バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はエンジンが吸気を行う際に燃焼させる混合気を作る“フューエルインジェクション”。近年の電子制御技術を語る上で不可欠なパーツだ。
そもそも『フューエルインジェクション』とは?
FI(エフアイ)、インジェクションなんて具合に訳されたりもするけど、正式にはフューエルインジェクション。直訳すれば燃料噴射(Fuel injection)とそのまんま。役割もそのまんまでフレッシュエアがシリンダーが吸い込まれる際にガソリンを噴霧して混合気を作っている。
四輪の世界では随分と昔からこのフューエルインジェクションが一般化しているが、バイクは2008年あたりを境に一気に普及。というのも、このころ世界的にバイクの排出ガス規制がとても厳しくなった。それまでの主流だったキャブレターでは環境性能的に対応できなくなり、車両メーカーはフューエルインジェクション化への大変革を迫られたのだ。結果、2008年の規制強化を境に人気モデルはフューエルインジェクション化による存続が行われたが、カワサキのバリオスⅡや、ホンダのホーネット250といった多くのモデルがそのまま消えていくことになる。あのヤマハのSR400ですら、インジェクション化のために販売を一時中断したくらいの大騒ぎだった。
2022年現在、国産メーカーの公道用モデルでキャブレターを採用しているモデルはなく、全てのモデルがフューエルインジェクションとなっている。黎明期の2000年代後期には、まだ技術やノウハウが確立されておらず従来モデル比で大幅なパワーダウンや著しいキャラクター変化が目に付くモデルもあった。ただあの大変革から10年以上が経ち、もはや現代のバイクはフューエルインジェクションなしでは成り立たないほどのキーデバイスとなっている。
キャブレターからインジェクションへの過渡期を知る筆者としては、もはやキャブレターはあまりに前時代的で時代遅れな技術になったように思える。よく「バイクはキャブレターじゃないと…」なんて昭和世代の意見も聞こえてくるが、正直、使い勝手や環境面だけでなく、走行性能やエンジンフィーリングにおいてもインジェクションの方がもはや優れている。…とは言っても、レコードやフィルム写真のように、手間がかかったり、味わいを大事にするなら、もちろんキャブレターのバイクに乗るという選択もアリ。僕自身キャブレター車(しかも2スト)を一台所有しているが、フューエルインジェクション車の方が手間がかからず確実で、しかもエンジン特性が優れているのは身に染みている。
そんなフューエルインジェクション唯一の弱点といえば、バッテリーが上がってしまったときに押しがけが“しにくい”ということだろうか。フューエルインジェクションは、ガソリンをポンプで圧送してインジェクターから噴射するため、キャブレターのバイクよりも大きな始動電力が必要なのだ。
“しにくい”、なんてわざわざ強調したのは、実際のところはやってみないとわからないからだ。フューエルインジェクション車とはいえ、いきなりバッテリーがすっからかんになることは珍しい。セルモーターを回すような大きな電力は出せないが、システムが起動してポンプくらいは動かせる電力が残っている場合も多い。そんな状況であればフューエルインジェクション車であっても押しがけは普通に可能なのだ。
以前、ヘッドライトを付けっぱなしで撮影してフューエルインジェクション車のバッテリーを上げてしまったことがあったが、その時は少々の押しがけしたくらいでは始動できなかった。そこで長い急坂で惰性走行。スピードが35〜40km/hぐらい出たところで、押しがけと同じ要領でクラッチを繋いで無理矢理エンジンをかけたこともある。状況的に、押しがけ時の速度が上がったことにより、オルタネータの発電量がアップしたことでフューエルインジェクションなどの部品がしっかり作動したということだろう。
『フューエルインジェクション』のここがスゴイ!
①燃費がよくて、環境にもローインパクト!
必要な時に必要な量のガソリンを噴霧できる。例えばスロットルを戻してエンジンブレーキをかけるような場合、キャブレターはガソリンが供給され続けるので無駄が多いが、フューエルインジェクションならスパッと供給を止められる。このためフューエルインジェクション車はキャブレター車とは比べ物にならないくらい燃費がいい。キャブレター車の後ろを走ると、未燃焼ガスの匂いがすることもあるが、フューエルインジェクション車ではそんなことはないのだ。
それにエンジン回転数や大気圧、温度に合わせて供給量を変更し、最適な燃調を設定できるのも大きなポイント。つまり気温や標高による気圧の変化があっても、燃調を自動で調整するのでキャブレター車のように走行環境に左右されて調子が悪くなるなんてことがない。またキャブレター車は、エンジンの回転数が安定するまでアイドリングの様子をみる暖機運転なんて作業が必要だったが、インジェクション化によって“暖機運転”なんて言葉はほぼ死語になってしまった。これもエンジン温度によって燃料を自動で調整しているフューエルインジェクションだからこその恩恵である。
②長期保管に強い!
昔、エンジン不調の原因の90%はキャブレターにある…と言われたくらいキャブレターはデリケートなパーツだ。混合気が濃すぎても、薄すぎてもエンジンは不調をきたす。またキャブレターにはフロート室と呼ばれるガソリンを一時的に溜めておく場所があり、これがちょっと厄介だったのだ。
冬季に乗らなかったり、1年放置したりするとこのフロート室の内部のガソリンがどんどん気化して粘性の高い“澱”のようなものが溜まったり、ガソリンそのものが変質して腐ってしまったり…。そんな状況でエンジンをかけようとすれば、そんな澱がフューエルラインに流れてキャブレターが目詰まりするなんてことがよくあったのだ。こうなるとアイドリングは安定しなかったり、なんだか吹け上がり方もおかしくなる。
一方、フューエルインジェクション。燃料タンクの内部以外、ガソリンが大気に触れる場所がないので燃料はいつでもフレッシュ。半年、1年と少々バイクを放置したところで不調になることが少ないのだ。
③電子制御との相性がいい!
最近のバイクには、クルーズコントロールに、トラクションコントロール、ウイリーコントロールなどといった電子制御システムが搭載されているが、エンジン出力に関するコントロールを行うこれらの電子制御システムはフューエルインジェクションありきの技術。トラクションコントロールに関しては、キャブレター時代にもありはしたが、“後輪の空転を検知して意図的にプラグを失火させる”という非常に簡易的なもので、現代の点火タイミング調整はもちろん、燃調、バタフライバルブの動きまでコントロールする現代の電子制御とは大きく異なる。
またこれら特別な電子制御システムを積んでいなくても、フューエルインジェクションを搭載していれば、低回転側と高回転側でガソリンの濃さである燃調をマップ次第で簡単に設定できるため、中低速域では力強いトルク特性で高回転になるに従って燃調を変えて伸びやかにする…なんて全域性能がフューエルインジェクションでは作りやすい。低回転重視か、高回転重視か、どちらか寄りのセッティングしかできなかったキャブレターでは考えられなかったことだ。
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