTを搭載したマーナ。乗ってみるとビッグスクーターと同じCVT系の『オートマチック変速機構』を持ったエンジンとは思えないぐらい俊敏な加速を見せた。車体構成は、CVTだがスークーターの多くが採用するユニットスイングではなく、スイングアーム式を採用。そのためドライブチェーンがあり、車体構成もモーターサイクルに限りなく近い。キャラクターは名前が示すとおりGT(グランツーリスモ)、つまりはツーリング志向であるものの、フロント加重を行なってスポーティに走るなんてこともお手のものだった。

2025年式のヤマハ TMAX560。ヨーロッパで大人気のメガスポーツスクーターの草分け的存在であるTMAX。一般的なスクーターと同じCVT機構の『オートマチック変速機構』を搭載しておりながら、スクーターとは一線を画すスポーティな走りがその特徴になっている。
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