バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなバイク関連のキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回はエンジン内部のシリンダー内壁に直接めっき処理を施す『アルミめっきシリンダー』に注目!
そもそも『アルミめっきシリンダー』とは?

シリンダーの内壁に耐摩耗性を高めるニッケルを主としためっき加工を施すのが『アルミめっきシリンダー』。写真のカットモデルはスズキのV-STROM800/DEのシリンダーで、メッキ処理された内壁にヘアライン加工という細かなキズを入れオイル保持をよくしている。
エンジン内部でピストンが上下するシリンダー(内筒)の内壁に“めっき加工”を施したものが『アルミめっきシリンダー』。二輪車としては、スズキが1975年に発売したロータリーエンジン搭載のRE-5で初めて実用化に成功した技術である。

SUZUKI RE-5(1975年)。西ドイツNSU・バンケル社とロータリーエンジン特許の契約を結び、国産メーカーの市販二輪車として唯一ロータリーエンジンを搭載することになったRE-5。ロータリーエンジンという強烈な個性に隠れて見逃しがちだが、『アルミめっきシリンダー』が二輪車として初採用されたのも、この水冷497ccのロータリーエンジン(62ps)なのだ。
スズキが開発した『アルミめっきシリンダー』の技術、“SCEMめっきシリンダー”の特徴は、ニッケル(元素記号:Ni)を主体とするめっき加工に、リン(元素記号:P)を加えることで飛躍的に硬度を向上させているところ。ピストンが摺動するシリンダー内壁にこの鉄よりも硬いめっきを施すことで、ほぼ摩耗しないシリンダーを作ることに成功した。

その硬い皮膜でエンジン耐久性アップに大きく貢献している『アルミめっきシリンダー』。「メッキが剥がれる」なんて慣用句があるが、ちょっとやそっとでは剥がれないのが『アルミめっきシリンダー』なのである。
『アルミめっきシリンダー』の特許は、スズキとParker社(米)が保持しており、当時『アルミめっきシリンダー』を作るにはどちらかに外注するほかなかったが、パテントが切れたことから現在では多くのバイクメーカーが『アルミめっきシリンダー』に取り組んでいる。
『アルミめっきシリンダー』のここがスゴイ!
とにかく硬くて摩耗が少ない!
スズキが開発したSCEM(Suzuki Composite Electrochemical Material)めっきシリンダーの特徴は、何度も繰り返すようだが兎にも角にもまずは“硬度の高い皮膜を形成する”というところにある。というのも『アルミめっきシリンダー』のニッケル系めっきで作られる皮膜はとにかく硬くて耐久性に優れるため、ピストンが何万回、何千万回と上下しても“ほぼ摩耗しない”耐摩耗性を持っている。
そもそも『アルミめっきシリンダー』が登場する前は、耐摩耗性の低いアルミシリンダーにアルミよりは耐摩耗性に優れる鋳鉄スリーブ(内筒)を打ち込みこの中でピストンを上下させていた。……が、常にピストンが高速で上下するため走れば走るほど鋳鉄スリーブの内壁は摩耗する。過走行によりひどい摩耗が進行すれば、やがてオイルが過剰に燃焼室に入り込む“オイル上がり”で白煙を吹いたり、正常な圧縮比が得られなくなってパワーダウンを起こすため、新しい鋳鉄スリーブを打ち替えたり、再ホーニングしてオーバーサイズピストンに換装したりする必要があった。

2003年に5万9800円という破格のプライスで発売されたスズキのチョイノリ。『アルミめっきシリンダー(SCEMめっきシリンダー)』が素晴らしいのは決して高級車だけに採用される特殊な技術ではなく、チョイノリのような低価格なバイクにも採用されていること。“小・少・軽・短・美”をものづくりの理念とするスズキらしさが最もよく現れた技術がこの“SCEMめっきシリンダー”というわけである。
ところがとても硬い皮膜を形成でき、鋳鉄スリーブよりもはるかに摩耗の進行を低減できる『アルミめっきシリンダー』が登場してからは、シリンダーの耐久性が飛躍的にアップ! オーバーホール時にもピストンを交換するだけで済み、“再ホーニング”や“オーバーサイズピストン”なんて言葉が死語になるくらいの技術革新を引き起こした。
ただ、この『アルミめっきシリンダー』は、耐久性に優れる一方で非常に硬いため、めっき後の加工にはダイヤモンド砥石によるホーニング(研磨)が必要になるくらい加工難易度が高いのが問題だった。

スズキは、このめっき後の加工が難しい『アルミめっきシリンダー』の問題ついて、そもそものめっき加工に使う薬液の成分から見直し、めっき加工そのものの精度をあげる技術を確立。2026年モデルのGSX-R1000Rにこの技術を採用している。
熱膨張率/熱伝導率が均一!
この世の大抵の物質は熱せられると膨張して体積が増えるものだが、アルミや鉄といった金属は特にその膨張具合が激しい。しかも、ピストンやシリンダーの母材であるアルミとシリンダーのスリーブに使われる鋳鉄(スチール)では膨張の度合いが異なり、ピストンとのクリアランスの変化や歪みが発生。特に水冷エンジンと違って熱膨張の影響を受けやすい空冷エンジンではオイルの過剰消費の原因となっていた。

シリンダーの内筒に直接めっきを施すことで熱膨張率や熱伝導率が均一になり、エンジン性能が熱(膨張)に左右されなくなった。また鋳鉄を使わないことでエンジンの重量を軽くできるのも『アルミめっきシリンダー』の大きな利点だ。
ところが『アルミめっきシリンダー』であれば、母材のアルミに直接めっきを施すため、熱膨張率の違う鋳鉄製のスリーブを入れる必要がなく、ピストン(アルミ)とシリンダー(アルミ)の熱膨張率は一緒になる。これにより温度変化による熱膨張が起きたところでピストンとシリンダーの隙間は均一のまま保てるようになった。昔のバイクよりエンジン性能が安定化し、高圧縮比化が可能になったのには『アルミめっきシリンダー』の功績が少なからずあるというわけだ。
またピストンとシリンダーで鍛造や鋳造の違いはあるにせよ、同じアルミ素材であれば熱伝導率も近く、鋳鉄(スチール)よりも冷却効率が非常によくなる。

『アルミめっきシリンダー』は鋳鉄シリンダーに比べて摩耗が極端に少ないのが特徴。写真はヤマハ・XJR1300のシリンダー。
スーパーチャージャーやDOHCのように大仰でわかりやすくもなければ、見た目も決して華々しいワケではないが、“安心”、“安全”、“高耐久”が当然のように求められる現代のバイクにとって欠かせない大事な技術が『アルミめっきシリンダー』というわけだ。
『アルミめっきシリンダー』ではないがヤマハのDiASil(ダイアジル)シリンダーもスゴイ!
ヤマハでは“アルミライナーへのめっき加工”や、シリンダーに直接めっき加工を行う“ダイレクトめっき”など、耐摩耗性に優れる『アルミめっきシリンダー』を使っているが、めっきや鋳鉄スリーブを使わずに耐摩耗性アップを果たしたヤマハの独自技術が“DiASil(ダイアジル)シリンダー”だ。

ヤマハの“DiASil(ダイアジル)シリンダー”も、鋳鉄スリーブを使わないので『アルミめっきシリンダー』と同じように、熱膨張率や熱伝導率の違いによる問題を解決することができた。
ヤマハの“DiASil(ダイアジル)シリンダー”では、めっきのような皮膜を作るのではなく“シリンダーブロックの母材であるアルミの表面硬度をあげる”ことに注力。アルミへのシリコン(元素記号:Si)含有率を飛躍的にアップさせることで、『アルミめっきシリンダー』と同じように高い耐久性を実現したのがメッキレス・オールアルミ製シリンダー“DiASil(ダイアジル)シリンダー”なのである。

鋳鉄スリーブも『アルミめっきシリンダー』も使わず、母材であるアルミに工夫を加えることで耐摩耗性をアップしたヤマハの“DiASil(ダイアジル)シリンダー”。写真はグランドマジェスティ250のエンジンカットモデル。
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