バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はエンジン用語の“4バルブ”だ。

そもそも『4バルブ』とは?

XR650R系のエンジン

ピストンよりも上、シリンダーヘッドにあるラッパを伏せたようなパーツがバルブで、名前の通り役割は“弁”。吸気用2コ、排気用2コで、合計4つのバルブがあるエンジンを“4バルブ”と呼ぶ。写真はHONDA・XR650R系のエンジン。

 

 

密閉されたシリンダーの中で混合気に火をつけ、その膨張力を動力として取り出しているエンジン。ドカンと1発燃やしてそれきりならバルブなどなくてもいいのだが、連続回転して動力源にするとなると排気と吸気を行う必要がある。つまり燃焼が終わったら、速やかに①"排気ガスを排出”し、新たに②"混合気を取り入れ”て、圧縮するために③"きっちり密閉”しないといけない。そのために必要なのがバルブで、いわばエンジンのキーデバイスとも言える存在だ。

KTMのシングルエンジン

4バルブ単気筒エンジンのピストンとバルブシステム。カムチェーンがカムシャフトを回すとバルブが押されて吸排気の流路が開く。閉じる動きはスプリングで戻すのが一般的。イラストはKTMの690系のシングルエンジン。

 

バルブは、エンジンのなかで一番複雑かつ精密な動きが必要とされるパーツ。以前のDOHCの話でもさせてもらったけど、エンジン高回転化の歴史は、バルブシステムの進化の歴史と言ってもいいくらい、エンジンにとって重要なパーツだ。

GSX-R1000R系のバルブ

バルブは吸気と排気が対になっており、よりたくさんの混合気を通せるように吸気用はバルブヘッド(皿状のパーツ)が大きく、逆に排気用はひとまわり小さい。写真はSUZUKI・GSX-R1000Rのバルブで素材は軽量なチタンを使っている。

 

その役割は、①排気ガスを排出、②混合気を取り入れる、③きっちり密閉することの3つ。どれも重要な仕事だが、エンジン高出力化に特に重要となるのは“②混合気を取り入れる”部分。

どんなに精度が高く、フリクションロスのない超高回転に対応するエンジンであっても、その回転数は混合気の供給量に左右されてしまう。燃やす材料である混合気を十分に用意できなければそこでエンジン回転数は頭打ち。いくらアクセルを開けたところでそれ以上は回転数は上がらなくなってしまう。

ならば、混合気の通る通路を大きくすれば、より高回転化が可能じゃない!? 吸気と排気がそれぞれ1個ずつの2バルブよりも、4バルブにした方がより通路が太くできて大きな流路を確保できるよね!? と生まれたのが4バルブというワケだ。

valve_04

バルブシリンダーヘッドを裏返して(シリンダー側から)見てみたところ。丸い4つのパーツがバルブヘッドで、ピッタリとハマることでエンジン密閉する。写真はKTMのエンデューロモデル・250EXC-F系のシリンダーヘッド。

 

『4バルブ』のなにがスゴイの!?

それだけ高回転、高出力型エンジン

…ってことだ。混合気をたくさん吸い込んで、排気ガスを素早く排出するために、バルブの数を増加。流量さえ増やせるなら2バルブのままでバルブ径を大きくしてもよかったが、吸排気バルブを小さくして2つずつにしたほうがより流量が増やせて、バルブ1つあたりの重量も軽くできた。結果的に2バルブでバルブ径を大きくするより、バルブの数を増やした方が混合気の充填効率的には都合がよかったのだ。

GSX-R1000R系のDOHCカムシャフト

写真は、GSX-R1000RのDOHCカムシャフトとバルブシステム。4気筒にそれぞれ4つのバルブがあり合計16本となる。

 

よくバイクや車などのカタログには、誇らしげに“4バルブ”なんて書かれていたりするけど、つまりは“それだけ高回転まで回るスポーティなエンジンを積んでいるんですよ”ということをアピールしたいのだ。またクルマなどでは、“16バルブ”なんてすごい数が書いてあることもあるけど、これは1のシリンダーに16個のバルブがあるわけじゃなくて、“4バルブのシリンダーが4つ並んでいる4気筒エンジンですよ!”ってことだ。

ヤマハ・ビーノの3バルブ

3バルブエンジンもあり、2コあるのが吸気側で1個が排気側。写真はホンダに業務委託する前のYAMAHA・Vinoのシリンダーヘッド。

 

実際、4バルブのエンジンは2バルブのエンジンよりも高回転型でレッドゾーンも高め。つまり同じ排気量なら4バルブの方が高出力になる。では4バルブエンジンは2バルブエンジンよりも優れているか? と問われると、そうとはならないのがエンジンの面白いところだ。というのも、4バルブエンジンは高回転側の伸びは素晴らしく良いけど、低回転域では流路が大きすぎて、吸い込んだ混合気が排気バルブから抜けてしまう“吹き抜け”が発生しやすい。結果、アイドリングが安定しなかったり、低速でのトルクが弱くなる、“いわゆる下がない”エンジンになりがちだ。

この現象はピストンの下降に伴いシリンダー内に吸引される混合気の流速が関係してくる。例えば飲み物をストローで吸っているときのことを思い出してみよう。細いストローから上がってくる液体の量は少ないけど勢いがあり、口の中に含める量も調整しやすいよね。次に太いストローだとどうなるか? 口の中へ流れ込む量は多くなるけど、今度は口に含む量の調節がしにくくなる。また、ものすごく喉が乾いてたくさん水分を摂りたい時には、ストローなんていくまどろっこしいことはやめて、大きく口を開けて、口に含む量など気にせずカバカバと流し込みたいハズ。

バルブも同じで、エンジンがゆっくり回っている間は流路を細く絞って、勢いを出しつつも微妙な調整を容易にしたい。一方、高回転域ではとにかくたくさんの混合気が欲しいので流路は広い方がいいというわけ。

それに流体力学的にも、低回転時には混合気の通り道は狭い方が、混合気の流速があげられて、より混合気がシリンダーに吸い込まれやすくなる。よく室内を換気する場合に、窓を全開にするよりも片方の窓をほんの少し開けた方がより効率的に室内の換気が行える…なんて話を聞いたことはないだろうか? 同じことがシリンダー内部でも起こるため、低回転域では混合気の流入通路を細く絞っておきたいのだ。

ヤマハのモトクロッサー系のモデル

世の中には5バルブなんていうエンジンも存在した。写真はヤマハのモトクロッサー系のモデルのシリンダーヘッド(現在は4バルブ化)。吸気側のバルブを3つにすることで混合気の吸気効率がアップするとともに、流れを“細くし”シリンダー内部で渦を巻くようにコントロールすることで充填効率もアップ。高回転側の伸びはもちろんだが、充填効率をよくすることで低速のトルクも失わないようにした。

2バルブと4バルブでエンジンのキャラクターがわかる

バルブの数とエンジン特性の関係で言えることは、2バルブエンジンは中低速重視で、4バルブエンジンは高回転域重視ということ。つまり、とにかくエンジンをブン回してファンファンと甲高い音をさせて気持ちよく走りたい!という人には、4バルブエンジンがオススメ。

スズキのVストローム250、GSX250R

SUZUKI Vストローム250、GSX250R系の2バルブエンジンの透視図。

 

逆に2バルブのエンジンは低速域が力強く、吹け上がり方もおっとり気味で動弁方式もOHCが採用されることが多い。発進時からガツンというパワーが欲しいとか、エンストしにくくUターンしやすいバイクが欲しいのであれば2バルブのエンジンを選ぶといい。

ただ低回転域重視の2バルブと高回転域重視の4バルブ。どっちかの特性じゃなくて、両方のいいところを備えたバイクはないのかって? 実はそういう都合のいいことを考えたエンジンもある。それらは可変バルブ制御システムや可変バルブタイミングシステムをいった装置を備えたエンジンたちだが、ホンダで言えばHYPER VTEC(ハイパーブイテック)が有名だ。この“可変バルブ制御システム”や“可変バルブタイミングシステム”の話は次回のこのコーナーでお伝えしよう。

 

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