バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はエンジンバルブシステムを表す“デスモドロミック”。イタリアのバイクメーカー・ドゥカティの代名詞的機構だ。

そもそも『デスモドロミック』とは?

デスモドロミックといえばドゥカティであり、ドゥカティといえばデスモドロミック…というくらい、デスモドロミックはドゥカティが好んで採用する“強制開閉”のバルブ機構だ。


デスモドロミックなんてかっこいい名前がついているが、分類的にはシリンダーヘッドに2本のカムシャフトを持つ、DOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)の亜種と思っていて、“おおむね”間違いない。“おおむね”なんてまどろっこしい書き方をしたのは、SOHCのエンジンでもデスモドロミック化は可能であり、そういうエンジンもある。ただ、そもそもとして高回転化のために生まれた技術なのでその効果を最大限に発揮させるには“水冷”、“DOHC”、“4バルブ”といった、より高回転化が可能な機構と組み合わされる。

一般的なオーバー・ヘッド・カムシャフト系の動弁機構と、デスモドロミックの動弁機構の違いは、バルブの閉め方にある。エンジンのバルブは、DOHCにしろSOHCにしろ、開く時にはカムシャフトからの動力でバルブを押し下げるが、閉じるときの動きはスプリングによる反力で行うのが一般的。

ただ、さらなるエンジンの高回転化、高出力化を突き詰めていくと、“スプリングの反力っていってみればメカニカルロスだよね? 閉じ側も機械式にすればスプリングの反力は最小限になって、よりバルブタイミングを早く正確にコントロールできるんじゃないの!?”と生まれたのがデスモドロミックだ。

なのでドゥカティのデスモドロミックの構造図を見ると、バルブを戻すためのスプリングがなく、バルブを機械的に“引き上げる”ための爪がある。このためデスモドロミックは強制開閉バルブシステムとも呼ばれる。

デスモドロミック

ドゥカティのデスモドロミックを採用したシリンダーヘッド。バルブを押し戻すためのスプリングがなく、爪のようなものがバルブを下から支持している。

 

デスモドロミック

爪をもったアームがバルブを“強制的に”引き上げて閉めるのがデスモドロミックの構造的な特徴。

 

ムルティストラーダV4

参考までに、スプリングを持つ一般的なDOHCエンジンも紹介しておこう。写真は最新のムルティストラーダV4 Sの“V4グランツーリスモエンジン”のバルブシステム。それほど高回転側が必要なく、中低回転域のトルク特性が重要視されるアドベンチャーモデルのために、わざわざベースのV4エンジンからデスモドロミックシステムを廃してスプリングでバルブを戻す機構を採用。6万キロというメンテナンスサイクルを実現している。

 

『デスモドロミック』のなにがスゴイの!?

『エンジンが超高回転型になる』

…ってことだ。そもそも高回転に向くDOHCエンジン。さらにデスモドロミックを使えばさらなる高回転化が可能だ。バルブの戻りをスプリングの反力に頼る一般的な動弁機構では、どうしてもバルブを押し下げる際にスプリングの反力による動力ロスが生まれる。またスプリングの反力以上の速度、正確さでバルブを閉める動作ができない。

一方のデスモドロミックでは、バルブの開閉操作を機械的に操作するため押し側だけでなく、戻り側も早く正確に動かすことが可能。超高回転域でもバルブの駆動を安定させられ、伸びが良くなるとともに限界回転数も引き上げられる。

このデスモドロミックは、世界最高峰のロードレース選手権であるモトGPのマシンにも採用されており、ドゥカティの直線の伸びの強さはこの高回転化が可能なデスモドロミックが下支えしている。

ドゥカティは1956年から『デスモドロミック』を採用

デスモドロミック

ドゥカティのデスモドロミックの歴史は、今から60年以上前の1956年まで遡る。1956年といえばヤマハが初めてのバイク・YA-1(通称:赤とんぼ)を発売した次の年。当時は均一な性能のスプリングを作るのが難しかったこともあり高回転化が難しかったが、レーサーに採用されたエンジンはこのデスモドロミックのおかげで1万2500回転まで回ったという。

 

デスモドロミック

デスモドロミックはもちろん現代のレースシーンでも現役。写真は2008年に限定発売されたモトGPマシンを公道仕様にしたデスモセディチRRのエンジン。当然デスモセディチの“デスモ”はデスモドロミックのことだ。

 

 

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