バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は車体の話、ブレーキ用語の 『フローティングディスク』を解説しよう。
そもそも『フローティングディスク』とは?
ディスクブレーキのローター(ディスク)部分をみると、中心部分のインナーローターと外周部分のアウターローターが穴の空いたワッシャーのようなパーツで連結されていることがある。これが『フローティングディスク』とか、フローティングブレーキローターと呼ばれる構造だ。
“フローティング(floating)というからにはナニかが“浮いている”もしくは“離れている”というわけだけど、実はインナーローターとアウターローターの連結部分がフローティング構造になって“浮かされて”いる。
ちなみに『フローティングディスク』でも、レース向けのフルフローティング構造や、市販車の多くが採用するセミフローティング構造など、いくつかの種類がある。セミフローティングがフローティングピン内部にスプリングワッシャー(ウェーブワッシャー)を組み込むことでテンションをかけて固定しているのに対し、フルフローティング構造はこのスプリングワッシャーがなく、ローターを掴んで左右に揺すってみるとカチャカチャと音がするくらいフリーな構造になっている。
『フローティングディスク』のナニがスゴイの!?
『それだけブレーキの発熱量が多い“速い”、もしくは“重い”バイクの証拠』
……ってことだ。ディスクブレーキは摩擦抵抗で速度を落とすため、ものすごい温度まで発熱する。それこそ走行直後のブレーキディスクは触れないほど熱くなっている場合が多いのだが、このブレーキング時に発生する熱が問題なのだ。というのも、全ての物体は熱すれば多かれ少なかれ膨張するものだが、ディスクローターの素材である鉄(ステンレススチール)はその膨張率がとても大きい。
一般的なディスクブレーキ、つまり『フローティングディスク』のようにアウターローターとインナーローターに分かれてない1ピースタイプのディスクローターの場合、ブレーキパッドが挟み込む外周部は熱で大きく膨張しているのに、中心部分は温度が低く膨張していなんてことが物理的に起きやすい。大きな熱で1ピースタイプのディスクローターの外周部だけが膨張すれば、歪んだレコード(古いっ!)のように外周部が波打ち始めるというわけである。まぁ、ディスクローターは鉄なのでレコード盤ほどひどい波打ち方はしないだろうが、それでも0.1㎜ほどしかないパッドのクリアランスが狂えば、引きずりによる異常発熱を誘発しそうなことは安易に想像がつく。
かつて筆者は、熱膨張ではないが似たような状況に陥ったことがある。エンデューロレース中に転倒して運悪くフロントのディスクローターの側面を岩角にぶつけ、確認すると表面に深さは1mmにも満たないような小さなキズができていた。“まぁ大丈夫だろう”とそのまま走ってみると…、そのわずかな傷の凹凸がブレーキパッドをいつもより大きく押し戻すのだろう、ブレーキングの度にレバーを数回握り込まないとブレーキタッチが戻ってこなくて焦ったことがある。まぁ、そのキズはレースしている間に削れて平らになったようで、“レバーを握り込んでもブレーキが効かない”なんてことはなくなったが、しばらくは軽くブレーキを引きずるような操作をしたときにレバーが押し戻される感触があった。
ここまでの症状とは言わないまでも、酷い熱膨張が起きてディスクローターが歪んだ場合にブレーキタッチが変わるなんてことは安易に想像がつく。“それじゃぁ乗りにくいし、ブレーキが信用できない状況では早く走れないよね”ということでブレーキの負担が大きいスポーツバイクや重量車は『フローティングディスク』を採用。アウターローターとインナーローターに分割することで熱膨張による歪みの発生を軽減。連結部分であるフローティングピンがその緩衝となっているから、熱膨張は起っても歪みによる不具合が出にくいというわけなのだ。
近年は、一般的な丸型のフローティングピンだけでなく、T字型のフローティングピンもレーシーなスーパースポーツなどに採用されている。これはアウターローターとインナーローターが“点”で接触する丸型のフローティングピンに対し、平らな“面”とすることで接触面積を増やし、回転方向のガタをより少なくしてブレーキタッチのダイレクト感をアップするという工夫だ。
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