バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は前回に引き続きエンジン用語、“可変バルブ機構”だ。

そもそも『可変バルブ機構』とは?

前回はエンジンのキーデバイスであるバルブやその数の意味を説明しました。ざっくり言えば2バルブのエンジンは“低回転型”で4バルブのエンジンは“高回転型”という話。低回転型のエンジンは、中低回転域で発生する力強さが特徴だが頭打ちが早く高回転まで回りにくい。逆に高回転型エンジンは最高速など、高回転側の伸びはいいが、低回転域に粘りがなく、押し出し感というかトルクが希薄になりがち。これらの性質は、シリンダー内に流入する混合気の量や流速などによっておおまかに決まってしまう。

つまり2バルブか? 4バルブか? エンジンの設計が決まった段階である程度のエンジンキャラクターも定まってしまうのだ。ただ実際にバイクで走ることを考えると、低速域ではエンストしにくい力強さ、トルクが欲しいし、高速道路などでの余裕を作るために高回転まで良く回る方がいい。

エンジンの開発者たちは、そんな低回転域から高回転域まで使いやすく、楽しいエンジンを開発するために頑張ってきた。そんな中で生まれた画期的な機構が今回紹介する“可変バルブ”なのだ。

バルブが休止する、可変バルブ“制御”システム

2バルブと4バルブでエンジンのキャラクターが変わるなら、低回転域では2バルブ、高回転域なると4バルブに切り替わるように作ればいいんじゃない? 低回転域では力強い加速、そして高回転までしっかり回る全域性能のエンジンができるんじゃない!?  …と生まれたのがこの可変バルブ制御システムだ。

ホンダのVテック

可変バルブ制御システムの概念図。左の低回転域では吸気と排気のバルブ1つずつが動き。右の高回転域になると、吸気側2つ、排気側2つの計4つのバルブが作動する。

 

有名なのは、ホンダのCB400スーパーフォアのエンジンに搭載されているHYPER VTEC(ハイパーブイテック)。4バルブエンジンだが、低回転域では2バルブだけでエンジンを回し、ある一定の回転数を上回ると4バルブシステムへと切り替わる。


中低回転域では潤沢な低速トルクを発生させるために2バルブにして流入面積を減らす。おかげで混合気が排気バルブへと吹き抜けてしまったり、圧縮時に押し戻しを防止。また流速を早めることでシリンダー内への混合気の充填効率をアップしている。逆に高回転側になるとより供給量のキャパシティが多い4バルブとなって、高回転までしっかり回るようになるというわけだ。

ホンダでは1983年登場のCBR400Fに二輪車として初めて可変バルブ制御システムを採用。“回転数応答型バルブ休止機構(REV)”と呼んだ。

1983年・CBR400F

1983年・CBR400F

CBR400FのREV機構

CBR400FのREV機構。カムシャフトからバルブへと駆動を伝えるロッカーアームにスライドピンを設け、高回転域になるとピンが油圧で押し込まれて4バルブ化するようになっている。

 

その後、CB400スーパーフォアには1999年からHYPER VTEC(ハイパー ブイテック)を搭載。CBR400FのREVとの違いは、HYPER VTECがカムシャフト直押しタイプのバルブ休止機構なのに対し、REVはロッカーアームタイプのバルブ休止機構であることだ。

1999年・CB400SUPERFOUR

1999年・CB400SUPERFOUR

 

この他、大型車両のVFRにも2002年から“V4 VTEC”を搭載。やはり一定回転数に達すると2バルブから4バルブに切り替わるシステムである。VFRは2バルブから4バルブに切り替わったときの音や加速感の変化が顕著で、ライダーに“4バルブになった!”としっかり感じさせるような乗り味になっていた。

一方のCB400スーパーフォアは、年式によってHYPER VTEC効果の表れ方がかなり違う。ちなみに現行モデルは初代とは違い、わざと2バルブから4バルブへの切り替わりがわかりにくい…というか、加速感に継ぎ目が目立たない、自然な味付けが追求されている。

2002年・VFR

2002年・VFR

VFRのV4 VTEC

VFRのV4 VTEC。カムシャフトが直押しする部分にピンを出し入れすることでバルブを駆動させたり、カットしたりしている。

カム山が切り替わる、可変バルブ“タイミング”システム

ただ近年、この全域性能を求めて混合気の供給量を切り替えるシステムは、ホンダのVTECのように“バルブを休止”させる機構ではなく、バルブのリフト量と吸気/排気バルブの開閉タイミングをコントロールする“可変バルブタイミング”が主流になってきている。

例えば、BMWのR1250系エンジンに搭載された“シフトカム”やヤマハのNMAXやWR155Rなどに搭載されている“VVA”も可変バルブタイミングシステムだ。

BMWのシフトカムエンジンの透視図

BMWのシフトカムエンジンの透視図。DOHCのカムシャフトに山の大きさの違う2つのカムが並んでいるのがわかる。

BMWのシフトカムエンジンの透視図

高い方が高回転用のカム山で、低い方が低回転用のカム山。しかも、よく見ると同じ吸気カムでもカム山の高さ(カムプロフィール)が左右のバルブで若干異なっている。BMWのR1250シリーズのシフトカムエンジンの透視図。

 

バルブが休止するタイプと機構は全く違うが、考え方や目的に関しては一緒。全域性能のために低回転域ではリフト量を減らしたり、吸排気バルブの開いている時間を短くして吹き抜けを防止。一方で高回転域では、吸排気バルブの開いている時間(オーバーラップ)を長くしたり、バルブ大きく開いたりして供給量&吸気効率をアップしている。カムプロフィールを変更することにより低速域のトルク感と高速域での伸びを両立させているのだ。

YouTubeのヤマハ発動機公式チャンネルにわかりやすいVVA(バリアブル・バルブ・アクチュエーション)の技術解説動画があり、引用許可も取れたので紹介させてもらおう。

出典:ヤマハ発動機公式チャンネル

 

仕組みとしては、ある一定の回転域に達すると、カムシャフトがスライドして低回転域用のカムから高回転域用のカムに切り替わる。BMWのR1250系にも、ヤマハのNMAXやWR155Rにも試乗したことがあるが、ある回転数を境にキャラクターが豹変するなんてことはなく、その切り替わりはとてもスムーズな印象を受けた。

その一方で、効果に関しては非常によく体感できた。特に顕著だったのがオフロードモデルのWR155R。155ccという小さな排気量ながら最高出力を1万回転で発揮。高回転までしっかり回る一方で最大トルクの発生回転数を6500回転と低めに設定。VVAがオフロードバイクに必要な低速域で力強いエンジン特性を引き出しながら、一方で高速道路を走れば時速120kmも出せるほど高回転側の性能も両立させたのだ。

面白かったのは、このWR155RのVVAは7000回転を境にカム山が切り替わるのだが、エンジンの傍で聞き耳をたてていると7000回転で“カチッ”とカム山が切り替わる音がすること。これを聞くとカムが切り替わってる実感がすごくわく。

ヤマハのWR155R系のエンジン

VVAを搭載するヤマハのWR155R系のエンジン。画面上側、シリンダーヘッドの向こう側に飛び出ているのがカムプロフィールを切り替えるVVAアクチュエーターで、7000回転を境にこのパーツが“カチッ”と音を立てて作動する。

『可変バルブ』のなにがスゴイの!?

低回転域から高回転域までワイドレンジ!

可変バルブ制御システムにしろ、可変バルブタイミングシステムにしろ、ワイドレンジな全域性能を求めてこれらのシステムを搭載している。ライダーは欲張りな生き物。高回転域でのトップスピードを追求したエンジンを作れば「高速での伸びはいいけど発進時の低速トルクが希薄だね…」なんて言う。逆に低回転域重視のエンジンを作れば、「発進時の低速トルクは強くてパンチがあっていいね。エンストもしにくい。でももう少し高回転側が伸びると最高なんだけど…」と言い始める。そんなワガママなライダーの要望に応えるべく、低速重視か? 高速重視か? どちらかのキャラクターに傾くことなく、低速から高回転域までいいとこ取りするのが“可変バルブ”システムの最大の効用なのだ。

 

 

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